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#009. 突如としてインドに現れたヘヴィメタルの化け物、BLOODYWOOD。

BLOODYWOOD「Rakshak」(2022)

はじめに

日本列島にはいくつの島があるのか、ご存知だろうか。
政府の公式発表では、北海道、本州、四国、九州、沖縄本島を含め、その数、なんと6,852島である。
領土は先人の努力の結晶とはいえ、この数は半端じゃない。

ちなみに、本土を除いた6,847島については、全て「離島」としてカテゴリされている。
その中でも、人が住んでいる有人島はたったの416島。
それ以外の6,432島は無人島と呼ばれている。

無人島。
ああ、無人島よ。

これほどロマンを感じさせる日本語が他にあっただろうか。
その筋の人には、秘湯ならぬ「秘島」と称されているのもよく分かる。
調子に乗って、本日はセンチメンタルな雰囲気漂う秘島を紹介したい。

孀婦岩

孀婦岩そうふいわ、という東京都の八丈支庁が管轄する島がある。
島というより、その名の通り岩であり、人はもちろん住んでいない。

この孀婦岩は伊豆諸島の最南端に位置し、周囲に何もない大海原にポツンとそびえ立っている。
その高さ、なんと99メートル。
ちゃんと計った人がいるのだ。

どうやらこの形状から、孀婦岩と名付けられているらしいのだが、この孀婦とは寡婦、つまり「やもめ」のことである。
(第一発見者には女性の後ろ姿のように見えたらしい。)

島の名前は、その造形によって名付けられることが多々あり、中でも臥蛇島がじゃじまなどは特に印象的だが、孀婦岩というのもなかなかどうして、純文学的且つセンチメンタルな響きで思わずロマンを感じてしまう。

孀婦岩

無人島とはいえ、登頂記録は残っている。
直近では、2017年にNHKのクルーが登頂に成功している。
当時、TVでも放送されていたので記憶にある方もいるかもしれない。

しかもこのクルーは日本のロストワールドとも呼ばれている超絶秘島「南硫黄島」にも上陸しているので、担当ディレクターは相当な物好きだろう。
せっかくなので、そのディレクターの言葉を引用しておく。

(南硫黄島の)撮影は、10年かかったダイオウイカの撮影をも凌ぐ大変さでした。

NHKスペシャル | 秘島探検

さて、孀婦岩の登頂記録について、Wikipediaには「1975年7月21日に早稲田大学岳友会の水野生雄と田村俊輔が初登頂に成功した」とある。
今から40年以上も前に、この絶海の孤島までエンヤコラと船を漕ぎ、ロッククライミングの要領でもってしてピークハントしたというのだから驚きを隠せない。

同時に、日本人が初登頂していたことに少なからず安堵感も覚える。
人の住めないこんな小さな岩山でも、我が国の立派な領土であるからだ。

伊豆諸島地形図

ということで今回は、果てしなき絶海の彼方に突如として現れた孀婦岩のような、珍しいバンドを紹介してみたい。
ヘヴィメタル新興国、インドからの刺客である。

民族楽器シタール入りフォーク/ミクスチャー/NU-METALバンド、BLOODYWOODブラッディウッドの'22年デビュー・アルバム。
SLIPKNOTあたりを彷彿とさせる激音&轟音メタル・サウンドに、シタールが絡む中毒性の高い作風。
Voパートもラップ的にまくしたてたり、インド民謡的な歌唱を取り込んだりと変幻自在に動きまわる。
SLIPKNOTだけでなくSYSTEM OF A DOWNあたりのファンにもオススメ!!

disk union

すでにHR/HM界隈では、予想以上のクオリティの高さにザワつきはじめていることは言うまでもないが、上に引用した文章にもあるように、その実体は極めてモダンなミクスチャー系のヘヴィメタルである。
何はともあれ、MVにてその驚異的なサウンドを体感して頂きたい。

各メンバーのルックスのせいか、良くも悪くも野蛮でタフなイメージが先行しがちかもしれないが、その音作りは巧妙且つ知能的であり、およそ様々なジャンルを内包していることに驚かされる。

確かにSLIPKNOTが登場した以降の、ヘヴィ&ラウドなニューメタル的要素を前面に押し出してはいるものの、昨今のジェント等に通じるプログレッシブでテクニカルなアレンジが程よく効いていて、それがバンド全体の質感を高めていることは間違いない。

そもそもヘヴィメタルとは、その成り立ちからしても、レベルの高い楽器演奏スキルが必要不可欠である。
彼らはその点を十分に理解し、実践していることがよく分かる。

加えて、フォークメタル的な要素、つまり現地に伝わる民謡という土着文化を自らの手で参照することによって、事もあろうにまるでメロデスのように聴こえてくる瞬間がある。
もちろんこれは良い意味であり、インド由来の現代民俗音楽としても十分鑑賞に耐えられるものだ。

特に以下に貼り付ける「Dana Dan」という楽曲の破壊力は凄まじい。
このカタストロフィ的世界観、それはまるで日本のゴジラのように「インドに突然現れた化け物」と僕は喩えたのだが、その意味が如実に伝わる1曲ではないかと思う。

僕の記憶の中では、フィンランド出身のStam1naスタミナというバンドと邂逅した時と同じようなカルチャーショックに近い。
Stam1naも一言で言えばミクスチャー系のヘヴィメタルということになるが、あちらは英語ではなくフィンランド語だったこともあり、その世界観はさらに独特で強烈だった。
サウンド的にはオルタナティブの要素が強いこともあり、決して万人向けとは言えないが、良い機会なので彼らのMVを以下に紹介しておく。

この曲を聴け!

