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夜伽の風鈴砕けて

歩道橋の水平線上
焼けつく夕日に手を振るのは
いつも日々の泡だった
彼方を彷徨う「墜落を夢見た亡霊」
硝子のような夕刻と夜伽の障子
さし込まれる刃先に映る人々は
今日も無観客試合を演じて
最期に遺るのは始発電車の放つ
無呼吸の悲鳴だけだ、と……
落花生散らばる鳥居の境界線上
一輪の椿と零れ落ちる右眼
未だに鳴り止まぬ偏頭痛を模した笛太鼓
向日葵を焦がした裸の太陽に
不敬罪の敬意を示さなければ
君は藍色の陰画のまま――
――君は轢断欠席のままだよ?
傍らに立つ断頭台の女
或いは超新星の揺らめきに
不意に視た終幕の夢のはじまりは__
「打ち上げ花火濡れて 唐傘目玉を抉る
首吊りの夏祭り 見世物小屋の行列
鼈甲飴の朝日 桜を犯す月曜火曜
薙刀翳す女学生 季節はずれの時雨は紅く」
蚊取り線香磊落せり
茹だる夏に注ぎこむは新たなる冷熱
早過ぎた埋葬と紅葉を抱擁するのは
書留を忘れた封筒と冷たい熱沙
「   」だと嘯く
あまりにも早過ぎた夏
水の無い貯水槽に浮かぶ投身自殺者
あまりにも早過ぎた夏
風鈴の無い理科室に浮かぶ、縊死体の揺らめき
――やがて造花の秋が訪れる
試験管に閉ざされた破滅への烙印
薬液に愛撫さるる薬液に彼らは希望を抱くことなく__散らばった星屑/元素記号
/食紅が氷砂糖の下敷きになるとき
すべての色が亡骸となる

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