戦略ストーリーを協働創造するためには、どうすれば良いのか?
前回の記事では、価値創造プロセスの四つ目となる「連結化・ストーリー化」について具体的な事例をもとにお話しました。今回は、価値創造プロセスの最後のプロセスである「戦略の創発」についてお話ししたいと思います。
価値創造プロセスの全体像はこちらとなります。
戦略の創発のプロセスの前に、戦略の決断というプロセスがありますが、決断については別の記事にて扱いますので、ここでは割愛します。
いい戦略は、いい協働プロセスから生まれる
これまでお話ししてきた①~⑤のプロセスは、基本的には個人の中で進んでいきます。一方、最後のプロセス「⑥戦略の創発」においては、他者との協働による創発が起き、実際の戦略として展開されていきます。
創発とは、「要素間の局所的な相互作用が全体に影響を与え、その全体が個々の要素に影響を与えることによって、新たな秩序が形成される現象」
(デジタル大辞泉)のことを指します。
大空にたくさんの鳥が集まって、あたかも1つの大きな生き物のように飛んでいることを見たことはありませんでしょうか?あるいは、海にいる魚の群れが、あたかも1つの大きな生き物のように連動して泳いでいる映像をみたことはありませんでしょうか?
このような現象は、創発という言葉が表すイメージに近いと思います。価値創造プロセスの①から⑤が個人の中の創造プロセスとして進みながら、個人同士の相互作用によって、個人の中で思い描いたものの集合だけでは表現しきれない、集団としての価値創造をしていくことが、「戦略の創発」になります。
それでは、どのようにすれば「戦略の創発」につながる、いい協働をすることができるのでしょうか?
SECIモデルによる知識創造
この問いに見事に答えているのが、SECIモデル(野中郁次郎教授)です。SECIモデルは、組織における暗黙知と形式知を相互に変換させながら知識創造をしていくという考え方です。
SECIモデルについての詳細は、知識創造企業(野中郁次郎、竹内弘高著)をご覧いただければと思いますが、ここでは知識変換の4つのモードの概要のみお伝えいたします。(SECIモデルはこの説明のみでは語りきれない奥深い理論ですので、興味がある方は是非とも原著を熟読頂くことをお勧めいたします。)
この内容を見ていただくとお分かりいただけるかと思いますが、SECIモデルは「戦略ストーリーの創発」という場面だけではなく、知識創造の全般的な場面において応用可能な理論です。
このSECIモデルを、戦略ストーリーの創発という場面に適用すると、以下のようになります。
いい戦略を創発するために、この4つの知識変換を実践していきます。この4つはどれも大切なものではありますが、私が個人的な感覚として最も大切にしているのは共同化です。
共同化においては、直感したことや、経験したことについて、言語化されていない感覚を含めて、対話によって共有していきます。直感や経験による暗黙知があるということと、その全てを言語化できているとは限らないという前提をもとに、暗黙知を共有するプロセスを大事にします。
普段の会議においては、どうしても言語優位になってしまうことが多く、特に意識的に取り組まないと共同化の場を創ることが難しいということを感じる方は少なくないのではないでしょうか。
現代のビジネス世界は、言語優位です。組織として意思決定をしたり、組織として方針を打ち立てて実践していくためには言語による表現・理解が必須とされています。もちろん、言語による表現・理解のメリットは多くありますが、言語優位であるという構造に無自覚になることによって、言語によって表現できないものを捨象してしまうリスクがあります。
言語化されていないもの、説明できないものは意味がないものとして見做され、切り捨ててしまうのではなく、一人ひとりがもつ直感や感覚、違和感などが大切にされて、それを丁寧に共有していくプロセスを経ることが、共同化においては重要です。
SECIプロセスをまわすための場づくり
「戦略ストーリーの創発において、SECIモデルを回していくことが大切であることはわかったけど、具体的には何を実践すれば良いのか?」
このような疑問を持った方がいらっしゃるかもしれません。私がお勧めするのは、「場のデザイン」です。場というのは、複数の人が集まる環境のことを指します。そして、場のデザインとは、場の目的や雰囲気を意図してつくることを指します。
SECIプロセスをまわすための場づくりは以下のようになります。
共同化→対話場:
直感・メンタルモデル・経験など、言語化しにくいものを含めて共有していくことができる対話を中心とした場です。対話によって、一人ひとりがもつ直感や感覚、違和感などを大切にして、それを丁寧に共有していきます。目的に向かって議論をするというよりも、「ざっくばらんに対話をしましょう」というイメージで真面目な雑談をする雰囲気の場を創ります。
対話場においては、一人ひとりが主たるテーマに関連して、感じていることを話していきますが、その内容は主たるテーマから少し離れている話でも良いし、個人的な知見・経験に基づくものでもよいし、うまく言語化することができていない内容でも構いません。一人ひとりの話が、いい・悪いという判断をされることなく、安心して共有していけるような場の雰囲気づくりが大切になります。
表出化→マッシュアップ場:
一人ひとりの異なる思いやアイディアの種をもとに、一つのコンセプトに融合・統合するスキルフルなディスカッションの場です。一人ひとりの思いやアイディアは異なりますが、それを包含する一つの「何か」があるという信念をもって、新しいコンセプトの探究をしていきます。
マッシュアップ場においては、ちょっとした意見や思いの違いについても、それはどんなところから違いがくるのかについて探求していくことによって、統合・融合したコンセプトにつなげていくプロセスを経ます。
対話場は「みんな違って、みんないい」という場になりますが、マッシュアップ場は、「みんな同じで、みんないい」ということを目指す場です。
連結化→課題解決場:
新しいコンセプトを具現化するために、既存の枠組みや考え方と結びつけていき、課題があればそれを解決していくディスカッションの場です。コンセプトを具現化するときには、現実の制約や、他の枠組みや考え方との整合性など、いろいろな課題ができてきますが、その課題解決をします。
課題解決場においては、理想だけではなく現実への適用に目を向け、リソースが足りなければ優先順位をつけたり、理想と現実のギャップが大きければスコープを絞ることによって実現可能性を高めたりします。
マッシュアップ場は、理想を追い求めていくエネルギーが強い場となりますが、課題解決場は、現実への適用を捻り出していくエネルギーが強い場となります。
内面化→実践場:
新しいコンセプトを具現化して、実践に移していくための場です。課題解決場において考えた、コンセプトを現実に適用する方策を一人ひとりが実践に移していきます。
