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短編小説 『巨人の足裏』 最終回

それから、1年が経った。

まずは巨人の足の止血を大量の綿と特注のテープで半年。
次に足裏の筋肉を柔らかくすることで足が山から出るように作業を進めて半年。
最近は指が動くことが多くなってきた。
止血してからというもの、回復力がすごい。これは人間よりもすごい。
もしかしたらそろそろ山から抜けるかもしれない。

「おーい! ルナちゃん!」
巨人の足のふもとの町の王子、ザイルだ。
僕が大量の綿を探しに町へ行った時、協力してくれるようになった。


と言っても最初は誰も協力なんてしてくれなかった。


たまたま王様の息子である彼と出会って、綿とテープを貰えるようになった。
が、目的は見え見えだ。

ザイル「なぁ、もういいだろ? こんな金にならない作業はやめようぜ?」
ルナ「やめてさっさと結婚しろ、ですか?」
ザイル「ハハ、そんな警戒するなよ。悪くないぜ? 一生楽して暮らせる」
ルナ「綿とテープを頂けたことには感謝しています。ですが、前も言ったように僕、、いえ、私は心に決めている方がおりますので」
ザイル「あぁ、幼なじみだっけ? でももう1年近く会ってないんだろ?」
ルナ「そういうことではありません」

巨人の足を見上げた。


ルナ「この足を助けたいという気持ちと同じくらい、私はジャンという幼なじみを愛しているのです。これはもう私の中では揺るがないのです」
ザイル「僕が真剣じゃないと思うかい?」
ルナ「そうですね。そう見えます」
ザイル「こんな形でしか表現出来ないバカな男もいるのさ」
ルナ「何度言われても、私の気持ちは変わりません」

ザイル「例えジャンにフラれてもか?」
ルナ「うっ、それは、、」
ザイル「もう女出来てるかもな」
ルナ「(グサ)」
ザイル「子どもがいても不思議じゃない」
ルナ「(グサグサ!)」
ザイル「ハハ、冗談だよ! ルナは面白いな」

ルナ「でも、その時は潔く諦めます」
ザイル「ほう、それは何でだい?」
ルナ「それもまた愛だからです。相手の幸せを尊重したいのです」
ザイル「フッ、君は大人なんだな。僕は、、」

その時、大きく、懐かしい声が聞こえてきた。
「おーい! ルナ!」

ジャンだ!

しかも、村の人達も一緒だ。

「ジャン!」

僕はジャンに抱きついて泣いた。
「ごめんね、ごめんね、、!」
ジャンが僕を抱きしめて言う。
「俺こそごめん、遅くなって」

村長が近付いてきて言う。
「ジャンに頼みこまれてな。ルナを助けてやってほしいと」
ルナ「助ける?」
ジャン「こんなデカい足を助けるには人手が必要だと思ったんだ。それで、、」
ルナ「ありがとう」
ジャン「皆を説得させるまでに時間がかかっちまった。悪りぃ」
ルナ「ううん。いいの。もういいの」
ジャン「それにしてももう大分良くなってそうじゃないか?」
ルナ「あ、それはそこのザイルっていう人のおかげで」
ジャン「?」


さっきまで話していたザイルの姿がなかった。

その直後に巨人の足が抜けて、宇宙に吸い寄せられるように地上から離れていった。

(終)


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