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WE Run | Write, Eat, Run

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私たちが(そして誰かが)走り続けるためのリレーマガジン
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#エッセイ

はじめましての方へ、おすすめの記事。1-100記事篇

■はじめまして 『WE Run』は、“私たちが(そして誰かが)走り続けるためのリレーマガジン”というコンセプトのもと、走るをテーマに綴っていく共同運営形式のマガジンです。 “Write, Eat, Run”という3つのキーワードから生まれたマガジン名が象徴するように、書くことを通じて走ることについて考え、食事を楽しむように走ることを楽しもうとするメンバーが、書き手として参加しています。 目指すは、“読み終わったら走り出したくなるwebマガジン”。距離やペースにと

早朝ランのつづき

「見せたい場所がある。」なんと素敵な言葉だろうか。率直に言葉を発せられることは素敵だ。画面の向こう側には、澄んだ風景を背景に、朝日が輝いていた。もしぼくが素直で積極的だったら、ダイレクトメッセージで「今度その風景を一緒に観に行きませんか?」と送っていただろう。恋のエンジンがかかる予感がある。 手に収まる画面の向こうには、淡い光が差し込まれた住宅街やビルの谷間、大きな川の河川敷や海岸線が広がっていた。いま、自分の目の前から出ようとしている日の光と画面の向こうの風景がシンクロす

神田川を走る。現実を走る。

前回、前々回と川を走るということについて書いてきました。 前回は東京の隅田川、続いては同じ東京の一級河川である神田川について書いてきたいと思います。 神田川。 私の人生の中で最も馴染み深い川がそれである。なにしろ20年近くの間、私の生活圏を絶えず流れていたのだから。 私は先日27になった。ロックミュージシャンは27で死ぬというジンクスがあるが、(幸か不幸か)私にはロックミュージシャンに値する資格はないようだ。 そんな27年間の人生のうちの10年ほど、私は神田川を走り続

動く、腹減る、飯を食う

今朝、ランニング仲間が開催する「朝ごはんラン」というオンラインイベントに参加した。 朝起きて好きな時間に走り、午前9時にZoomで集合。各々自宅のキッチンで朝ごはんを作り、9時10分にみんな揃って「いただきます」する、といういい感じにゆるいイベントだ。 * 午前7時30分にスマホのアラームで起床した私は、ぐったりしていた。低気圧と、前日の夜に食べた横浜家系ラーメン(味玉トッピング)のせいだろう。少し気分が悪く、体も重い。とはいえ、イベントのために前日から材料の買い出しや

夜を駆け、そして紫の夜を越える

2021年3月25日、スピッツの新曲「紫の夜を越えて」が配信された。 私がその情報を入手したのは、配信開始から数日が経った午後だった。いつものようにYouTubeを垂れ流しながら仕事をしようと、ホーム画面を開いたら、淡い紫色をバックに佇む草野マサムネ氏のサムネイル画像が目に留まったのだ。 私にとってスピッツの音楽は、好きとか嫌いとか以前に、ただ自然に体の中に存在しているものだった。90年代半ばに父がハマり、CDを揃え始めた。当時小学生だった私もその影響を受け、父の部屋に忍び

高知で『南国』を走る “ 旅先で『日常』を走る 〜episode40〜 高知編 ”

前回のあらすじ~ 鳴門で『青空』を走る ~ “ 私が徳島に感じた印象は、美しき瀬戸内海と、パッとしない市街地のコントラストだ。唯一の観光資源である阿波踊りも毎年赤字続きで、衰退する地方の象徴的な存在である。 ” 高知で『南国』を走る 前回 ↑ の続きの話を。 2019年10月。淡路島から四国に上陸した私は、翌朝の早い時間に徳島駅前から高知駅前行きの高速バスに乗り込んだ。その日の昼過ぎの飛行機で、高知空港から東京に帰る予定だったのだ。 高知に向かう高速バスの車中で、

走ることは、生活の一部でしかない

走ることは好きだ。 でも、1番好きかと聞かれると、そうではない。たぶん4番目くらい。 それなのに、走る私の身体は、走ることが1番好きな人達が作ったものに拘束されていた。 秋頃、腕時計をスポーツウォッチブランドのものからApple Watchに切り替えたことがきっかけとなり、このちょっとした息苦しさに気がついた。 ■ 腕時計なのだから、走ることに力を使い切らないで欲しい 4年前、Apple Watchを初めて購入した時は、うまく定着しなかった。

