「今遅刻をしてしまっている(する予定がある)人」が読むべき文章~遅刻をしても怒られない方法の全て~

はじめに

私はこれまでに数え切れない程の遅刻を積み重ねてきた。仕事、友人との集まり、スケールの大小は問わずキングオブコントの一回戦でも一時間半も到着が遅れてしまったことがある。その度にどうしたものかと自分を責め続ける日々を送っていた。
そんなある日敬愛すべき水木しげる先生の本を読んでいると「貧乏は自然現象だ」という言葉と出会った。この仕方なさからくる諦め具合は「遅刻」と全く同じだなと思った。それからも私は遅刻という自然現象に幾度となく苛まれたが、その度に「いや~災難ですな。アハハ。」と思うことができているのである。
これまで何度もコラムで「遅刻」について書いてきたが、私の好感度が単純に下がっていく確かな感触があった。最も伝わりにくいのが「遅刻は悪いことだ」と私自身思っているということだ。本当に遅刻は悪いと思う。次に軽犯罪に入りそうなことランキングがあったとしたら上位に入っているに違いない。確実に被害者がそこには存在するからである。
ではなぜこのコラムを書こうと思ったかというと、先日一時間の遅刻をしてしまい電車で急いでバイト先に向かっている最中に、このもどかしい時間を自分以外の遅刻をしている人々はどう過ごしているのかとふと気になったからである。急いで向かうとは言っても電車の速度は一定であり、どうすることもできない。私はこの「どうしようもない時間」を使って、本を読んだりTwitterを見たりと、さも定時で出勤しているかのような態度を取ることができるが、もしそうではない人達がいたら、私の「遅刻マインド」が役に立つのかもしれないと考えたのである。「自然現象」なのだから、罪悪感を覚えたり落ち着かない気持ちになったりする必要などないのである。

自分がアクセル全開フルスロットルで遅刻に関して書くためには「現在遅刻をしてしまっている最中の人」がこれを読むことを想定して書く必要がある。読者層を「今遅刻をしている人のみ」に絞った新しい形のコラムである。

本稿は「遅刻」をした際に「どっしりと構えるため」のいくつかのマインドの在り方を順を追って説明する。
最後にもう一度。遅刻は悪です。お前が悪い。最悪だ。
ですがもうしてしまったら仕方がありません。私はこれから「遅刻をしてしまった」ある種自然現象の被害者とも言えるあなた方に、御守りのような文章を綴るつもりです。
そしてこのコラムの真の目的は「如何にして怒られないか」である。

1.遅刻された側への連絡

①焦るな

起床、時計を見たら勤務時間の三十分前。勤務地まで一時間はかかるのでこの時点で遅刻が確定してしまっている、といったようなシチュエーションがよくあると思う。
大切なのは「慌てない」ということである。これはなんにだって言えることだが、焦ると事態というのは更に悪化していくものである。まずは深呼吸をして落ち着く必要がある。「そんなことしている場合じゃない!!」と思う人は考えてみてほしい。まだ自分が遅刻をすることを誰も知らないし、そもそも現時点で遅刻は発生していないのである。そう思って私はいつも煙草を一本ゆっくりと吸いながら、電車の時刻表を眺めているのである。

②どれくらい遅れるかを伝えよう

そしてまず最初にやらなくてはならないのは「遅刻された側への連絡」である。第一関門とも言える。この時に必ず伝えなくてはならないのは「○○分遅れます。」ということである。人は「分からない」ということにストレスを感じる。遅刻でいうところの「分からなさ」は、遅刻をしてくる人間がいつ到着するのかという点だ。単純に一本連絡があるかないかで大分印象が違うのは誰にでも分かることだと思う。
遅刻が「悪」とされる理由の一つとして「相手の時間を削ってしまう」というのがある。どれくらい遅れるのかということを先に伝えておけば、「遅れる時間」を使って相手は他になにかすることができる。相手の目的を「待機」から「時間つぶし」「他の作業」にズラすためにも事前連絡というのは必要なのである。
そしてここで一つテクニックがある。例えば「三十分遅れます。」と連絡すれば、相手は待っている間に「三十分遅れた人間にどう叱るか」ということを考えているはずである。ではここで我々が十五分遅れで登場したらどうだろうか?ちょっとだけ遅刻された側は「早っ」と思ってしまうのではないだろうか。仕事や学校というのは時間が定められている。その定時に間に合わなかった人間が「遅刻」とされる。「○○分遅れます」という連絡は、もう一つの定時をこちらの塩梅で設定できるチャンスだと皆さんには捉えて頂きたい。なので三十分遅れそうな時は「四十五分から五十分遅れます。」と伝えておくのもかなりアリだ。

