見出し画像

衛星は回る:LOONA「HULA HOOP」

こんなご時世だが、LOONAが日本デビューを果たした。それも、既存曲に適当な日本語をのせただけのしょうもないやつじゃなくて、オリジナル曲ふたつ抱えてのイルデなので、改めてバックの太さを実感する(会社としてはカツカツなので、太いよりも別の表現が必要なのだろうが)。

BLACKPINKの三番煎じみたいなガールクラッシュをやりはじめたときはどうしたものかと思ったが、ちゃんとプロジェクト初期のパトスを忘れていないことが判明し、悪口書いた側としては大きく胸をなでおろしつつ、ちゃんとageていこうと思わされる。

ティザーでふららら〜〜ゆうてるのを聞いたときはIZ*ONE日本語曲の悪夢が頭をよぎったが、フルで聞くと「HULA HOOP」はだいぶとよい曲だ。こんなアップテンポでカラフルな曲にポップコーンみたいなMVをつけても、どこかひんやりとする味わいというか、なにかミステリアスなものが背後でうごめいているような手触りが、まさにLOONAのLOONAらしいところであり、「HULA HOOP」がちゃんと表出できているところなのだろう。デビュー当時にはポストRed Velvetだとひとり勝手に盛り上がったのを思い出した。

具体的にはサビほか、ほとんど全編にわたって4小節目にVIをメジャーで使っているので、解決が引き伸ばされ、浮遊感がずっと続くかたちになる。これはシームレスに連続した絵巻物のようなMVとも親和的だし、衛星のように回り続けるフラフープを思わせるもので、主題とも一貫していてunityがある。ごく一握りの例外(ex.Red Velvet「SAPPY」、TWICE「Breakthrough」)を除けばK-POPの日本語曲なんてろくなものがないので、これはうれしい誤算だった。

上から下へスクロールしていくMVもアイデアとして面白く、ずっと見ていられる。推し贔屓ではあるが、チュウが異様にフィーチャーされているのもお得感がある(彼女は日本のオタクも串刺しにしそうだ)。映像面のクオリティはまちがいなくLOONAの武器だろう。ところで、TWICEの「The Feels」もそうだったが、セルフパロディが今季のトレンドだろうか。とくに、LOONAはメンバーごとのソロ曲&MVもあるので、そちらへの導入という意味でも「HULA HOOP」はかなりよいパブになるだろう。

果実を頬張り ほんの通りすがり
世界は始まり out alright

「友達じゃもういられな〜い〜 I need U 心に嘘はつけな〜いっ」と言ってデビューしたTWICEに比べると、このデビュー曲でLOONAがどれだけとんがっているのか明白だろう。「HULA HOOP」の歌詞は、まったくの意味不明で、トム・ヨークが書いたのかと思うほどだ。しかも、日本デビュー曲なのに、半分以上が当然のように英語歌詞だ。余計なことはせず、隙間は毒で埋める、凝った味付けだと思う。サビの音程もかなり高いので、シングアロングな要素はぜんぜんなく、あぁ、カラオケ需要へのケアはもういらないんだな、としみじみ思った。売れ線とかではなく、ちゃんといいものを届けようという気概に好感を抱く。

総じて、恵まれない時代にも関わらず、恵まれた曲とMVで日本上陸できたので、めでたしといったところだ。


また、抱き合わせの裏A面「StarSeed~カクセイ~」が、タイトルからしてとても2020年代のノリとは思えないダサさで、おおいに心配だったのだが、思ったよりずっとオーセンティックなJ-POPに仕上がっていて、再現度すげぇなと思った。Future Funkっぽいと言うには、時代がもう少し手前なので、その絶妙なトレンド感覚は面白い。別に好きな曲ではないのでこちらが表面でなくて一安心だが、これはこれで懐かしい気持ちにさせられた。そういえば、曲名に副題をつける古き良きJ-POPノリはいつから廃れてきたのだろう。

あと、「HULA HOOP」のCity Pop Versionと称するリミックスは、どこがシティ・ポップなのかまったく分からないし、サビの盛り上がりを取り除いているほかなにがしたいのか意味不明なので、かなりどうでもいい。最新曲とはいえ、邦訳曲が「PTT」なのに不満があるのは言うまでもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?