実践場においては、一人ひとりの意志に基づいて、能動的に実践することによって、一人ひとりの中に豊かな実践知を蓄積していきます。「やらされている」という感覚の実践では、その経験から得られるものは多くありません。「やってみたい、実践してみたい」という気持ちがあることで、その経験から多くのことを感じることができます。
課題解決場は、課題解決の方策をディスカッションする会議のような場になりますが、実践場はその方策を実行に移す一人ひとりの実践の時間となります。
また、実践場は一人ひとりの実践の時間であるのに対して、対話場はその実践によって経験したこと、気づいたことを対話によって共有していく時間となります。
行ったり来たりが大切
これまで、SECIモデルとそれを実践するための場のデザインという話をさせていただきましたが、「ちょっと難しいな」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
これまでご説明したことを詳細に理解することが大切というよりも、個人とチーム、暗黙知と形式知、理想と実践の行ったり来たりが大切と捉えていただくといいのではないかと思います。
戦略ストーリーを創発する時に、個人で考えている時間が長ければ、チームで議論する時間をつくる。言語的に表現することが前提となっていたら、直感や経験を元にした暗黙知を大切にしてみたりする。理想を考えるプロセスを経たならば、プロトタイプによる実践に切り替えたりするなど、異なるアプローチを意図的にデザインしていくというイメージです。
今回は、価値創造プロセスの最後のプロセスである「戦略の創発」についてお話ししました。
本日の問いとなります。(よろしければ、コメントにご意見ください)
・あなたが、チームで新しいことを生み出した経験の中で、SECIモデルがうまく実践されたと思うものがあるとすれば、それはどのような経験でしたか?
・上記の経験においてSECIモデルがうまく実践できたのは、どのような場があったからだと思いますか?
How can we co-create a strategy story?
In my previous article, I talked about the fourth process of value creation, "connecting and story making." This time, I would like to talk about the last process of the value creation process, "Co-creation of strategies.”
The whole value creation process is shown here.
Before the process of strategy emergence, there is a process of decision on strategy, which I will deal with in another article, so I will not go into it here.
Good strategy comes from a good collaborative process
The processes (1) through (5) that I have described so far are basically carried out by individuals. On the other hand, in the last process, "6) Co-creation of strategies" occurs through collaboration with others, and the strategy is developed into an actual strategy.
Co-creation/emergence here refers to "the phenomenon in which a new order is formed when local interactions among elements affect the whole, and the whole in turn affects the individual elements.”(Digital Daijisen)
Have you ever seen a bunch of birds in the sky flying together as if they were one big creature? Or have you ever seen a school of fish in the ocean swimming in tandem as if they were one big living thing?
This kind of phenomenon is close to the image expressed by the word "Co-creation/emergence.” While (1) through (5) of the value creation process proceed as a creative process within individuals, "Co-creation/emergence of strategies" is the creation of value as a group that cannot be fully expressed by a set of ideas within individuals due to interactions among individuals.
So, how can we have good collaboration that leads to the "Co-creation/emergence of strategies"?
Knowledge Creation with SECI Model
The SECI model (Professor Ikujiro Nonaka) answers this question beautifully: the SECI model is based on the idea of knowledge creation through the mutual conversion of tacit knowledge and explicit knowledge in an organization.
For more information on the SECI model, please refer to The Knowledge Creating Company (by Ikujiro Nonaka and Hirotaka Takeuchi), but here I will only give an overview of the four modes of knowledge transformation.
