ノスタルジーで心を満たす安藤勇寿「少年の日」美術館
実は美術館の多い佐野市。市内には4つの美術館があります。今回私が訪れたのは森の中にたたずむ安藤勇寿「少年の日」美術館です。自然の豊かさを感じ、素直な気持ちで作品と向き合える素敵な場所でした。
懐かしさを呼び覚ます安藤勇寿さんの色鉛筆画
皆さんが懐かしさを感じるときはどんな時でしょうか。私が懐かしいなと感じるのは、今と過去の記憶がつながった瞬間に湧き上がる感情だと思います。
安藤勇寿さんの「少年の日」と出会ったのは、小学生のころでした。実家に画集があり、何気なく眺めていたのを思い出します。当時は「色鉛筆でこんな作品が描けるのか、すごいな。」とか「昔の子どもはこんな場所で遊んでいたのか。」とパラパラと画集をめくっていました。
この美術館はその名のとおり安藤勇寿(あんどうゆうじ)さんの原画作品が展示されています。佐野市出身の画家である安藤さんは「少年の日」をテーマに、何気ない季節の中での日常の大切さを色鉛筆で描き続けています。
まず驚いたのが絵の大きさ。画集ではA4サイズだったのであまり気にしていなかったのですが、原画を実際に見ると畳3畳や5畳サイズの作品がずらり!すべて色鉛筆で描いたとは思えないほどダイナミックな作品でした。まるで主人公の少年たちとキャンバスの中で一緒にいるように引き込まれます。 初めての場所なのに、なぜか感じた懐かしさは、絵の世界観と古い記憶がリンクしたからなのかなと納得しました。
館内は常設展示のほかに企画展を開催中です。9月1日まで新作の原画を拝見することができます。ちょうど今年は人生初のたけのこ狩りを体験したので、「たけのこは孟宗竹か真竹か」というメッセージがつけられた作品に「私は真竹派!」と元気よく答えてしまいました。
また美術館のお庭には「きょうだいの家」「ともだちの家」というはなれがあります。現在「ともだちの家」はお休み中ですが、絵本を中心としたミニ図書館「きょうだいの家」は利用することができます。こちらにも作品が展示されているので、靴を脱いでのんびり鑑賞するのもおすすめですよ。
自然体を取り戻して作品を楽しむ
ここからは、安藤さんご本人にお話を伺うことができました。
絵画の楽しみ方だけでなく、人はどう生きると幸せになれるのかのヒントまで教えていただきました。
美術館や博物館は、どちらかと言えば非日常の体験ですよね。私は絵画に詳しくないので、作者のことや時代背景、作品の思いなどを知らないまま行くのは失礼なのかな?と思って、自分で敷居を上げてしまうことがあります。しかし、安藤さんはきっぱりと「好きなように五感で感じてください」とおっしゃいました。素直な気持ちで向き合うことが楽しむコツだそう。この「素直な気持ち」は簡単なようで結構難しい課題です。
実は私自身、今年の目標を「自然体で生きること」と設定しています。わざわざ目標にするほど、素直で自然な自分でいることには難しさがあるからです。ありがたいことに、現在様々な役割や肩書をいただいています。「文化活動コーディネーターの尾花さん」や「ヨガの尾花先生」など、その役割に応じて自然と振舞います。特にヨガのレッスンをしている時は別人格のようです・・(笑)。ですのでマルチキャリアを歩んでいく上で、どれが本当の私なのか、ふとわからなくなることがあります。私はこの現象を「自然体迷子」と呼んでいます。
自然体迷子だなと感じた時は自然のある場所に行くことが解決法のひとつです。都会にお住いの方も、公園や海辺でリラックスする方も多くいらっしゃいますよね。安藤さんも「自然は人の心を癒す素」と考えており、美術館にはノスタルジックなお庭とたくさんのベンチが配置されていました。
もともとは竹林だった4200坪の敷地を、安藤さん自身が憩いのお庭に変身させたそうです。植樹する際は、お花が咲くものや実がなるものを選んでいます。そうすると人間の心は華やぎ、鳥たちも楽しんでくれるそうです。このように作品だけでなく作品を鑑賞するための環境づくりを大切にしているから居心地のよい場所なんだと理解できました。
心のインフラ 美術館で育まれた交流の輪
2002年5月に開館し、今年で22周年を迎えた美術館。さまざまなつながりが生まれました。
例えば、開館当初に親御さんに連れられてきた少年が成長し、「今度は自分が働いたお金で来たい!」と訪れたそうです。また「大切な人との初デートはここにすると決めていました!」とカップルで来訪される方もいます。他にもライフステージの節目に報告してくれるお客様もいるそうで、一度きりの場所ではなく、安藤さんや美術館と長期的な関係を築いていることに驚きました。満面の笑みをこぼしてお話してくれる安藤さんからその喜びが伝わってきます。
他にも近隣の美術館をはじめ、障がいのある方の施設とも交流を深めているそうです。種が成長して大きな木になるように、美術館もまた22年の時を経て大きな存在に成長しているのですね。
「今を頑張っている人たちに会えるけど、みんな大変な思いを抱えている中で美術館に来てくれるんだよね。」という一言に、美術館の役割を考えさせられます。
先ほどまで「美術館は非日常のご褒美」と捉えていましたが、本当にそうなのかな?と疑問がわいてきました。体調が悪い時に病院に行くように、何をやってもうまく行かないときや心が荒んでしまったときに行く場所なのかもしれません。「色んな美術館にどんどん行ってほしいな。どこかで絶対に好きな絵に出会えるから。そうすると生活になくてはならないものになるんだよ。」という安藤さんの言葉には、美術館は心のインフラになりうる存在なんだと伝わってきました。
文化や芸術はどうしても時間にゆとりがあるときに行くものになっていたけれども、駆け込み寺のように通う場所として捉えてみると、人生がより実りあるものになっていくのだと感じました。
おわりに
お話を伺っている間に大雨になってしまったこの日はちょうど梅雨入りとなりました。 「子どもたちには自然の良さを感じて、どんどん冒険してほしい!」と話す安藤さんの言葉どおり、「少年の日」に登場する子どもたちは豊かな自然環境で屈託のない笑顔やしわしわの泣き顔で描かれています。
様々な形をした樹木やお花、色鉛筆のオブジェ、澄んだ旗川、そしてぬくもりをまとった安藤さんの作品と、贅沢な空間を楽しむことができました。ぜひ週末のおでかけに、デートに、もちろん自分自身の心と一緒にお出かけしてみてくださいね!
🌻安藤勇寿「少年の日」美術館
佐野市御神楽町623-1
🌻開館日
午前9時30分~午後5時(入館は閉館30分前まで)
🌻休館日
毎週月曜日(月曜祝日の場合は翌日休館)・毎月第1火曜日
臨時休館(2/26~2/28、7/1~7/3)・年末年始(12/26~1/3)
🌻入館料
大 人 800円(70歳以上は100円引き)
中高生 500円
小学生 300円
幼 児 100円(但し、4歳以上)
※団体は大人15名様以上100円引き(予約が必要です)
🌻tel. 0283-67-1080 mail.shonen@axel.ocn.ne.jp
🌟 公益財団法人佐野市民文化振興事業団
佐野市大橋町2047(佐野市郷土博物館内)
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