後ろ向きに、走り出す

午前7時。隣でスヤスヤと眠る夫を起こさないよう、慎重にベッドから抜け出す。寝室のふすまを静かに閉めて、キッチンで常温の水を1杯飲む。まだ10月だというのに朝の空気はひんやりと冷たい。薄手のパジャマがそろそろ厳しい季節になってきたなぁと、覚醒しきらない頭でぼんやりと思う。 ボーッとしたまま、着替えるために玄関へ向かう。なぜ玄関で着替えるのかというと、昨晩、他でもない私自身がランニングウェア一式を玄関に用意しておいたからだ。今日から週に4日、ランニングをすると心に誓ったのである

情報過多の固い道を、ふた駅分走る【池袋~高田馬場】

※方向音痴の意識低い系ランナーが、月に一度、ひと駅分だけ走るエッセイです。 ある火曜日の午後三時、私は西武池袋本店の前に立っていた。 足元には、つい今しがた買ったばかりのランニングシューズを履いている。 神奈川県在住で、東京には三カ月に一度行けばいい方の私がなぜここにいるかというと、ずばりこのシューズを買うためだ。 来月、仲間内で開催される「トレイルラン」なるものに参加してみることを決意した。ゆるやかな初心者向けのコースで、距離は十キロほどだそうだ。しかし、それまで「月に

「忘れられたもの」の悲鳴を聴きながら、ひと駅分走る【大和〜鶴間】

※方向音痴の意識低い系ランナーが、月に一度、ひと駅分だけ走るエッセイです。 あぁ、なんて退屈な道なんだ。 秋分の日の午後三時、私は小田急線の線路沿いを走っていた。今日のスタート地点は「大和駅」。ゴールは隣の「鶴間駅」だ。線路沿いを走るのは、道に迷わないよう自分で設けたルールなのだが、それにしてもこのコースは退屈すぎる。左に線路、右に住宅。左に線路、右手に住宅……。もう一キロくらいこの調子だ。さらにこの日は諸事情により、荷物の入ったリュックを背負って走っていた。かかとが地面

野良ランナー、大衆浴場で戸惑う。

銭湯へ走る。 家から4kmほどの距離にある、流行りの大衆浴場を目的地に決めた。 銭湯が戸を開け始める午後4時前、Googleマップに連れて来られたのは曇り空の住宅街だった。 連休最終日だからか、歩行者や自転車がいつもより多い。 夕飯の買い物をしている人、近所を散歩しているであろう肩の力の抜けた服のカップル、きっと遠出を終えて家に帰る人。 誰にも迷惑をかけないであろう一本道を頭の中に描き、避けながら走る。 「走る場所」ではなく、あくまで「走ることを許されている場所」を走る野良

Googleは古墳の入り口を教えてくれない。

「朝8時にみんなで家を出て、各々勝手に走りましょう」 調子に乗ったイベントを立ててしまった。朝8時なんて、我が家のロボット掃除機が起きるよりも早い時間だ。 言い出しっぺであることと、部長を名乗っている責任感から、何とか起床して、Zoomに集った今日走るメンバーに挨拶をする。全国的に雨模様で、すでに走り出して外の景色を映している人もいれば、チャットだけで参加する人もいれば、映像も音声もオフで全く応答しない人もいた(ような気がする)。 いってらっしゃい、いってきますと声をかけてか

濡れた服を着て走る重苦しさのこと

午前8時、小雨がパラパラと降るなかランニングをする。初めての「雨の日ラン」である。いつもより人通りの少ない道、雨粒のかかった顔に風が吹きつけてひんやりとする感触、どれも新鮮だ。 いつもランニング時に着ているお気に入りの青いパーカーは、水をよく吸う素材。走っているうちに、ゆっくり、ゆっくりと湿っていくのを感じる。気が付いたときには、ずっしりと重たくなっていた。 水分を吸って重たくなったパーカーは、人間関係とよく似ているなと、走りながら思う。他人からの好意や期待といった「雨粒

安心と不安のはざまを、ひと駅分走る【湘南台~六会日大前】

まずい、7月が終わってしまう。最低月に1度はランニングをすると決めたのに、今月はまだ1度も走っていない。がしかし、やる気が起きない。そもそも生活圏内の道はお散歩で何度も歩いているうちに飽きてしまって、走る気にならないのだ。いつもと違う道をめちゃくちゃに走るのならやってみたいような気もするが、私は重度の方向音痴なので、下手をすると家に帰れなくなる。そこでふと思いつく。「そうだ、ひと駅分だけ走ってみよう」と。線路沿いにずーっと走っていけば、道に迷うことなく隣の駅にたどり着けるだろ