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五十嵐早香のnoteは何故面白いのか? 第4回「最高の今日の為の過去」

 少しだけ映画の話をさせてください。
 2022年12月3日に公開された「THE FIRST SLAM DUNK」は、事前の情報をシャットアウトした状態で公開されました。まだ、観ていないという方の為にネタバレなしで書くと、バスケットボールの試合と原作ではあまり描かれていなかったある登場人物の過去が交互に描かれる構成になっています。
 ただ、この過去のシーンおかげで、たった一つのアクションにもレイヤーが加わる素晴らしい演出でしてね。試合の合間に登場人物の悔しかった体験やバスケへの初期衝動、苦しかったことが何度も差し込まれます。
 やがて、試合と過去の繰り返しを観ながら、僕はこんなことを考え始めました。
「悔しかったあの時も、苦しかったあの夜も、全部、最高の瞬間の為にあるんだな」
 試合は終わり、日常が描かれますが、また次の最高の瞬間の為に毎日は続いていることが示されて( ちゃんと『次の最高の瞬間』を試合のスタートと同じ構図で見せて )映画は終わります。
 映画館を後にしながら、この映画を観た今日も、いつか最高の瞬間につながっているんだろうなあ、と思いました。

 さて、それでは本題に移りましょう。
 五十嵐早香さんがnoteを更新しました。
※未読の方はこちらを読んでから続きを読んでくださいませ。

 「お金」と「自立」を巡る物語から始まり、やがて、「承認」と「死ぬことから生きること」についての物語になっていきます。
 書き出しが会話から始まるのが新鮮ですね。
 ご両親から頂いていたお小遣いが、苦しみを意識させるものになっていたとは、「親がいなければいきていけない」、「与えられている」という意識は思春期の頃に、皆さんも意識したことがあるのではないでしょうか。
 普通の人ならそれでも、親に甘えて生きて行くと思います。
 僕も親のすねをかみ砕くぐらいの勢いで、10代は生きてきたのではないかと思います。
 でも、彼女はそれに納得いかず、与えられる食べ物すら食べたくなる時もあったそうです。
 この自立心の強さは、本当に素晴らしいというか、早熟だなと思います。
 与えられた環境に甘えず、自分一人で立とうとする意識は、彼女のこれまでの好奇心や独立心、洞察力にも繋がると思います。
 
 話を進めると、SKE48の10期生オーディションは、最終投票によって決まりました。ううむ、すっかり忘れてましたが、そんなシステムがあったんですね。この親から与えられたプレゼントは、よかれと思ってプレゼントしたものだけに厄介で、「何をこなしていても嬉しく感じられない」という焦燥が彼女を襲います。自信を付けるためには、実績が必要です。成長や成果を認められる何かが。しかし、残念ながらコロナが活動を停滞させます。
 この辺りの文章は2020年代、もしかすると、多くの研究生たちの胸に去来していたものかも知れません。頑張りたいけれど、なかなか頑張れる社会状況ではない、ということですね。

 そこから、彼女はアルバイトを開始します。
 ここで注意して欲しいのは、早香先生は文章中できちんと5万円と事務所からの資金で十分だったと書いていることです。彼女はあえて、自分の足で立とうとします。
 バイト→レッスン→自主練の日々。
 バイトという精神的に成果を感じられる場所があったというのは、嬉しい反面、良いことばかりではなくて、「SKE48」であるということで、ホールからキッチンへとあっさり回されたこと。顔がカワイイということで冷やかし半分でお客さんから声をかけられること。
 これは、全て彼女の外側のことです。
 それに対して、生配信をしている時に訪れるファンの方とのやりとりが、楽しかったこと、「認めてくれるし、勇気もくれるし自信もくれる」こと、この辺りは彼女の外側ではなく、内面も知っているからこそのやりとりだと僕は思っています。だから、承認や自信ももらえるのかな、と考えました。自分のことを全然知らない人に外面や所属しているものだけで評価されても、あまり嬉しくないですよね。
 
 しかし、悪夢はすぐにやってきます。
 食欲がなくなり、突然死にたくなります。
 これが冬の時期でしょうか。
 一人のファンとしては、よくぞ死なないでくれてありがとう、と思いましたが、死のうと思っていた彼女を救ったコンカフェとオムライスには、感謝しかありません。知らない誰かの優しさが、彼女を救っていたとは。
 
