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ハンドルと指輪の話

ちょっと遠くまで運転するときは、ピンキーリングをすると決めている。特に夜は。

きっかけは旅行にいくために、夜の道を走ったこと。高速でも行けるけど、30分しか違わないし、って下道を走った。金曜日の夜、仕事が終わったらダッシュで家帰って、最後の荷物詰めて、あー最終新幹線までぎりぎりだなって思いながら走った。

その日は月が妙に綺麗で大きかった。月の色は個人的には冷たい、白に近いレモンイエローだと思っているのだけれど、その日は妙に暖かい色というか、濃い色というかオレンジ色に近い黄色をしていた(色温度的には低いのだけれど)。加えて、いつもより月が近く感じた。新幹線の駅まではひたすらまっすぐ一本道を走る感じだから、フロントガラスから月がちょいちょい見えていた。それが非現実的で、いつも走る道じゃないような気がして、夢でも見ているんじゃないかと思って気が狂いそうだった。そこにある月は本当に月なのか?今走っているのは本当にいつものあの道なのか?って本当に気が狂いそうだった。その時、ハンドルを持ち変えるときに小指をちょっと曲げると、たまたましていたリングの感触があって、それで現実に戻ってきたような感じがした。リングがなければ事故っていたと思う。それくらい、リングの感覚だけが現実的だったのだ。とくに大きい石がついているとか、誰かからもらったとか、お守りだとかそういうものでもなんでもなくて、3本セットで2000円くらいで雑貨屋さんでかったリングの一本。ちなみに誓って飲酒運転ではない。風邪薬も特に飲んでいない。スピードも特に出していない。

手の間隔だったらハンドル持ってるじゃない、って言うけれどそういうことじゃなくて、ハンドル、すなわち車は私と一緒に非現実に片足突っ込んでいたのだ。車なので足じゃなくてタイヤか。私と黒のPasso。たぶんあんな夜はもうないと思うけれど、運転するときは現実を感じられるものを連れて行くのだ。


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