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翠緑の平行世界

琥珀の季節を描くのは
最期の空中戦を求めて彷徨う巡礼者だった
あまりにも酸素に充ちた群青色の海
息を止めて、ライムミント掠めて
……微かな冷涼と共に
残酷な夏は呼吸を喪う……
翠緑の平行世界に映る亡霊
跫音の無い少女は
自らが翳すダガーナイフに
刻まれた血の行方を忘れてしまった
車輪の下の揚羽蝶を捜す
狂った老齢の小説家
彼の遺したダイイング・メッセージは
スペアミントの雨痕と共に掻き消され――
千草色華やいで 
(或る靑い花)は
自らの名を獲ることを許された
風化する水色と記憶、空白の花束
――いつかの八月は湿度計を壊し
救済の無い熱病だけが
少女たちの足もとを、そっと焦がした
影絵だけが抽象の季節を告げて
送電線の狂鳴は
誰かの縊死すら賛美してしまう
暗翳を染める真っ赤な表紙
薄れ雲に漂う紺碧の付箋
残り香のような淡いア_オすら、瞬く間に消えて__
やがて、最後の鴉が彼岸へと飛び立ってゆく

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