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おすすめの本「てくてく歩いてくーわたし流 幸せのみつけ方」須田亜香里の速度について

栄、覚えていてくれ

 2022年6月30日にSKE48須田亜香里さんの2作目の著作「てくてく歩いてく ーわたし流 幸せのみつけ方ー」が発売されました。この本は2018年5月からの中日新聞で連載されたコラムとパラリンピックの記事を加筆・再構成されたものです。1冊目の「コンプレックス力」がビジネス書ということもあって、彼女の生い立ちやこれまでの経験から学んだことから、コミュニケーションやビジネスに活かせる要素が書かれた本でした。1章1章で彼女の身に起こった心を揺さぶられるような体験や、そこからの学びが共有されている良書です。
 それに対して、「てくてく歩いてく」は、もっと一つ一つが細かく、「日常」の視線を感じさせる1冊になっています。それは即時性の求められるビジネス書とは違う、心地の良い遅さがあると思いました。
 この心地よい遅さというのは、言い換えるならば丁寧さです。
 芸能人として忙しい毎日を送る彼女ですが、この本の中では日常の中に訪れる生活のシーンや季節の変化、そして自分自身の内面や人生について、丁寧に見つめています。
 また、1回1回の構成が本当に素晴らしくて限られた文字数の中で、3段構成の文章で組み立てていることが多いと思うのですが、きちんと読み終えた時に読み始めとは違う気持ちや発見を毎回させてくれます。これは、かなり大変な作業を毎週のように繰り返していたのではないかと思います。
 
 彼女の感覚の中で特に素晴らしいと思ったのが、P77第3章の始まりである「ときどき遠回り」の文章です。
※なんとなく思い出した曲を貼っておきます。
 

 話を戻すと、自分自身の気持ちを早足にやり過ごさないというのが、本当に素晴らしいと思いましてね。何かと早さが求められる現代において、そこに流されずに味わう。そうすることで、当たり前だと思っていたことの中に特別が見えてくる。日常の解像度が上がってくるというんでしょうか。
 密かに僕が目指している生活や視点もこの辺りなので、今回の「てくてく歩いてく」は凄く読んでいて心地よかったです。


 
 読みながら印象的な回は付箋をつけていったのですが、( 1回目に印象に残ったのは、細いピンクの付箋。1回目も2回目も印象に残ったのが黄色い太い付箋 )それでも付箋の量が沢山になったので、なかなか絞るのが難しいですが、アイドル須田亜香里と一人の女性としての須田亜香里として印象的だったものを挙げたいと思います。
 
 まず、視点の変え方に関するものです。
 P138 「121 特別感をくれる食べ物」の回は、目から鱗というか、「うまくいかなかった日」を「ケーキを食べた日」に変えてくれるというケーキという食べ物の幸福感や可能性を考えさせてくれる回でした。恥ずかしながら、僕は食というものに興味がなく、推しメンが五十嵐早香さんになった時に、やっと食について少し考えると面白そうだぞ、と思うぐらいの食音痴でした。しかし、「てくてく歩いてく」では、沢山、食事に関する回が出てきます。時には自身の味覚の変化であったり、思い出の味であったり、彼女が持つ「食」の経験の豊かさを感じます。
 
 次にアイドル関連のことでの視点の変え方です。
 P43の「誹謗中傷の裏側」の回。
 誹謗中傷もSOSも興味の根本が繋がっている、という答えは彼女の想像力のリーチの長さを感じます。
 そして、なぜ私が存在しているのか、という問いに対する答えも素晴らしかったです。


 ただ、彼女の想像力のリーチの長さは様々な経験からだということが、この本からは分かってきます。
 たとえば、P179「人それぞれ」という回です。
 高校時代に友人と同じ時間と資料で勉強に暗記をしたのに、結果は彼女にとって良いものではなかったという経験。そこから彼女は、誰かと同じ時間をかけるよりも、自分をしっかりと見つめ、それぞれが違った努力を重ねたことに価値がある、という答えを出します。
 そして、最後の2行が特に印象的で、過去の自分は順位にこだわっていた、しかし、自分に順位がつかなくなって、初めて上記のことが思えるようになった、という箇所を読んで、僕はしばらく身動きが取れなくなりました。
 毎年行われていた総選挙は、まさに1年という全員同じ時間の中で、結果が試されるイベントです。努力しても思い通りにならないこともあります。思えば、高校時代の彼女と同じような悲しみを、彼女自身や他のアイドルたちも感じているのでは、と読みながら思いました。
 総選挙というイベントはジャンプアップというプラスの面もあれば、こういうマイナスの面もあるんだなあ、とまた新しい視点が一つ加わりました。

 さて、この「てくてく歩いてく」は視線や価値観の変化に関することだけではありません。僕としては、彼女の言葉を大事に思う気持ちが書かれた回も推したいと思います。
 P82「65 美しい言葉」で登場する「重ねる」という言葉。
 「重ねる」という言葉を使うことで自分の経験を少しポジティブに考えられるという発見が物凄く面白かったですし、自分も活用したいと思いました。
 P121「104 『今年』『来年』行ったり来たり」は、沢山バラエティ番組に出ている彼女ならではの言葉に関する回です。当たり前に観ていた年末年始の番組もこんな細かい心配りがあったのか、という発見がありました。年末年始と言葉に関しては、握手会での「あけましておめでとうございます」に関する回も印象的でしたね。

 最後に彼女のこれからに関することで印象的なことも挙げてみたいと思います。
 まずは、P193「176 生きるための考え方」の回で登場する、楽することと、楽に生きることは違うという考えは、20代で身につけた彼女の生きて行くための考え方です。ネガティブな自分と様々な経験を重ねていきながら、身につけた考えです。この回の最後にもありましたが、果たして30代の10年間を超えた先に、彼女はどんな考えを身につけているのか楽しみです。
 そして、P46「41 継続よりも難しいこと」です。
 自分の意思で辞めることは、継続するよりも難しいのではないかという彼女の言葉は、SKE48からの卒業を決めた今読むと、リアルタイムで読まれた方からすると、また違う読後感があるのではないでしょうか。卒業発表をした時の、言葉の中に「人生を学びながら味わいつくしたい」という言葉がありましたが、きっと彼女ならこれからも丁寧に「てくてく」学んだり、味わったりしていくのではないか、と思っています。

 日曜日という一週間の中で少しだけ、ゆっくりとした気持ちになれる日に、彼女と同じ視線で自分の毎日を思い浮かべてみませんか?

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栄、覚えていてくれ

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