(The SECI model is a profound theory that cannot be fully explained in this explanation, so I highly recommend that you read the original book if you are interested.)
As you can see, the SECI model is a theory that can be applied not only to the "creation of strategy stories" but also to knowledge creation in general.
Applying this SECI model to the situation of creating a strategy story, we can see the following.
In order to create good strategies, we will practice these four knowledge transformations. All four are important, but my personal feeling is that the most important one is socialization.
In socialization, we share through dialogue what we have intuited and experienced, including sensations that have not yet been verbalized. Based on the premise that there is tacit knowledge from intuition and experience, and that not all of it can be verbalized, we value the process of sharing tacit knowledge.
In everyday meetings, verbal communication tends to dominate, and many people may find it difficult to create opportunities for socialization unless they make a conscious effort.
The modern business world is verbal dominant. In order to make decisions as an organization, and to formulate and implement policies as an organization, it is essential to use language for expression and understanding. Of course, there are many advantages to using language for expression and understanding, but there is a risk that by becoming unaware of the structure of verbal dominance, we may discard what cannot be expressed through words.
In socialization, it is important that the intuition, feelings, and sense of discomfort that each person has are valued and carefully shared through a collaborative process, rather than being dismissed and dismissed as meaningless if they are not verbalized or cannot be explained.
Creating fields for running the SECI process
“I understand the importance of running the SECI model in the co-creation of strategy stories, but what exactly do I need to do?”
Some of you may be asking yourself these questions. What I recommend is " field design". A field is an environment where multiple people gather. Field design refers to the intentional creation of the purpose and atmosphere of a field.
Creating fields for the SECI process to run is as follows.
Socialization: Dialogue field
This is an opportunity to share intuition, mental models, experiences, and other things that are difficult to verbalize, with a focus on dialogue. Through dialogue, we value each person's intuition, feelings, and sense of discomfort, and share them carefully. We create a place with an atmosphere of serious chit-chat, with the image of "let's have a casual conversation" rather than a goal-oriented discussion.
In the Dialogue Field, each person shares his/her feelings related to the main theme, which can be something slightly different from the main theme, something based on personal knowledge and experience, or something that has not been well verbalized. It is important to create a comfortable atmosphere in which each person can share his or her story without being judged as good or bad.
Externalization: Mush-up Field
This is a field of skillful discussion where the seeds of each person's different thoughts and ideas are combined and integrated into a single concept. Although each person's thoughts and ideas are different, we will explore new concepts with the belief that there is one "something" that encompasses them all.
In the mashup field, we explore the differences in opinions and thoughts to find out where the differences come from, and then we go through the process of integrating and fusing the ideas into a unified concept.
A dialogue field can be a field where "everyone is different and everyone is good," while a mashup field aims to be "everyone is the same and everyone is good.”
Combination: Problem-Solving Field
This is a discussion field where we connect new concepts to existing frameworks and ways of thinking in order to realize them, and resolve any issues that may arise. When realizing a concept, there are various issues that arise, such as the constraints of reality and consistency with other frameworks and ways of thinking, and we solve these issues.
In the problem-solving field, we look not only at the ideal, but also at the application to reality, prioritizing if resources are insufficient, or narrowing the scope to increase feasibility if the gap between the ideal and reality is large.
A mash-up field is a field where the energy to pursue ideals is strong, while a problem-solving field is a field where the energy to devise applications to reality is strong.
Internalization: Implementation Field
This is a field where new concepts can be realized and put into practice. Each of us will put into practice the measures to apply the concept to reality that we came up with in the problem-solving field.
In the implementation field, through active practice based on the will of each individual, a wealth of practical knowledge is accumulated within each person. If we practice as if we are being forced to do something, we will not gain much from the experience. If we have the desire to try and practice, we will be able to gain a lot from the experience.
The problem-solving field is like a meeting to discuss how to solve problems, while the implementation field is the time for each person to put the solutions into practice.
In addition, while the implementation field is a time for each individual to practice, the dialogue field is a time to share what one has experienced and noticed by practicing through dialogue.
It is important to go back and forth
So far, I have talked about the SECI model and designing a field to put it into practice, but some of you may have found it a bit difficult.
It is not so much important to understand the details of what I have explained so far, but rather to understand that it is important to move back and forth between individual and team, tacit and explicit knowledge, and ideal and practice.
When co-creating a strategic story, if we spend a lot of time thinking about it individually, we should make time to discuss it with the team; if we are supposed to express it verbally, we should try to value tacit knowledge based on intuition and experience; if we have gone through the process of thinking about the ideal, we should switch to practice with prototypes; and so on.
In this article, I talked about the last process of the value creation process, "Co-creation of Strategies."
Here are the quests of the day. (If you'd like, please share your thoughts in the comments.)
・What experiences, if any, have you had with teams creating new things that you think successfully implemented the SECI model?
・What kind of field do you think made it possible for you to successfully implement the SECI model in the above experience? (Dialogue field, Mush-up field, Problem-solving field, Implementation field)
Bunshiro Ochiai
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