【虎に翼 感想】第113話 リスクを取るか、決めるのは本人
嘉納鑑定人への尋問の続き。
汐見裁判長からの補充尋問が終わり、寅子が鑑定人へ尋ねる。
「今苦しんでいる被爆者は、どこに助けを求めればよいか」
嘉納鑑定人から明確な回答が得られないことは明白だったが、裁判官としての心証を伝えた事実は重い。
寅子が優未を妊娠したばかりの頃、助けを求める場所がなかったことが思い出される。
先のことばかり話す穂高教授に、私は今の話をしているのだと叫んだあの日のことが。
「お互い、けっこうなものを背負わされている」
嘉納鑑定人も国側指定代理人にも立場がある。その苦しさを軽んじてはいけない。
「政府による別の救済方法」
「この法廷で争われているのは、そこではない。(略)法は法」
法の範疇ではないこと。この言葉を引き出せたことが、最終的に、よねが話していた “意義” に繋がるのだろうか。
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週刊誌『週刊新毎』にて竹中が書いた原爆裁判の記事が載った。
記事のサブタイトル “被爆者はどこに助けを求めればいいのか” は、もちろん寅子の言葉の引用だ。
次の期日。傍聴席が満員だが、そのほとんどは記者のようだ。
遅いよ!と突っ込みを入れたいところだが、雲野弁護士の遺志が世間に広まり始めていることに感慨深くなる。今からでもたくさん記事を書くとよい。
航一は、週刊誌の記事で、寅子が原爆裁判を担当していることを知った(確信した)のかもしれない。
「胸の内にためているもの、裁判官ではなく、夫の僕に、少し分けてくれないか」
もちろんこれは、新潟時代の寅子から航一へ向けた言葉のアンサーだ。
優三さんから教えてもらった “分ける” ことの喜びを、寅子は新潟で航一に教え、月日が経った今、お返しをもらえたのだ。
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寅子と航一の “結婚期日” が開かれた、東京家庭裁判所竹もと支部(仮)での “あんこ裁判”、こちらも長期戦になっていた。こちらの傍聴人は、佐田寅子1名のみ。しかもあくびをするなど、あまり関心がないようである。
桂場鑑定人の鑑定は厳格だ。判決が出るまでにはあと何年かかるだろうか。
東京地方裁判所所長である桂場の元には、注目を集め始めた原爆裁判を早く終わらせよとの政治家の圧力がかかってきている。直接的な言い方をしないところが姑息だ。当時の総理大臣、池田勇人は広島県出身であるのだが。
桂場は寅子に、法曹者としての根本をあらためて説諭して、竹もとを後にしたのであった。
(竹もとのシーンで最初に映った男性、小橋かと思った……)
原告本人が法廷に立つことのリスク
原告のうちの一人、吉田ミキが法廷で証言してくれることになった。
電話を受け喜びを隠さない岩居。
だが轟は、他の原告らが断った中、一人で法廷に立った後の彼女のことを心配してしまう。
「それを決めるのはお前じゃない。どの地獄で、何と戦いたいのか。決めるのは彼女だ」
依頼者の意向を尊重するよねの言葉は至極ごもっとだ。せっかく本人が証言する気になってくれたのだから。自分で選んだ道を行かなければ、彼女の人生も進まない。
だが、そもそも法廷に立つことは弁護士が原告らに依頼したところからスタートしている。強い勧めに後押しされる形で同調した彼女とともに弁護士が突っ走ってしまっては、その後に起こるかもしれない(起こる可能性が高い)リスクを本人が抱えきれなくなることも十分考えられるのだ。人生を進めるどころか、生きていけないかもしれない。
そのリスクについて今一度問うことも、弁護士として当然の職務なのだ。だから轟も決して間違っていない。
よねはその正義感から突っ走ってしまう可能性がある。それを一旦立ち止まらせてくれるのが轟だ。轟は慎重にものを考えるタイプだろう。思い切って一歩踏み出さねばならないときは、よねがその役割を引き受けてくれる。
弁護士も決して完璧ではない。周囲の人間に支えられて、その任を負うことができている。
よねと轟は、常に互いを補っている。つまり、二人はバディなのだ。
岩居は、雲野弁護士の遺志を引き継ぎたい一心でこの裁判に向き合っている。だから、裁判が雲野が望む方向に進んでいることに高揚感が先に立ってしまう。岩居はどこまでいってもイソ弁気質なのだ。
昭和36年12月
翌年1月の期日に向け、当事者尋問の申請がなされた。つまり、吉田ミキは法廷に立つ決意をしたということ。
夜の星家。法廷に立つことの意味を考える寅子に、航一の口から “心証” の言葉が出た。鑑定人尋問からずっと、原告は裁判官の心証に訴えることを大事にしてきたのは間違いないのだろう。
心証に訴える代償は大きい。だからこそ裁判官は、嘉納鑑定人が話していた “同情” に代表される “印象” を排除して進めなければならない。
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「お取込み中」との言葉はさすがにいただけなかった。
夜遅い時間の芸術家たちの高尚な集まりに参加していたのどかは、やはり芸術系の道に進みたかったのだ。
美大を志望していたのに、明律大学の英文科に進学させられ、銀行に就職したもののお茶くみばかりの日々。
百合の望む人生を歩んでいるのに、何もかも忘れてるのかよ!と、怒りを向けたところで通じない相手へのやるせなさを感じる気持ちは痛いほど分かる。
この当時の女性の多くが、のどかのような人生を送っていたはずだ。数年働いたら嫁に行き、子を産み育て、義理の両親のお世話をする。
芸術の道に進むなど、当時ではリスクが大きいことだった。だから百合はのどかに、女性として当たり前の道筋をつけてあげたかったのだ。
家政婦の吉本さんがお年寄りの扱いに慣れているのが有難いことよ……。
星家で一番、百合と接しているのは優未だ。もっとも、この頃はヤングケアラーなどという呼び名もなかったことだが。
深呼吸……優未のアンガーマネジメント……民法改正の頃の寅子ではないか……教えたのか?教えていないのだとしたら、優未はやはり優三さんの子だ……。
と思いきや!!のどかへのローキックは、法廷劇のときのひっかき寅子、もしくはピクニックで花岡を突き飛ばした寅子そのものではないか!!
優未のDNA、いい塩梅だ!!
「虎に翼」 9/4 より
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