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第5話 不思議と何かがぶつかるだけで

ショウタはお父さんの手伝いで、水槽の水の入れ替えをやっていてこれなかったと謝ってきた。

「おっくん、ごめん。父さんから小遣いもらったからジュース奢るよ。ゆっちゃんも」

そういって3人で公園の前にある自販機まで歩きながら、二人で話していたことについてショウタに聞いた。

「好きってなるのって、どんな気持ち?」

「好きってなるのかぁ、ミキは幼稚園の頃から知ってるんだけど砂場で遊んでた時の笑った顔が可愛くて……そこから……一気に?みたいな……?」

自販機にお金を入れて「いいよ」とショウタが促してくる。

「ゆっちゃん、はい」とさらに僕はそれを促す。

「ありがとう」と迷うことなく、オレンジジュースのボタンを押すゆっちゃん。

向こうで飲もうとベンチに向かって歩く三人。

歩いてる途中にトンボがうちらの前を横切って

「あれより大きいの今度捕まえような!」

と申し訳なさそうにするショウタに僕は言った。

ベンチに座って三人はすぐにジュースを開けた。

「大人ってさ。【乾杯】ってするけどあれなんなんだろうな」

そう言ったのはショウタだった。

飲み物と飲み物をぶつけて『カンパーイ!』と言う大人のアレが、ここにいる三人ともが不思議に思っていたことであった。

「やらなくても別にいいけど、よくわからない【行儀】みたいなものなのかな?」

「そういうのいっぱいあるよね大人って。誰が言い出したのかわからないことずっと守ってるみたいな。おはようは言わなくてもいいし、おやすみも言わなくたって別に寝れるけど」

「そんな感じの挨拶みたいな感じなのかな?」

そんな文字通り小学生じみた会話の最中ゆっちゃんが「このオレンジジュースめっちゃ美味しい」と感動したように言ってきた。

感激という言葉がぴったりなほど感心した様子で缶のデザインとかを眺めている。

「そんなに?」僕がそういうと

「マジマジ!ちょっと飲んでみて!」とオレンジジュースの缶を僕に差し出してきた

いや……え……? これって間接キスにな……ええ……?

と思って僕が躊躇っていると、ゆっちゃんは今にも『どうしたの?』と言わんばかりの怪訝な表情をしている。

「何してんの?早く飲んでみればいいじゃん」とショウタが急かしてきたから、僕は(この二人はそういうのを気にしない感じなのか?)と半ば疑問に思いながらも

「あ、うん」と言ってゆっちゃんからオレンジジュースを受け取った。

ジュースの缶を口に運びながらも、もう僕の頭には『これ間接キスだよな?』という思いが駆け巡って味なんかちっともわからないし、なんでかわからないけどドキドキした。

「どう?めっちゃおいしいっしょ?」とゆっちゃんが聞いてきたんだけど、肝心の味なんて全然感じ取れなかったし、むしろ今オレンジジュースを飲んだかと聞かれたら間違いなく『飲んでない』と答えるくらいにジュースを飲んだという記憶と感覚は覚えていなかった。

そんなことよりもこれは『関節的なキス』そう、キスと変わらないようなことをしたんだと思うとドキドキするし、なんか心なしか顔が熱い気もする。

「もしかして、おっくんさ、間接キスしちゃった!とか思ってない?」とショウタがいうから慌てて

「思ってないって!」と言ったけど

僕の顔を指してゆっちゃんにショウタがこう言った。

「ほら、見て。めっちゃ顔赤くなってる」

ゆっちゃんは僕の顔を覗き込んで「本当だ〜!」と爆笑した。

すかさずショウタが僕らにこう言った。

「好きって多分そういうのだと思うよ。なんだろうな、今の間接キスとか意識するようなそんな感じで、この人だけ!みたいな。他の人でこうはならないんだけどこの人だけドキドキする!みたいな、多分そんな感覚だから、おっくんはまだ分かってないだけでもうゆっちゃんが好きなんじゃないかなあ?」

え……?

僕の好きな人はゆっちゃんなの?でもなんか、えーっと。うん。

あまりこんなに喋ったこととかなかったけど、笑顔とか、まあ、かわいいと思う。けど!

なんか急に恥ずかしくなってきてしまった。

感覚的には今まで味わったことのない『なんじゃこりゃ』の感覚が渦巻いているような感じ。

「いやまだわかんないけど……」と僕が言う。

「ふーん、わからせてやろうかー?」とショウタがニヤニヤしながら僕に言う。

「え?何……どうやって?」と聞くとショウタは僕にこう言った。

「見てるだけゲーム。おっくんは見てるだけ、今から何が起こっても見てるだけね?」

よく意味がわからないけどとりあえず「分かった。見てるだけね?」と言い、僕はベンチで姿勢を正した。

そうするとショウタは「ゆっちゃんこっち……」とベンチから少し離れて何やらヒソヒソとゆっちゃんに耳打ちをしている。

ゆっちゃんはショウタに何やら言われてただ頷くを繰り返している。

なんかその光景嫌だな〜二人でコソコソ内緒話〜と思っていたら、二人がサササッと僕の座るベンチの目の前に来てしゃがんだ。

二人はただこちらの顔を見ている。

僕は交互に二人の顔を見比べる。

「え……?」おっと、見てるだけなんだよね僕は。

じっと見ているとショウタが口を開いた。

「ねえ、ゆっちゃん。俺と手繋ごっか?」

はあ!?と思いつつも、あ、そうだ見てるだけなんだった。と声をあげそうになった僕はグッと堪えた。

「いーよー、ハイ」と手を差し出すゆっちゃん。

その手に手を載せるショウタ。

今にもその手を引っ叩きたい僕。でも見てるだけ。なんで引っ叩きたいかなんてわからないけどなんとなくそう思う。

ショウタとゆっちゃんが目の前で手を繋いでいる。二人して笑っている。

僕はそれを見て笑うけど内心イラつきにも似た何かがあった。

「ゆっちゃんってカワイイよね〜」とショウタはゆっちゃんの顔を見た。

「ありがとう」と言ってショウタを見るゆっちゃん。

キレそうな僕。キレそう?なんで?いやなんか自分にもわからないんだってこれが。

そんなことより見てるだけゲームだった。

「ゆっちゃんかわいいからキスしたくなってきちゃった。ねえ?俺とキスしてみない?」

はあああああああああ!?!?!?!?

「うん。いーよ」

なあああああああああ!?!?!?!?

いや嘘でしょ。流石に僕の前でなんかしないだろう!?

でもショウタだ。もうミキちゃんと結婚とかなんとか言っているほどに結構大人なこともしているかもしれないし、もしかしたら女子とキスなんていつも挨拶感覚でやっているのかもしれない……

目の前で二人はゆっくり顔を近づけていく。

(え……まじ……)

この一瞬の間はきっと3秒とかだったとは思うんだけど、その瞬間に僕は

『今すぐ大地震が起きてくれ』とか『自分達の近くで大きな事故が起きないか』とか『水槽の入れ替えがまだのがあった!とショウタの父さんが来る』とかいきなり起こるそのハプニングのどれでもいいから今この瞬間に起きてくれ!と願った。

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