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信州亀齢を醸す岡崎酒造に行ってきた

noteザボリ気味だったので、2023年のふりかえりよろしく、印象的だったことを書く。10月に信州へ行ってきたうち、上田市にある岡崎酒造さんの見学は特筆に値する。

私たちと信州亀齢

行きつけ(たまに店員やってる)店のおかみさんが推す日本酒ということもあり、お店にはほぼ毎月のように岡崎酒造の信州亀齢がラインナップされている。

信州亀齢11本を飲み比べる日本酒会が開催されたこともある。同じお米の磨き5%違いなんて、正直、飲み比べても微妙すぎて分からない。だが、それがいい(後述の内容)。

11種類の信州亀齢を飲み比べた

7月頃、長野の酒蔵が一同に介したイベント「YOMOYAMA NAGANO」に参加した際に「ファンです!」と話しかけ、写真まで撮らせていただいた。

「必ず上田市まで行きます!」と誓ったのが7月、それが実現したのが10月、この記事の内容となる。

ギャルピースの人達ですね

飲食店関係者として酒屋さんが便宜を図ってくださったこともあり、岡崎社長が直々に蔵内を案内してくださった。

なんと、7月にお会いしたことを「あぁ、ギャルピースの人達ですね」と覚えてくださっていた。まじか。

岡崎酒造の外観

上田といえば真田幸村ゆかりの地で、その中でも岡崎酒造の周辺は美観地区のような風情がある。レトロな造り酒屋に入ると、岡崎社長が迎えてくださった。

ここで聞いたお話がたいへん興味深く、店員さんの時にはチラホラ紹介している。自称、信州亀齢エバンジェリスト(?)として、ここで聴いたことを書き記す。

どのラベルを飲んでも信州亀齢の味わい

特に興味深かったのは「あえて同じような味わいになるようにしている」という話だった。

世に出回る信州亀齢のラインナップと言えば、美山錦・ひとごこち・金紋錦など信州のお米(たまに山田錦)のバリエーション。それから、磨きの違うバリエーションもある。ただ、どれを飲んでも信州亀齢らしい味がする。

お酒は一期一会。同じ銘柄で味がまったく味の違うラベルがあった場合に、例えばフラッと入ったお店で飲んだラベルが気に入らなければ、次は飲んでもらえない。反対に、以前に飲んで気に入った銘柄を別の店で飲んで、まったく違う味だと期待を裏切ることになる。

磨きやら、生酛・山廃・速醸やら、荒走り・中取り・責めやら、提供者がきちんと情報を伝えて、飲む人が意識を向けていれば、期待外れになる確率は下がる。ただし、それを課すのはコストが高い。

メーカーのお仕事でも「利便性では劣る廉価版モデルを同じ名前で発売してよいのか?」は議論になる。ラインナップ内で棲み分けねばならないけれど、かと言って別の名前を浸透させるのも体力が要る。

信州亀齢が亀鈴であったであろう看板

看板を守る話は、横文字で言うブランディングにも通じる。方向性を揃えて鋭く刺すのは、身の丈にあっていて賢い闘い方だと思うし、誠実さを感じる。

信州亀齢を飲み比べて、味の違いって微妙だなぁと思っていたのが、実は狙ってのことだったと裏付けが得られたことは面白かった。

観て盗めるものは何も無い

関係者以外立入禁止の中を通していただき、酒造りの現場をくまなく観せていただいた。SNSはNGだけど、写真撮影までOKしてくださった。

(ここから脱線)ちなみにSNS NGの意図としては、「写真を観たからと言って、美味しいイメージに繋がらなさそう」という理由だった。私にとっては聖地巡礼だったし、かっこよかったし、特別感が増したきはするんだけど、社長の意思は尊重する(ここまで脱線)。

説明を受けている一行

蔵の中を観られたからと言って、他の酒造がやっていないような秘密の工程なんて無いよとキッパリ言われれた。むしろ、無駄なものを削ぎ落とす努力をしているので、私たち素人が観ても「何が無い」のか気付くことは難しい。

先述の「どのラベルも信州亀齢の味」も削ぎ落とした話の1つだろう。その昔はスーパーで売っているような大衆的なお酒も造られていたところ、市場が先細ってジリ貧になり、思い切って純米吟醸のプレミアム路線に舵を切った。その英断が、今日の私たちが知る信州亀齢へと繋がる。

工場内のタンクの数も壁際に4〜5個あるのみで、すべての機能が同じ建屋の中に収まっていた。無駄な輸送がないので、工程間で輸送する必要もなく、振動や温度変化が避けられる。そのようにして、日本酒の品質が底上げされているのかもしれない。

引き算の美学。

関西ではなかなか目にしない

信州亀齢を置いている店を見つけると「おっ!」と思う。それくらい手に入りにくいレアな存在になっている。

社長さんとしては、供給が追い付かず申し訳なくは思っておられるようだった。品薄に関しては最近、似たような経験があり、今ならその気持ちも、、、理解できる、、、気がする。

信州亀齢のショップ内展示

質に妥協せず、いたずらに規模を求めず、今の信州亀齢のままであってほしいと願う。

広島の亀鈴と信州亀齢

需要供給のほか、関西で信州亀齢を見かけない理由としては、関西から近い広島の亀鈴との棲み分けもあるのかもしれない。

たまたま同じ亀鈴を冠していても、広島の亀鈴と信州亀齢は別の日本酒。創業は信州の方が早いけれど、商標は広島が先に登録しているらしい。結果的に、信州の岡崎酒造が信州亀齢と名乗るようになった。

普通なら泥沼になりそうなところ、お互いを認め合い、親戚のような感覚で関係を築いているのが粋だなと思う。どちらも別物として味わうので、縄張りは気にせず関西に来てほしい。そうしたら、私はちゃんと説明する。

インディーズバンドを応援するバンギャルみたく、応援しつつもメジャーになりすぎると寂しい気もする。それでも、フォロワー的な日本酒がたくさん現れ、界隈が盛り上がるとしたら素敵なことに思う。

本当はこういうの好きなんでしょ?

行きつけのお店で店員時におすすめを聞かれると、特に味や系統を指定されなければ、信州亀齢をオススメしている。そして、けっこうな高確率で気に入っていただける。

社長がおっしゃるには、万人に好かれようと作っている訳ではないそうだけど、私の身の回りにはめっちゃ信州亀齢ファンが多い。

フルーティーで吟醸感あり、コクとキレのバランスがよくて、読み通り綺麗な味わい。そう言われてみれば、最近はそんな日本酒も増えてきている。

一年中展示されている雛人形

一方で「ワシは辛口が好きなんじゃー」と言う日本酒党も多い。私も芳醇辛口党。そんな人々に対して、社長は「そうは言っても、ほのかな甘味好きなんでしょ?」と提示する。言われてみれば、私もそんな気がしてきた。

市場のニーズに迎合するでなく、ブレない強い意思が人々の価値観を牽引していくのかもしれない。

地域に生き世界に伸びる

信州亀齢には、蔵元でしか買えないラベルが季節ごとにあったりなかったりする。その意図について聴いてみた。

端的に言うと、上田のまちおこしという意図があった。今回の私たちがそうしたように、わざわざ上田まで足を運び、土地のものを食べて、お金を落とすことが街の活性化につながる。

酒屋さんや流通の立場からすると良く思わないであろうところ、大義のために蔵元限定を売ることに信念がある。ネットで買えてしまう時代だからこそ、その場所に行かないと買えない尊さがある。

年末年始は、蔵元限定の赤ラベル(自分へのお土産の)を開けて、そんな話をしながら飲みたい。

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