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らしさの武装と嗅覚 番外編 (熟成下書き)


社内から女子更衣室が消えた。代わりに各フロアの入り口付近に、ハンガーラックや棚のあるクロークというには少しお粗末な場所が増設された。元々更衣室のなかった男性陣には歓迎されてるっぽいが、隣りのアウターの臭いが移るとかなんとか文句を言う女性社員もいる。何をどうしたところで文句を言う人、何か言わなくちゃ気の済まない人は必ずいる。


麻奈ちゃんは、あの年の年末に退職した。結城君の誘いに乗っての転職。表向きは今や死語になりつつある寿退職ということになっている。長く付き合っている彼氏がいるから、そのうち結婚するんじゃないのかな。結城君は次の春に予定通りの転職。長野君と私は、仕事上では取り立てて何の変化もない。昇進するわけでも、異動になるわけでもなく、淡々と社内生活を送っている。

あの頃は、本当に色々あったよねぇと、今でもたまに彼と話したりする。

ランチに行ったり飲みに行ったり、ホムパをしたり。そういえば、結城君の部屋から花火が見えることが分かった時は、ずるい!なんてことを言ってみんなして押しかけたこともあった。何がずるいんだろね。今考えると可笑しな話。一人暮らしの整えられた部屋、キッチン用品がやたら充実していたり、合鍵を持ってるひとでもいるんじゃない?なんてみんなで笑い合ってたけど、あぁ彼は自分の要不要をきっぱり分けられるひとなんだって、部屋の各所に置かれた観葉植物を見て思ったっけ。


今は懐かしさしかない例の件だって、私はただの傍観者。たまに麻奈ちゃんの様子がおかしいなって思った時は、あのせいか?って思ったりして、少し話したりしたけど…。本来、麻奈ちゃんにだって関係のない話で、原因を作った人間と錯覚したまま突っ走った人間、この2人の間で片付けるべきことだし、そもそもそんな原因つくっちゃだめでしょ!って話なんだけど、世の中にはきっとそんなことはいっぱいある。性格の違いというか、認識の違いというか、まぁ違いが大き過ぎてそれが間に挟まっちゃってるから、変な風になっちゃったんだろうな、きっと。こんなこというのもアレだけど、原因を作った方の人間にとってもいい迷惑だったんじゃないかな。実害がなかっただけ良しなんじゃないかなって思う。あのまま突っ走って体当たりしてくる可能性だってなくはないんだから。

富岡さん-今は真柴さん?-は、うちの住所は把握してるみたいであれから家族写真の年賀状をくれるようになった。子どもが入学したとか家族の近況を知らされても、あぁそうですか…の反応しかできないんですけど。うちも去年子どもが産まれたけど、必要最低限の人にしか報告はしてない。祝えってことなのか?と嫌味ったらしいこと考えたりして、なんなんだろね、これ?と、長野君と首を傾げてる。式に参列した人に送ってるんだとしたら、そろそろ来なくなるのかな?

ほんの数年同じ場所にいたってだけで、繋がりがあってそれが半永久的に続くと思ってる人間ひとってまだまだ多いなってこんな時に思う。全部たまたまじゃん。学校だって会社だって、自分で選んだ気でいるだけで、ただの偶然なんだから。ただそこに居たってだけで、括るのはやめて欲しい。最初に私を弾いたのは貴女でしょって。同期を同期とも思わなかったくせに。私を結城君の友達の長野の彼女として紐付けしてから、慌てて自分の方に引き寄せたくせに。

もしかして、私や長野君伝いに結城君に自分の情報が行くと思ってるのだとしたら、それは甘いよって話。彼らとの付き合いは続いてるけど、それは友達だから。ただの同僚だった貴女のことがわざわざ話題に上がることはない。何もかも自分より上か下かで区分けする貴女の世界に、私はいなかった。私は、貴女が私をそう思っている以上に貴女のことをモブだと思ってる。彩りにもならない完全なモブ。モブは景色に溶け込む定めなんだから…


フリースペースでよく見かける戯れ合う後輩たちの姿にあの頃の自分たちを重ねたりすることもない。あの子たちと私たちは違う。

それぞれがそれぞれに鼻を利かせて落とし所を見つけたってことなのかもしれない。今の場所がいつまで安寧かなんていうのは分からないけど、まだまだ転がり続けながら丸くなるのか、鎧を重くするのかはその人次第。身動きが取れなくなるほどの武装はしたくない…

彼女たちがいなくなってから、代わり映えのない毎日が平板に過ぎていく。

あの頃は良かった…なんて思いたくはない。これから先の私に対して、それは物凄く失礼なことだと思うから。




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下書きを見直していたら、こんなのがあった
頭の中にあっただけだと思ってて書いたことすら忘れてた
成仏させるにしても、遅すぎる😔



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