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十数年前のユルい就職活動記

私が最初に就職したのはリーマンショック直前、私より上の世代も下の世代も「氷河期」だったので特異点だった。

下の世代の就職活動についてニュースで聞く「100社にエントリーシートを送って内定ゼロ」みたいな話を聞いて驚いたし、さらに昨今ではオンライン化していて、おそらく私の知る就職活動とは別物になっているだろう。

自分の経験について書き残したところで、現役世代には何ら参考にならないけれど、一周回って歴史のアーカイブみたいな意味を持つんじゃないかと思った。「わしの若い頃は...」という昔話として聞いていただければ幸い。

理系学生の就活は修士2年生の春頃

巷で就職活動と言えば、学部3年生ごろから説明会に行って情報収集やらインターンやらに精を出して、4年生になると同時にエントリーしだすイメージだろうか。

お話の舞台は、どこにでもある国立帝大の理系学部になる。3年生時点では単位を取るのに必死だし、8割くらいの人が4年生の夏に院試を受けて大学院に進学するので、学部では就職活動を意識すらしない。理系学問はルール説明の下積みだけで学部4年が終わってしまい、ようやく大学院からゲームに参加できるイメージ。本格的な就職活動は、修士1年生に持ち越される。

例に漏れず学部3年で編入した私は単位取るのに必死で、就職活動について考える余裕も無かった。とは言え、みんなが思考停止して大学院に行くのもどうかと思うし、昔の自分に助言できるならば「進学するにせよ就職活動を調べておいて良かったんちゃう?」とは言いたい。

学校推薦と自由応募

志望する企業によって、エントリー方法が「学校推薦」と「自由応募」に分かれる。

学校推薦は読んで字の如く学校が推薦してくれて、当時は「よっぽど素行に問題がない限り、応募すれば内定が出る」と言われていた。ただし、内定を辞退できない制約はあった。コネ入社のようにも見えるけれど、ある意味では合理的な制度だった。学生が就職活動で時間を潰すよりは、研究に専念して成果を出した方が、学校・企業の双方にとってWin-Winなのだ。

近所のおばちゃんでも名前を知っているような大きなメーカーは、たいてい学校推薦があった。採用情報サイトからコンタクトを試みようと、結局は学校推薦のルートに誘導されるので、学校推薦の企業に自由応募で受けるようなことはできない。身の回りの同級生も学校推薦で受ける人の方が多かった。

イケイケのシンクタンクやIT企業なんかは自由応募が多かった。基本的には学校推薦のある企業の方が安定した企業(VUCAな今になっては安定なんてどこにも無い)だったので、自由応募でキメると周囲から「勇気あるなぁ」と言われていた。学校推薦が夏頃から選考が始まるのに対して、自由応募は春ごろには決着が付くので練習がてらエントリーする人も多かった。

先輩が飯を奢ってくれるチャンス

自由応募に応募している裏側で、学校推薦のある企業からOBがリクルーターとして研究室に訪問してくる。昨今はOG/OBやOPと書くのが適切かもしれないけれど、私の研究科は男女比が10:1を切っていたし、見える範囲でOG訪問は無かったので、文字通りOBだった。

たいてい、OBと繋がりのある学生が日時・場所を取りまとめ、近くの研究室のメンバーにも声をかけて集客し、小規模な説明会を執り行う。人数が少ないと体裁が悪いので、集客が必要になるのはライブのチケットを手売りする感じに近い。

私は研究室の幹事をやっていて、飲み会にOBをたくさん呼んでお金を徴収して学生の参加費を下げることに躍起だったため、引き換えに沢山のOBから取りまとめを依頼された。OBが高い会費を払って研究室の忘年会に来るのも、スムーズなリクルーター活動の一環と考えれば納得いく。

そんな説明会を無事に終えると、何人かのコアメンバーで飲みにつれて行ってくれる。私にとって、この繰り返しが就職活動だった。

工場見学からスナックまで

学校推薦のある企業の採用プロセス(?)として、先ほどの節で書いた説明会→飲み会に続き、もっと会社のことが知りたい人は工場見学へと駒を進める。そこまで志望度が高くなくても、本命の学生1人を取り囲むのもプレッシャーになるので、「にぎやかしでいいから来て」と誘われることもある。

関西から関東に移動する新幹線代も企業持ちで、ヘヴィ業界やメタル業界なんかに訪問した。無知な学生ゆえに、普通は社外の人に見せないだろう裏側までを見せてくださった。今思うと、社会見学できる格好のチャンスだった。

「ヘルメット酒」の儀があると噂されていた業界に訪問した際は、見学→食事→飲み→スナックという流れだった。年の近いリクルーターの先輩に「ぶっちゃけいくらくらい貰ってるんですか?」のような質問をぶつけても許される。「Q: ヘルメット酒って今でもあるんですか?」「A: ハレの日は金のヘルメットに注がれるけど、無理に飲まなくても頭から被っても大丈夫だよ」真摯に答えてくださった。

そこそこ年配の社員も同席していて、私たち学生にあれこれ質問を投げかけた。何件目かに行ったスナックでも、常にシッカリメモしながら話を聞いていたのは、今思うとアレが採用面接だったんだ。あんまり覚えていないけれど、カラオケでだいぶ騒いだ。

古き良き就職活動の記録まで

私も、就職活動で苦労するより先に自由応募の内定が出てしまって、「これで就職活動を終わらせるか、辞退して学校推薦を受けなおすか...」という贅沢な悩み方をしていた。採用プロセスが売り手市場だろうと、入ってしまえば厳しいのは理解していて、人生の決断に悩むのは変わらない。結果的には自由応募の会社に就職した。自由応募の方は、いわゆる世の中にある普通のプロセスだった。

この記事に書いたような学校推薦の採用プロセスは、もう今は続いていないような予感がしながら、古き良き時代の昔話として書いている。私の時でさえ、学校推薦と自由応募の垣根が薄れる傾向にあって、自由応募と同じふるいにかけられて内定の手前で「学校から推薦もらってきて」と言われるタイプの学校推薦もあった。

この文章で誰かを励ますことはないだろうなと思いつつ、何か200X年代中盤の就職活動を後世に残すアーカイブとなれば幸い。

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