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80歳の友だち

正確に言えば友だちのお父さん。

友達が入院したとき、一人でいるお父さんのおかずを持って

お見舞いに行った帰り

「一杯、飲んでくか?」と誘われ
多摩センターのお寿司屋さんで色々と話した。

前年に妻を亡くした彼は
「前代未聞の人生」を送っているらしい。
家事をまったくしたことがなかったし、毎度の食事の心配をするなんて考えもしなかった。
もともと食べるのが好きで美味しいものが大好き。

その日は、飲みながら
「家事は男女半分負担って、昔から当たり前だったら手伝えたのになー」
漁師の家に産まれスーツの仕立て職人だった彼は、まったくの不器用で頑固な昭和一桁男子。
妻が亡くなって気づいたって。
「俺はよ、家事・育児は女のすることだって育ったんだ」
そうだよね。
「でも主婦ってーのは大変だな」
ふふふ
「これから料理をいっぱい覚えたら天国でお母さんに惚れなおされるよ!」
彼はやる気満々。

この前まで
「俺は寿命っていう病気で、もう気力がないんだよ…」

なんてグチグチしてた。

最近は会うたびにレシピを伝授している。

そして、彼はちゃんと作っているんだよね。
自分の食べたいモノが作れることが嬉しいみたい。

食べることは生きること。

楽しんで生きてほしい。

モノを作っても
「美味しいね」って
共有できる人がいないと美味しさがちょっとになっちゃう。

その気持ちがわかるから、たまには食べに行かなきゃな。

そんな大切な友だちに、簡単で美味しいレシピをまとめた

レシピノートを作りはじめたんだ。

清さんは清さんで、毎日の生活でいろいろと料理をしていくようになった。

自分でレシピを完成させたポテトサラダ

あたしのレシピからは、小松菜の炒め煮
これは、あたしより上手につくれるくらいいっぱいつくったってさ。

一緒に味噌もつくった。

ヒャッヒャ言いながら、楽しそうだったな

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味噌を作ってから半年ぶりに遊びに行くことにした。

何が食べたい?

一緒にスーパーに行って、食べたいもの買って作ろう!と二人で買い物に

なぜか葉っぱつきのカブに食いつく清さん

カブの葉っぱで炒め煮をつくったら、
カブの葉っぱ、食べれるのか〜?
いやー、美味いな〜って

友達が帰ってくるまで、飲みながらご飯作って

清さんが上京した時のことや、お母さんとの馴れ初めやら聞きながら

夜は三人でカラオケして

ま、その次の日に脳梗塞で倒れちゃうんだけど。

あの日、倒れる2時間前まで一緒だったのよね。

入院してから、何回かだったけど
カボチャのポタージュとか持っていった。

ねぇちゃんの味付けは、俺にぴったり!
本当においしいな〜って言ってくれていたからね。

お正月は、介護食お節をつくった。

大好きなトマトジュースを寒天に
スィートポテト味のきんとき
毎年、お正月に食べる蟹をゼリー寄せに

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会話はできないけど、意識もなんとか、しっかりしてきたから

大好きな、食べるという力を借りて、生きて欲しかったのよね。

それから1回、お見舞いにカボチャのポタージュを持って、車椅子で病院の庭を散歩して
1ヶ月後に急に天国に行っちゃった。

まだまだ、おいしい介護食をつくる予定だったのに。

清さんは、本当に美味しい食べ物とお酒が大好きだった。

カラオケもね。

きっと、いまごろ天国でお母さんに

俺、料理がつくれるようになってよー。
けっこう、美味しいんだぞ。

なんて言いながら嬉しそうに、つくってあげてるんだろうな。

今でも、清さんの存在はとても大きい

日常が突然、不自由になり

食べるという当たり前のこともできなくなる。

おいしいものを好きな人が、最期までおいしく食べれるように

介護食アドバイザー資格をとった。





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