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#0116「資本主義」って何?・その3~労働力の商品化~

資本主義について本やVoicyなど様々な媒体を通じて自分なりに考えたことを備忘的に残していっているシリーズですが、その1では、資本主義の下で良いことと、人類にとって良いことは必ずしも一致しないインセンティブ設計になっていること、その2では神の見えざる手の原動力は人間が本来持っている非合理的な衝動や血気(アニマルスピリッツ)であり、利益の見込みやリスクの確率に基づく数値的な期待値はそれを補完するものであることだからパッションが大事なのではと書いてきました。

そして今回は、資本主義経済の大きな特徴であり、『資本論』など資本主義の対極からも取り上げられる概念である「労働力の商品化」という核心概念について整理していきたいと思います。

労働力がどのようにして商品として扱われるようになったのか、その歴史的背景と経済的意味合いを詳しく掘り下げますが、特に注目すべきは、「二重の自由」という状態—身分的・地理的制約からの自由(移動の自由)と生産手段を所有しないことによる自由(生産手段からの自由)—です。

これは、労働者が自由に市場で自らの労働力を売りに出せる状況を作り出しており、資本主義の基盤を形成する歴史的転換点としても重要な要素ではないかと思います。100年前の世界でも、労働搾取的な資本主義への反発、戦後も社会主義化を防ぐために資本主義陣営自らが社会福祉政策などで資本主義の自己改革を行いました。

今日の資本主義って何?とか漠然とした違和感だとか、ポスト資本主義のような議論が活発化する背景には、行き過ぎた資本主義を是正しようとする人類の試みなのではないかと歴史を通して感じた次第です。(3831文字)

○すべては「労働力の商品化」から

・囲い込み

中世後期のヨーロッパ、特に15世紀から16世紀のイギリスで、資本主義の礎が築かれる重要な変化が起こります。

この時期、毛織物産業の需要が急増し、それに伴い羊毛の需要も高まりました。この需要に応えるため、多くの地主が農地を囲い込み、農民を追い出して羊を入れ、羊牧場へと変貌させました。
このプロセスは「囲い込み」と呼ばれ、農民たちは土地を追われることとなります。

・二重の自由

土地を失った農民たちは、身分的・地理的制約から解放され、また自身の土地や生産手段を持たないという「二重の自由」を得ることになりました。

これにより、彼らは自由に移動し、新たな労働市場に参入することが可能となり、都市部へと流入しました。彼らにとって、生計を立てる唯一の手段は、自分の労働力を市場で商品として売ることでした。

この動きは、都市部での毛織物工場などへの雇用増加を促し、資本主義の労働市場が形成されるきっかけとなりました。

この変化は、労働力の商品化だけではなく、社会全体の構造変化をもたらしました。従来の封建的な繋がりが解かれ、個人が経済的自由を持って行動できる新たな社会へと移行したのです。

囲い込みによって追い出された農民たちが新たな生活を求めて都市に流れ込むことは、資本主義経済の展開において決定的な役割を果たしました。

この辺りの流れについては、資本主義の歴史を見るよりも、資本主義の外から資本主義を見る『資本論』を補助線にしてみていくと、より理解が深まるように思います。

○「労働力の商品化」の流れ

囲い込みによって土地を追われた農民たちが都市部に流入することになり、新たな労働市場が形成されました。この流れは、労働力の商品化という現象を加速させ、都市部に集まったこれらの元農民たちは、自分の労働力を唯一の資源として持っており、生存のためにはこれを売るしかありませんでした。これが、労働力を商品として扱う資本主義の基本的なメカニズムです。

初期の工業化された産業の一つが毛織物産業であり、特に毛織物工場は大量の労働力を必要としました。この需要に応じて、多くの労働者が工場労働に従事するようになり、労働市場の構造も大きく変わりました。工場での労働は、農業に比べてより専門化され、分業化された作業が求められるようになり、労働者は自身の技能を磨くことでより高い賃金を得るチャンスを持つようになりました。

労働力の商品化は、労働者が自らの労働を市場で売買する自由を享受する一方で、賃金労働に依存するという新たな依存関係を生み出しました

資本家は労働力を購入し、その労働力を使ってさらに多くの商品を生産し、利益を上げることができるシステムが確立されました。

このシステムは、資本家が労働者に支払う賃金が、労働力の「再生産」に必要な額だけであることを意味します。つまり、労働者が生活を維持し、労働力を維持するのに必要な最低限の賃金が支払われるのです。