ということで、そんな鬼気迫るBLOODYWOODのデビューアルバムから、お気に入りの1曲をピックアップしてみよう。
それは3曲目の「Zanjeero Se」である。

どこか猥雑でハードコアな雰囲気のあるラップメタルやニューメタル系のサウンドに苦手意識をお持ちの方は、この曲から聴いてみて欲しい。
本作の中でも、エモーショナルに全振りした楽曲だと思う。

往年のHR/HM好きには恐らくBLIND GUARDIANブラインド・ガーディアンを彷彿とさせるが、同時にBREAKING BENJAMINブレイキング・ベンジャミンやREDなど、モダンなUSA産HR/HMの地平線さえ見えてきそうな、珠玉のパワーバラードである。
この曲が収録されたことで、アルバム全体が引き締まったように思う。

肝心のアルバムの内容については、似たようなアレンジの楽曲が多いので、正直なところ、比較的飽きやすい部類である。
しかしそこはデビューアルバムに免じて赦して頂きたい。

むしろ今にも暴発しそうなエネルギーが、実はしっかりとアンダーコントロールされているという事実に、ベテランの風格すら漂わせている。
もはや若気の至りでも何でもなく、結成10年、通算5枚目のアルバムかと思わせるぐらい、冷静に今の音楽市場を狙った狡猾さがここにあるのだ。

無論、これら全て、彼らの計算である。
そもそもBLOODYWOODというバンド名の由来は、インドの映画産業を表すボリウッドから来ているとも言われており、つまりそこには音楽市場、もっと言うならチャートミュージックへの意識の高さが窺える。

要するに、彼らは売れ線のヘヴィメタルを目指しているということだ。
そのためにはあらゆるジャンルの良いところを盗みまくり、それを巧く自分達の武器や防具にしていくわけで、この手法はスウェーデン出身のAMARANTHEアマランスに近いとも言えるのではないだろうか。

デビュー当時のAMARANTHEは、そのMVにおいて映画的な世界観、つまりハリウッド映画をテーマにしたようなコンセプトで巷のメタルキッズを熱狂させたバンドであり、ポップメタル、昔風に言えば産業メタルという言葉を我々に強く連想させたことは記憶にも新しい。

また、LOVEXラブエックスというフィンランド出身のバンドも、チャートミュージックへの意識の高さが極めて顕著だったことも付け加えておく。
彼らはメロディアスなハードロックにEDMの要素を加えることで、次世代のスタジアムミュージックを構築しようと企んでいた。

その影響は隣国のスウェーデンにも波及し、皆さんご存知、SMASH INTO PIECESスマッシュ・イントゥ・ピーシズが次世代ハードロックの旗手として頭角を現したのがここ数年で起こった出来事だ。

AMARANTHEもLOVEXもSMASH INTO PIECESも、売れ線のヘヴィメタル&ハードロックを標榜しているので、細かい音楽性の違いこそあれど、古今東西あらゆるジャンルのサウンドを取り込んでポップに仕立てるBLOODYWOODもまた、同じ穴の狢である。

むしろここに、BLOODYWOODの存在価値があると言ってもいいぐらいだ。
デビューアルバム発表前の彼らが、様々なポップスをヘヴィメタル風にカバーしていたのがその証左である。

余談になるが、インド出身のヘヴィメタルと言えば、KRYPTOSクリプトスが前から好きで、2019年にリリースされた「Afterburner」は突出して素晴らしかったことを思い出す。
この作品で「正統派オーセンティック」という言葉の意味を改めて界隈に示した功績はもっと評価されて然るべきだろう。
一見してオールドスクールなサウンドだが、実は新しい発見に満ち溢れている傑作なのである。

あまりにも良い作品だったので、いつの日か記事にしたいところだが、今回のBLOODYWOODのデビューアルバムがその水準に達しているかどうかと問われると、自分の中でも判断に迷ってしまう。
それはやはり、似たような楽曲が多かったことも原因の1つになるだろう。

なのでここはひとつ、次回作に期待してみたい。
本作での少ない欠点を即座に修復出来るポテンシャルが、彼らにはある。
なにしろBLOODYWOODという化け物は、まだ「蒲田くん第2形態」なのだから。


総合評価:88点

文責:OBLIVION編集部

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