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缶切りがなかった世界

坂元裕二監督のドラマ、『最高の離婚』。
坂元監督のドラマ作品の中でも特に好きで、この温度感を伝えるとするなら、例えばエンディングを聴きながら小躍りしそうになるくらいには好きだ。

放送されたのは2013年で、もう10年も経つという事実に驚きを隠せない。
…例え話と放送年で濁そうとしてしまった。久々にこの作品を見られるのが本当に嬉しくて、本当に1人で小躍りしている時があるのはここだけの話にしたい。

それほど好きな理由は、「なんとなくかゆいところに手が届いてくれている感」があるからだ。

心のなかで頻繁に触れることのない、それでも知りたいと思っていた気がする何かを見つけるような体験なのだ。作品を見ることで、
「ああ、この感覚知りたかった気がする」
と思ってしまう不思議さがある。

作中のセリフにも出てくるけれど、缶づめは缶切りよりも早く存在していたらしい。
この作品を見ている時の私は、缶切りがまだなかった世界で、それを初めて手にして缶づめを切り開けたみたいな、欲しかった何かを見いだした感覚なのかもしれない。

そうして、自分のなかでどことなく求めていた何かとの距離感が、つかず離れず保たれながら物語は動いていく。
登場人物に鬱陶しさを感じていたはずなのに、時が経つにつれ、それがなぜか愛おしさに変わっていったりする。

一見わけが分からないようで、分からなくない。こういうものはきっと紙一重だ。1話見終わるたびに、人間という生き物のわけの分からなさをのぞき見ている。

離婚はもはや、人生のエンターテイメントなのかもしれない。そう言いたくなるほど人間臭さが満載で、何度見ても発見のある作品だ。
最終話までじっくり楽しみたいと思う。

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