③電話口では慌てるべし

そして次に大事なのは電話口でのこちらの「反省具合」である。一度電話を掛ける前に落ち着いてしまったところで申し訳ないのだが、電話をする際はかなり慌てている感を出す必要がある。「慌てている感」を演出するためには「早口」で喋ればいい。そしてこの早口というのはいくつかの点においてかなり優れている。まず相手の発言の間を埋めることができるし、若干パニック気味だなと思わせることによって「とにかく早く来い」としか向こうは言わなくなるのである。
仮に相手の説教が始まりそうだった場合は、間髪入れず「急ぎます」という言葉を挟むことによって「早く到着するためには、この電話を今すぐに切らなくてはならない」ということを暗示することができる。
そして最も重要なことだが「どうして遅れるか」ということは電話口では絶対に言ってはならない。「怒られるか/怒られないか」の明暗を分けるのは「なぜ遅れたか」の理由である。事前に遅刻する理由を伝えてしまうと、向こうは我々が到着するまでに説教の仕方を考えてしまうのである。遅刻の性質上一番のバトルは到着した瞬間である。ここで上手くかわせるとその後も怒られずに済む。相手に準備をさせず、到着した瞬間に遅刻理由を言うことでその場で「フリースタイルバトル」が始まる。向こうは完全即興ではあるが、こちらは「遅刻理由」をいくらでも考えることができ、つまりは向こうの返答へのアンサーまでもを準備できるので、有利にコトを運ぶことができる。

④高等テクニック

ここでかなりレベルの高い技術と鋼の精神が必要になる高等テクニックを一つ紹介しようと思う。それは逆に「連絡しないパターン」である。
前にバイト先の店長が朝の七時出勤のところを、昼出勤であると勘違いをしなんの前触れもなく突然十三時に現れたことがある。この時私を含め他のスタッフ一同「おおお!!!」と思わず拍手をしそうになってしまったのである。

恐らく遅刻というのは一定の時間を過ぎると「イベント化」してくるのだと思う。一般常識を遥かに超えた遅刻というのは、「心配」「笑い」「安堵」等を生む。イベント化したことにより遅刻したてきた人間が突然店に現れた時「登場感」や「参上感」が出るのだ。
とは言っても成功確率は低く、下手するととんでもない大事件に発展したりするので諸刃の剣ではある。
普段は遅刻をしないという人は「あの人が遅刻するなんてなんかあったんじゃないか?連絡もないし。。。」という「心配」を生みやすいので、おすすめのやり方だ。
出勤時間の二時間後に目が覚めてしまった場合は、一層「休みだと思ってた」で敢えてかなり遅めに行くのもアリだ。
中途半端に遅れてしっかり怒られるよりは、ガッツリ遅れて「怒られる/怒られない」かの賭けに出るのもいいと思う。

2.職場に向かっている最中にすること

職場に向かっている最中は平常心を保つよう心掛けるべきである。車や自転車、徒歩であればスピードを出すということもできるかもしれないが、正直そんなことはしなくてもよい。前髪を崩したり、身体が火照ってる感は職場の直前あたりから全力疾走すれば簡単に演出できるので問題はない。
遅刻された側はよく「「一分」も「一時間も」変わんねえよ!!」と言う。であればもう「遅刻」が確定してしまっている時点で急ぐ必要などはなく、わざわざ自分の体力を消耗させたり慌てふためく必要もない。電車通勤の人達に関して云えば、自分が急いでも「各駅停車」が「急行」になることはないので、お気に入りの音楽を聞いたりYouTubeを見たりしているのがベストである。
ちなみに少しでも早く到着しようとタクシーに乗ろうとしている人がいたらちょっと待って欲しい。考え方によっては金を生むチャンスでもある。例えば職場までタクシー代が1500円だったとする。恐らくタクシーで向かったところで怒られるということに変わりはない。だったらここはタクシーに乗らずに会社へ行き、浮いた1500円で帰りに蕎麦でも食べたらどうだろうか?
本来使うはずだったお金を使わないというのは、お金を生んでいるという行為に等しい。遅刻をしたことで稼いだお金で「帰りになにかよいものでも食べよう」と思っておくと、一日の終わりにハッピーなイベント(それも遅刻をしたことによって)を設定しておけるので「最低な日」にはなりにくい。
ちなみに遅刻常習犯程、急ぐのを辞めた方がいい。我々が最も相手を苛立たせてしまうのは「数分遅れ」である。
「数分だったら遅れてもいいと思ってるんじゃないの?」=「時間に対する考えが甘い」と思われるのが一番よくない。「意識の問題」にされるとこちらはもうお手上げなのである。遅刻は「自然現象」なのだ。

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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。