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イラストレーターとしての営業力

僕は大学時代まで美術の専門的な教育を受けた実績もなく、そして就職活動そのものにも無頓着で本当に何も考えずに何となく人生を来てしまった文系の学生だったため、土壇場で選べる職種は極めて少なく、さらに面接でのテクニックのようなもの(※端的に、相手が欲しがる言葉を選ぶというような)もなく、それでも自分を落とす会社の方がおかしいと本気で思えるくらい真の馬鹿野郎でした。

結果、「縁あって」というよりも、仕事があまりに過酷(主に精神的に)なために新卒が殆ど1年持たずに辞めていく感じの会社に、そういった背景の予定調和で大量に採用された営業職の1人として勤務していました。


成り行きで始めた上に先輩との反りも合わず、時には飛び込みで歩き回ったり、何もない日は一日中電話をかけては窓口の担当に話を最後まで聞き終える前に切られ続ける毎日、という基本はつらい仕事でしたし、現在の仕事とはかなり無関係なものを売っていたのですが、では全く何の意味も自分に残らなかったかと言われればそうでもなく、

・ある種の厚かましさが求められる中、全く人見知りしなくなった
・「ものを売る」というやり取りとお金の動きと重みを知れた
・少なくともここに自分の適性は無いと解ったetc..

というような現場で得られたものと、さらに辞めた後で時間が経つ程に、当時の自分が如何に無知で幼く生意気で馬鹿だったかを理解するに至り、今では皮肉でも何でなく心からあの頃の環境と苦労に感謝しています。
(「反りが合わなかった」と書いた先輩も、今思うと僕が一方的に悪いです。)

また逆にそう思える今なら、あの頃と同じ仕事をもう少しはマシにこなせる気もしますw


そして現在、独立してからこっち、イラストレーターとして会社にいた時以上にこの時代に得た経験値に大変助けられています。

当時の僕はまず、自分が「売って来い」と言われたものをただ会社の用意してくれた雛形に沿った説明を流暢に行った上で売れないのなら、それは商材かお客さんのせいだと思っていましたし、自分の興味の幅や可愛げのようなものを総動員して「人として愛される努力」「信頼される努力」をしていませんでしたし、そして何より、それもこれも自分の売っているものに誇りも愛着も自信もないから仕方がないという自分勝手な発想を、世界の真実とばかりに思い込んでいました。

しかし現在のように自分の個性や技量に完全に紐づき、納得感を持って商材を扱っていないとおかしいという状況に身を置いた事で改めて気づく事ですが、自分の専門分野において「大抵のお客様は素人なのだ」という大前提の元、

・技術ではなく、まずは言葉で説明を求めている事
・「同じものを買うなら良い人から」という常識的な感覚
・謙虚さは保ちながらもリードはしてほしいと思っている事
・これらが如何に満たされているかで支払いへの印象も変わる事etc..

といった、お金を払って専門家を雇う相手が当然有している権利と要望は、客層や業界によってあまり変わらないものだという事です。


以前にも書きましたが、イラストレーターを始めた当初、僕は「絵が上手ければ売れる」「技術だけが自分の証明だ」と本気で考えていました。

しかしイラストレーターとして会社で雇われていた経験が独立するまでのアプローチとして「自分という商材」の中に13年かけて社会性を練り込んでくれたおかげで、これが全てではなく「良くて半分」という結論を与えてくらました。

言い方を変えると、正確には技術部分へのこだわりは勿論持つべきですが、それは外向けのものでなかった、という事です。



お客様から見たら絵は上手くて当然なので、要望を聴く力やそれを踏まえての提案内容や意見の幅と折れるタイミング、聴き易い言葉選びに表情、連絡や応答のマメさや作業スピードや金額への納得感といった「絵以外のどんな職種にも共通するサービス部分」こそが、「専門家ではないお客様」にとってより具体的にそれと分かる人材の質であり、実は絵の技術以上に競業との差のつく部分だと今の僕は考えています。

「ブランディング」ではなく、もっと堅実で地味で直接触れた人にしか伝わらない反面「誤解がない事」が強みです。


現在僕は、「商材としての自分」の特性と偏りを考え抜いた末、「技術的制約の少ない、説明が上手いイラストレーター」という、お客様にとって割と都合の良い収まりを見出だし、そこに自分も気持ちよく納得出来ています。

「イラストレーターとしての営業力」というタイトルで書き始めましたが、結局そういうものは「不貞腐れずに考えながら続けた結果得られる人となり」という、他人様から見たら何の参考にもならないものが今のところの僕なりの結論で、毎度定番になりつつありますが、「イラストレーターとしての」の部分に関してはバッサリとカットしても良いくらいの身も蓋もない一般論で恐縮です。

ただ、知名度も個性もない自分の場合、やはり商売上の先手を取る事は正直今後とも難しい以上、結局は成り行きとはいえ折角頂いた御縁の一つ一つを大事にするという事に尽きますし、逆に言えばそれは自分が向こうから大事にされない事には適わない事でもありますので。



新卒の営業時代、同期の中に1年目にして売上も優秀で本当に明るくて誰からも愛される太陽みたいな男がいまして、当時は僕の「適正ナシ」への生きる証明のように見ていましたが、今思えば僕が今頃気づいたこういった事柄に対して、彼はもっと早くから敏感で努力家だった側面も多分にあったであろうと考えると、恥じ入るばかりです。