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まるで教会。バンクーバー島が世界に誇る、書店員たちが家族のように働く美しい書店/Vancouver書店レポvol.12

教会のような荘厳な雰囲気。流れている音楽はクラシック。長い時間の積み重ねを感じさせる外観も目を見張るものがあったけど、店内に入ると、その天井の高さと壁にかかっているタペストリーの美しさに息をのんだ。

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「これは創業者Jim Munroの二番目の妻で、ビクトリアでアーティストとして活動していたCarole Sabistonの作品です。タペストリーは四季を表していて、この歴史的建造物内で営業を始めた1984年以来、ずっと飾られています」

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”バンクーバー”は、カナダのブリティッシュコロンビア州のひとつの都市名。”バンクーバー島”は、本土から約1時間半フェリーに乗って行く島で、その島にある都市ビクトリアは、州都。

紛らわしくて、以前はよく間違えた。パンデミック以降、実はバンクーバーからこのバンクーバー島に移住する人が増えている。最たる理由は、諸々の物価が安いから。

「私たちがビクトリアにい続ける一番の理由は、コストです。バンクーバーのダウンタウンで書店を続けるには、コストが高すぎますから」

世界で最も美しい本屋のひとつとしても名前が上がる、古都ビクトリアの中心部に位置する書店Munro’s Books。そこで20年間書店員として勤務するJessicaは、はっきりそう答えた。

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「でも、Kids BooksやPulp fictionなど、バンクーバーにある書店ともいい関係を築いています。そうそう、The Paper HoundのKimは、昔この書店で働いていたんですよ」

島とはいえ、九州島と同じ大きさを誇るバンクーバー島。パンデミック前は、夏になると1万人の人々が毎日この街を訪れたという。

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「創業者のJim Munroは、ビクトリアを愛していました。本や音楽、オペラなどのカルチャーにも情熱を注いでいましたね。彼は、1901年に建てられ、かつて銀行だったこのビルを改修し、インテリアをクラシックな雰囲気を残したまま整えて、地元だけでなく世界中からお客さんが来るような書店に育てあげたんです。

ある日、Jimが経営から退く日が近づいてきたとき、家族の中に書店を引き継ぐ人間がいなかったので、彼は書店経営の権利を私たち書店員のうちの4人に無償で与えてくれたんです。彼は、それがこの書店を残すベストな方法と考えた。普通じゃないですよ(笑)。とても気前のいい、ユニークな人でしたね」

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彼の思いは今も店内に継承されている。例えば20人以上働く書店員たちは長期間働いている人が多く、いちばん長い人でそのキャリアは45年を数える。話を聞かせてもらった控え室にも、昔の書店員たちの姿が写真で飾られていた。

「いつもハッピーなことばかりだったわけではありませんけどね」とJessicaは言うけれど、書店員たちのまるで家族のような関係性が垣間見える。

「と同時に、皆キャリアが長いのでプロフェッショナルです。それぞれカテゴリーごとにひとりついて、責任を持って担当している。ひとつの会社にこれだけ長い間勤務するって、まあ今だと時代遅れかもしれませんけど」

そんな時代遅れ?な書店にも、変化の兆しが感じられるとJessicaは続ける。
「イベントもオンラインにシフトして、kindleで簡単に本も読める時代ですが、どこかで皆その”利便性”や”効率性”から距離を置きたがっている気がします。特に10代、20代の子たちが紙の本だったり、フィジカルなイベントといった”オフライン”に興味を示しているんです」

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人気のセクションは、今は圧倒的に”小説”とのこと。先がまったく見えない時代、フィクションはときにノンフィクション以上に私たちの未来に希望を与えてくれる。

その架空の物語の先には、次世代がまったく新しい形でオフラインの物語を生み出すかもしれない。それとともに、このお店の”家族”の形がどんな風に変わっていくのか(はたまた数年後も変わらず”時代遅れ”な形を取っているのか!?)、これからますます楽しみだ。

💡DATA

Munro's Books

1108 Government Street
Victoria BC V8W 1Y2

https://www.munrobooks.com/

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