 アイドルを休業した彼女は、家から出ることを決意します。
 ただ、「家出」という形で。
 ここでも、「未成年」ということや「女性」ということで知らない男性からのDMがバンバン来ます。先ほどの喫茶店の男性たちと同じかそれ以上に気持ちが悪いですね。
 この頃の自分のことを「正気じゃなかった」と書いていますが、本当にこの冬の時期に大きな事故が起きなくて良かった、と読みながら胸を撫でおろしました。
 
 やがて春になり少しずつ、行動的になっていきます。
 「段々とこの世界でまた生きたくなった」と書いた彼女の文章は、とても説得力がありましたし、川沿いの道を走る彼女の様子が少しだけ思い浮かびました。
 両親に改めて「一人暮らし」を提案します。
 それはすんなりと認められ、アイドルにも復帰し、正規メンバーとして昇格もします。
 ただ、そこにはずっと休んでいたせいで生まれた他のメンバーとのスキルの差がありました。そして、何よりあまり変わらなかったお金のこと。
 最初に出てきたお金の問題が、また顔を出してきます。
 昇格しても研究生の時とあまり変わらなかったのです。
 「勝手に期待していた」と書いていますが、この時の絶望は想像するだけで辛くなります。
 
 最終的に彼女は「アイドル」と「自立」を天秤にかけ、「自立」を取ります。
 世の中は金ではないけれど、アイドルはお金「も」必要である。
 そのことを彼女は19歳から20歳になって知るところで、言い換えるならば、一つ大人になるところで終わります。
 
 読み終わって最初に思ったのが、僕らの知らないところでこんな時間を彼女が過ごしていたのか、ということです。
 それは決して良い思い出ばかりではないですが、普通に親に甘えて5万円使っていたら、決して触れることの世界や体験、感情だったと思います。勿論、触れずに済むのなら、触れないで良いものや感情も沢山あったとは思います。
 自分の中の辛い過去を記憶から解放して書いてくださったことに、本当に心から感謝します。身を切るような告白は、いくつかの空白の改行によって、よりエッジが立ったものになったと思います。
 読み方によっては、「なんで、研究生のお金事情について書くんだ!」とか「じゃあ、自分の推しも金で入ったのか!」という方もいらっしゃるかもしれませんが、彼女がわざわざ「お金『も』」と強調しているところを汲んでいただければと思います。
 あとは、違反行為についてSKE48の運営さんがどう考えるか分かりませんが、是非、システムを考え直す問題提起になって欲しいなと思います。一方で「仕事」としながら、一方でまだ未熟だから給料は少なめという状況の解消のきっかけになればと思います。
 給料を上げろ、という単純なことではなく、事務所内での仕事の回し方についてです。一人暮らしメンバーや家庭的に金銭の負担が大きいメンバーは特に。資金が無限にあるわけではないと思いますが、大事なメンバーが無理な選択をしなくて良い、「仕事」としてアイドルを選択できるシステム作りは、必要ではないかと思います。

 話を早香先生に戻しましょう。
 「ウェルビーイング」という言葉があります。
 簡単にいうと、「あなたが居ることで私も幸せ」という状態やコミュニティです。早香先生が「ウェルビーイング」を感じられる環境が少しでも増えて行ってほしいな、と思います。それは今も続けている生配信でも、お仕事の撮影会でも、noteでも。
 
 20代の彼女はどんどん「自立」を進めています。
 たとえば、noteのサポートも彼女の「自立」を助けることになるので、ぜひ、あの記事に心を動かされた方はサポートしてみてくださいませ。
 今、ゼロイチというグラビアアイドルが沢山いる事務所に、彼女は所属しています。
 一度は片手を離した「自立」と「アイドル」の両立へと少しずつ、近づいています。
 あの時の悔しい思いや、苦しい時間の延長線上にある、あの時、死ななかったから見られた景色が、今年いくつもあったのではないか、と僕は思います。


 



 もがいたあの時間も、最高の瞬間に繋がっていると思います。
 だから、次の最高の瞬間の為に、苦しくても辛くても今日を生きれたら、と思います。

 早香先生の人間性が大好きで、今日も生きていてくれるだけで幸せな人は沢山いると思います。その中の本当に末端の一人として、これまでの彼女のもがいてきた日々と、これからの彼女の物語を祝福しながら終わりたいと思います。今日はオムライスが食べたいな。


こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。