破顔

「うわぁ~、冷たいっ!」

破顔というのは、こういう顔のことなんだと。
パウチのカルピスを受け取った彼は、その冷たさを実感するかのように、両手で包んで、こちらに向かってクシャクシャになった顔を向けてくれた。
「嬉しいです。ありがとうございます。」
本当に喜んで貰えたんだ…。そう思うとこちらも思わず笑みがこぼれる。

セールで買った70円ほどのパウチ。これから暑くなってくる中、配達に来てくれる人にあげようかと、先日何気に買ったもの。

窓から配送用のミニバンが見え、我が家宛らしき荷物を運び出している人影が見えた時点で、パウチを冷蔵庫から出した。
印鑑を押した受領書を返すタイミングで、「暑い中ありがとう」とパウチを差し出した時のリアクション。
マスクのせいで口元は見えなかったけれど、「ハンコお願いします」と言った時とは明らかに違う少し上ずった声での「ありがとうございます」。


配達料無料を選び、少しでも安い方と注文しているくせに、わざわざ買ったものをあげるってどうなん?と、考えなくもないけど…。

そういう問題じゃないよなと。
彼らが居てくれるから、こうして楽させてもらってるんだから。

今日の彼は、大学生か?っていうぐらい若かった。浅黒く日焼けした手足は、良い感じに細く筋張っていて。好青年を絵にかいたような子だった。

彼の上ずった声とクシャクシャの顔が、ここ数日の嫌なこと、モヤモヤすることを全部吹き飛ばしてくれた。
良いことをしたっていうのとは、ちょっと違う。なんていうのか…、喜んでくれて良かったと、純粋に嬉しかった。清々しかった。

おばちゃん、またパウチ買い込んでおくからね!(もちろんセールで)


ありがとう冷たきカルピスひとつ添えお辞儀ペコペコ行き交い涼し

浅黒き手脚に汗の光りをり破顔のキミの夏が伸びゆく



重い物をネット購入するようになって、3年程になる。
以前はルート配送なのか、同じ方が来てくれることが多かったのに、コロナ禍で通販が増えたせいか、ミニバンのような車で来てくれることが増えた。
台車も持たず、重い荷物をふぅふぅ言いながら、玄関先まで運んできてくれる。
「重いのに、すいません。」というと、「いえいえ」と満面の笑みで答えてくれる。そういう人は、必ずドアストッパーまできちんと戻してくれる。そんな人に、再配達をお願いする羽目になってしまったときの申し訳なさと言ったら、もう…。
もちろん、不愛想な配達業者の方もいるわけで、そういう人が来たときは、心の中で「今日は外れの日」と、大きくため息をつくけど…。




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