見出し画像

館長のしごと.0

「ねえ、館長ってどんな仕事するの?」

就任前にこの質問をされるたび、私は困ってしまっていた。
正直全然(聞き手が想定できている以上の)イメージがなかったからである。

数週間後には館長になる予定だったが、
特に以前図書館学を学んでいたわけでも、司書資格を持っているわけでも、図書館インターンをしたことがあるわけでも、誰よりも圧倒的に本を読んできたという自負があるわけでもない。

ないしは、ちょっと関わりのありそうな書店や出版社で働いていたわけでも、編集や広告の仕事をしていたわけでも、大学で研究をしていたわけでもなく、図書館長の知り合いなんて勿論1人もいない。


こんな「全て、ない」私をよくぞ小布施町は採用してくれたものだと思うが(町がリスクを厭わず思い切った意思決定をしてくださったのだなと感謝が絶えないが)、なにぶん、本当に利用者としてしか図書館に訪れたことがなかったので、仕事何するの?という質問に対しては「本を集めて、ピピっと貸出して、棚を整理する」くらいのことしか業務としてはイメージがつかなかった。

近く館長になるのにお恥ずかしい。。。

その時は、その時なりに一生懸命想像して
「まだわからないけれど、プロデューサー的な仕事だと思う。その図書館らしい企画やイベントを打ち出したり、外向けの発信をする仕事が主だと思う」
と答えていた。

が、

いざ就任してみるとそんなキリッとキラっとした感じではない。
初出勤して驚いたのは、まずその業務量の多さである。


……プロデューサー的な仕事だと思うよ??

いやいや、社員2人のベンチャー企業経営者の間違い。

それくらい忙しい。


そもそも、館長がというより、図書館職員が実は凄い量の仕事をしているのだ。
受付業務が8割だと思っていたら大間違い。
もちろん受付にいる時間は長いが、その最中もあれやこれやと業務をこなし、バックヤードに入ったらそれはもう集中して各々の仕事を鬼のように片付けていく。

本を受け入れる作業も実は一苦労だ。
図書館にはそれはそれはたくさんの本が毎日受け入れされるわけだが、(図書館では入荷ではなく「受入」という)日が経つにつれて当然書架がいっぱいになっていく。そうすると除籍をして処分をしなくてはならないが、この除籍もなかなか難しい。町の皆さんの税で成り立つ図書館なのだから、ほいそれと除籍には出来ない。基準を設けつつ、ひとつひとつチェックし、システムから除外し、バーコードシールを隠し、誰かに無料で渡せたり、リサイクルできる状態にするのだ。

小布施のような小さな図書館ですら、月平均120冊以上は新着の本が入ってくる。そうすると、毎月120冊は除籍していかないと追いつかない計算になる。

120冊の新着本は、すぐに書架に並べる状態で届くわけではない。
まずは、まっさらな普通に書店で売っているような状態で届き、本を管理するための書誌をダウンロードする。
システム上で検索できるようにした状態で、お次は請求記号の番号(<K913.アカ>みたいな背表紙に貼ってあるやつ)と貸出用のバーコードを1冊ずつシールプリントして貼り付ける。
その後は、多くの人が借りていっても傷みにくいようにするために全ての本に厚めのフィルムを貼る。フィルムを貼る前に、帯を取り外し、帯も大切な情報のひとつなので上手く切り取って表紙の裏に貼り合わせ、表紙を糊で固定し、丁寧に気泡が入らないようフィルムを貼っていくのだ。この作業を「装備」という。

これが結構大変で、それぞれちょっとずつ大きさが違う本に対して、フィルムをカットし、丁寧に本を傷めないように、しかし素早く作業していく姿は最早職人芸だ。職人は出来栄えも音も綺麗で、ぺりぺりしゅしゅしゅ、ASMRな音がリズムよく静かな図書館に流れる。それに比べて、新米館長が作業すると時間は3倍。失敗した時の「…ぁあっt」とか「おぅf…」とかいう余計なノイズつき。戦力外。


そもそも装備ができる状態になるまでで2〜3日かかり、早い人は1時間で平均12冊くらい装備できるだろうか。しかしながら集中して1時間作業できることはほとんどない。嬉しいことに、休み明けの水曜や土日などの忙しい日はひっきりなしにお客様がいらっしゃるのである。(延日平均にしても230名様くらいにご利用いただいているのだ)


平均4.8冊ほど借りられていくので、返却もドバッとくることが多い。
家族全員分カードを持ってくださっているご家庭なんかは、一度に20冊くらい借りて、一度に20冊くらい返してくれる。

一冊ずつ拭いて、汚れがないか、何か挟まっていないか中身を確認して、20冊を書棚のあるべき位置にひとつずつ戻す。

その他、(自動貸出機をご利用くださる方も多いが)借りていかれる方や、机の利用申請を出してくださる方、本のリクエストをしてくださる方、探しものがある方、貸出カードを作りたい方、無くしてしまった方、、、
そういった方々への丁寧なサービスを第一にお届けしつつ、上記のような業務も平均4人のスタッフ(朝夜は2人)が全力で遂行しているのである。
本を読むことができる状態になるまでの、図書館のイメージに似つかわしくない、このわちゃわちゃ感が伝わるだろうか…。


驚くのは、これがまだ業務のほんの一部である点である。


館長に就任してからは他の業務もあるため、同じような動きをすることはなくなったが、見習い時期は1日が終わるとぐったりしてよく眠れた。


館長の仕事のまずひとつは、「現場をよく知ること」である。
どんな作業があり、誰がどのように関わっており、どうすればより良い形にできるのかを考える業務改善も、スタッフの意見を汲み取りながら館長がしていくべき業務のひとつである。


プロデューサー的な仕事???
いやいや、ガッツリ現場マネジャー。


館長の仕事は、実に多様で奥が深い。


館長のしごと.01 に続く………



記事をお読みいただけるだけでとても嬉しいです。ありがとうございます。 もしもサポートをいただける場合は、図書館企画の運営費として大切に使わせていただければと思います。図書館の進化プロセスを今後もご一緒できたら幸いです。