見出し画像

令和版・関白宣言

 先日とあるイベントで久しぶりに、さだまさしの「関白宣言」を聴いた。若い人は知らないと思うが、この曲は今から42年前の1979年(昭和54年)にリリースされたヒット曲である。初めて聴く人は、歌詞の内容に衝撃を受けるだろう。
 まず「お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある」に始まり、「俺より先に寝てはいけない 俺より後に起きてはいけない」「飯は上手く作れ いつも綺麗でいろ」と続く。ここまで聴いて一緒にイベントに来ていた20代の女性が「これ、無理ですよね。厳しすぎる」、近くの席にいた30代前半と思しき男性は「俺もこれ無理っす、こんなこと嫁に言えないっす」と言っていた。
 確かにそうかもしれない。「お前は俺の処へ 家を捨ててくるのだから 帰る場所は無いと思え これから俺がお前の家」のくだりなど、昔結婚する時に父から言われた、『お前はもう○○家の人間になるのだから、めったやたら実家に帰ってくるな。お前の居場所はもう無いと思え』の言葉に恐ろしいプレッシャーを感じ、「女三界に家なし」とはまさにこのことと、震えあがった記憶がよみがえる。この曲が流行ったとき、そして私の父世代の人間からすると、こういう考え方は珍しくなかった。
 

 しかし、よくよく聴いて欲しい。「飯は上手く作れ~」の後には「出来る範囲で構わないから」と続き、「幸福は二人で育てるもので どちらかが苦労してつくろうものではないはず」そして最後には「忘れてくれるな 俺の愛する女は 愛する女は生涯お前ただ一人」と締めくくる。
 昭和から平成、そして令和になった今現在、ここまで言える男性がいるだろうか?もちろん口だけならなんとでも言える。しかし、溢れる自信と愛がここまで言わせることができるのである。そして、その自信とは、日本が高度成長期からバブルが弾けるまで、年功序列、終身雇用が保証されていたからではないか?と穿ったとらえ方をすることができる。もしくは、サラリーマンでなくても、頑張って働き続けていればある程度努力は報われる社会だったからではないのだろうか。そして、本当は「溢れる自信」などなくても、「男たるもの」という刷り込みがあり、女に弱音を吐いたり、弱みを見せてはならない、という考えが根底に流れていたからではないかと、男性のしんどさも感じる。


 私の父は、さだまさしより少し前に生まれた「焼け跡世代」である。この歌の歌詞にある「愛する女は生涯お前ただ一人」の「愛する女」なんておそらく生まれてこのかた一度も口にしたことは無いと思う。しかし、お酒は好きだが、「飲む、打つ、買う」で母を困らせたことは一度もない。そして、歌詞の中の「忘れてくれるな 仕事も出来ない男に 家庭を守れるはずなどないってことを」に至っては、父から『妻と子ども三人を養うために必死で働いていて、お前たちと進路や将来について、じっくり話ができなかった、叱ることしか出来なかったことを今では悔いている』と言われた時のことを思い出す。家父長制というものは、男も女もしんどいものである。しかし、人間はしんどい思いをして作り上げたものほど大切にしようとする。
 

 昭和は良かった、というのは簡単に言えるが、時代の流れの中のただの一部分である。私たちの様にバブルが弾けたころに社会に放り出された世代からすれば、たまたま好景気を生きた人が幸運だっただけで、不景気はデフォルトであり、正社員になるのは当たり前ではなく「狭き門」である。そんな不安定な世の中で、男であるだけで威張ったり、女であるだけで当たり前に扶養されたり「愛する・愛される」自信など持てるはずもない。歌は世につれ、世は歌につれとはよく言ったものだ。そこで、この曲の歌詞を今風にアレンジしてみた。

令和版:関白宣言改め「予めご了承ください」
 僕のパートナーになって頂くにあたって、あなたに少し伺っても大丈夫でしょうか?ちょっと不安なんで僕の話を聞いてください。僕より先に寝てください(一人で深夜にネトフリ見たいんで。もちろんうるさくしません)僕より後に起きても大丈夫です。(あなたはパン派だけど、僕はご飯派なんで)ご飯はあなたのほうが上手だから作ってもらえると助かりますが、僕も好きな方なんでお弁当とか、週末にパスタとか作ります。洋服とか化粧品はあなたも働いてるのだから、好きに買ってください。たまにおしゃれしてくれると嬉しいです。仕事にやりがいはあるけど、一番大切なのは家族です。でも、喧嘩をすることもあるだろうし、仕事でくじけることがあるかもしれない。その時はあなたに頼るけど、もちろんあなたもつらい時は僕に頼ってね。二人で困難を乗り越えたら、絆はもっと強くなると思うから、いろいろ話し合おう。
《中略》
実家にはいつでも帰っていいからね。良ければ二人でどちらの実家にも遊びに行こう。どちらの家族も喜ぶと思うよ。子どもが独立したら、僕より先に死んではダメだよ。僕が死んだあとも長生きして、人生を謳歌してほしい。僕が死んだとき、悲しみ過ぎないでね。(自惚れ過ぎかな?)ただ、僕と結婚して良かったなぁと少しでも思ってくれたら本望だよ。忘れないでね、僕はあなたを愛してる。一生かどうか分からないし、幸せに出来るとは言い切れないけど、そうしたいし、努力する。あなたも同じ気持ちでいてくれたら、僕はとても幸せだ。本当だよ。もう一度言う。あなたを愛してる。
 よく読んだら、昭和版も令和版も本質は同じことを言っているような気がする。でも今の世の中、言葉を選ばないとダメなんです。くれぐれも気をつけて愛をお伝えくださいませ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?