労働者の商品化の流れは以下の流れと理解しています。
「囲い込み」→「二重の自由」→「労働力の商品化」→「資本家が労働力を買う(雇う)」→「賃金を支払う」(賃金≒配当金)

○資本主義と宗教とイノベーション

資本主義の成立には、宗教的背景が深く関与しています。

・プロテスタント

特に、プロテスタントの倫理観は資本主義の精神と密接に連携しており、マックス・ウェーバーの『プロテスタント倫理と資本主義の精神』において詳述されています。プロテスタントの倫理は、個人の勤勉さと経済的成功が神の恩寵の証とされ、これが資本を蓄積し再投資する文化を育みました

・カトリック

これに対し、カトリック圏では資本主義の発展が鈍化していたとされます。スペインやポルトガルなどのカトリック国では、富裕層が富を教会に寄進することが多く、これが資本の蓄積という形ではなく、教会の装飾や慈善活動に向けられたためです。この宗教的な差異は、ヨーロッパ各地で資本主義が異なる速度で進展する原因となりました。

・インドの「キャラコ」が産業革命を生む

イギリスでは、このプロテスタントの倫理が産業革命の推進力となり、技術革新と資本の蓄積が手を取り合う形で進行しました。この結果、綿布製造などの新産業が急速に発展し、全世界にその影響を及ぼすこととなりました。

また、イギリスでは東インド会社を通じてインド綿布「キャラコ」の輸入が盛んになり、これが国内産業に大きな競争圧力を与え、さらに技術革新を促進する契機となりました。

キャラコは、軽くて吸湿性が高く、洗濯もしやすいということで、爆発的に人気になり、イギリス議会では、キャラコ輸入禁止、キャラコ使用禁止の法律が制定され、国内事業者を保護しようとしましたが、余計にキャラコが売れてしまうという現象が起こり、打倒・キャラコで始まったのが産業革命であり、紡績機や織機が発明されていきました。

○現代資本主義とのつながり

産業革命は資本主義経済の大きな転換点となりましたが、その影響は現代に至るまで続いています。初期の産業革命における技術革新は、生産性の大幅な向上をもたらし、人々の生活様式や労働の形態を根本から変えました。この変化は、経済のみならず、社会構造にも深い影響を与えています。

20世紀に入ると、資本主義はさらなる変貌を遂げます。

特に、大恐慌と世界大戦を経験した後の資本主義社会は、市場の失敗と経済危機に対処するため、また、社会主義化を阻止するため、国家の役割が強化されるようになりました。これにより、福祉国家の発展や労働者の権利保護など、資本主義の「自己修正」機能が強化されることとなります。

また、技術革新は依然として資本主義の重要な推進力であり、デジタル革命やグローバリゼーションが新たな資本の流れと生産構造を生み出しています。これらの変化は、労働市場におけるスキルの需要を変え、高度な技術や知識が重視される傾向を強めています。

資本主義は常に進化しており、その過程で生じる「バグ」—経済的不平等や環境問題など—に対処するため、新たな理論や政策が模索されています。これには、持続可能な開発やインクルーシブな成長が重要なキーワードとなっており、資本主義そのものの再定義も含まれているのではないでしょうか。

○資本主義の未来とその展望

労働力の商品化は、個人が自由に労働市場で自己の労働力を売買するシステムとして資本主義の中核を形成しています。その根底には、「二重の自由」—身分的制約と土地への拘束からの解放—が存在し、これが労働市場の自由化と労働力の流動性を高めることで経済活動を促進してきました。

囲い込みから始まった労働力の商品化は、産業革命を経て技術革新とともに進化し、20世紀には福祉国家の形成と市場の自己修正メカニズムが発展しました。現代では、デジタル革命やグローバリゼーションが新たな経済構造を生み出しており、資本主義はさらに複雑な形を取りつつあります。

しかし、経済的不平等や環境問題などの新たな課題も顕在化しており、資本主義の持続可能な発展を促進するためには、これらの問題に対処するための新しいアプローチが求められています。

今後の資本主義は、より公平で、環境に優しい、持続可能な形で進化することが期待されており、それがポスト資本主義への移行をも可能にするかもしれません。

資本主義は変化と適応の連続であり、その進化の過程で社会全体の福祉を如何に向上させるかが、これからの大きな課題となるのではないでしょうか。資本主義の未来は、私たちの選択と行動によって形作られるもの。
パッションを燃やして、より良い未来を作っていきましょう!



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