obakeweb

おもいやりインターネット

obakeweb

おもいやりインターネット

最近の記事

美しさを見てとるために訓練が必要であるとはどういうことか

美的性質や美的知覚について、最近出版されたマドレーヌ・ランサム[Madeleine Ransom]の論文がとてもよかったのでまとめておく。 1 前提:美的知覚美的性質[aesthetic properties]とは、「美しい」「優美だ」「けばけばしい」「退屈だ」「バランスが取れている」など、われわれが芸術作品や自然の風景について語るときによく言及する性質のことだ。こういう性質を見てとったり聞いてとることを美的知覚[aesthetic perception]と呼び、「このモネ

スキ
109
    • 美的に良いものはなにゆえ良いのか

      美的価値に関する快楽主義芸術作品なり風景が、美しかったり優美だったりしてとても感じがよいときに、それらは「美的価値が高い」と言う。このような美的価値の本性に関してはさまざまに議論があるが、その中心には「快楽主義」という立場がある。 美的価値に関する快楽主義:Xの美的価値とは、Xが与えられる美的快楽(満足、楽しみ、喜び)の度合いである。 快楽主義において、美しい風景や優美な絵画が「高い美的価値を持つ」と言われているときに言われることとは、それらが「大きな美的快楽を与える能力

      スキ
      34
      • 「芸術なりそこない」を探し求めて

        芸術なりそこないは存在するのか?ちょっと前に書いた記事に、難波さんと村山さんが反応されていたので、この話題に関する自分の考えをもう少し補足しておこう。 論点は、Christy Mag Uidhirが「failed-art」と呼んだ非芸術のサブクラスをめぐるものである。はじめの記事と重複になるが、Mag Uidhirの主張を手短にまとめておこう。 「芸術ではない」ものはあちこちにある。私の電子ケトルも中目黒駅も月も、分類的な意味では芸術ではない。ふつうに考えれば、芸術ではな

        スキ
        10
        • 感想と批評の境界線:北村紗衣『批評の教室』

          書評タイトルは源河さんの本から来ている。源河さんが「知覚と判断の境界線」はあいまいであると結論づけるのと同様、私は感想と批評の境界線があいまいだと結論づけることになるだろう。 北村紗衣『批評の教室』は、批評という営みの敷居を下げる本だ。「チョウのように読み、ハチのように書く」という副題の通り、本書は芸術作品(主には文学、映画、劇作品が参照される)について軽やかに読解し、クリティカルに論じる手引きとなっている。 実践編の第四章を除けば、本書は「精読する」「分析する」「書く」

          スキ
          35

          衛星は回る:LOONA「HULA HOOP」

          こんなご時世だが、LOONAが日本デビューを果たした。それも、既存曲に適当な日本語をのせただけのしょうもないやつじゃなくて、オリジナル曲ふたつ抱えてのイルデなので、改めてバックの太さを実感する(会社としてはカツカツなので、太いよりも別の表現が必要なのだろうが)。 BLACKPINKの三番煎じみたいなガールクラッシュをやりはじめたときはどうしたものかと思ったが、ちゃんとプロジェクト初期のパトスを忘れていないことが判明し、悪口書いた側としては大きく胸をなでおろしつつ、ちゃんとa

          スキ
          3

          プロムへの招待:TWICE「The Feels」

          ITZYのカムバから息をつく暇もなく、TWICEが「The Feels」で戻ってきた。見るからにBTSのバカ売れを意識した、英語歌詞のディスコチューンにいやらしさがないわけではないが、いいものはいいのでこれでいいのだ。 「More & More」はシンプルにしょうもなかったし、「I CAN'T STOP ME」はEVERGLOW「LA DI DA」の後追いとしてはやや力不足だったが、今夏の「Alcohol-Free」はわるくないカムバだった(残念ながらnot for meだ

          スキ
          15

          芸術作品を作りそこねることはあるのか

          先日の日記[2021/09/28]に書いたネタだが、もうちょっと膨らませたものをnoteにも載せておこう。 Mag Uidhir (2010)による「failed-art」の話がピンとこなくて、ここ最近ずっと頭をひねっている。Mag Uidhirの主張は、「情報としてトリヴィアルでない意味で〈芸術ではない〉ものがある」だ。ふつう、〈芸術ではない〉はたいした情報ではない。たいていのものは芸術ではないからだ。私の炊飯器も目黒駅も太陽も、分類的な意味では芸術ではない。 Mag

          スキ
          11

          作者の意図とその証拠

          作品解釈における意図の話は、定期的に浮上するので、みんな好きなんだなぁと実感する。最近もろもろを読んで整理できたことをいくつかまとめておこう。なかなか進展の見えない話題だが、なんらかの役には立つだろう。 村山さんの紹介しているMatraversの議論はかなり腑に落ちるものなのだが、補助線として以下の話をしておくとなおよしかもしれない。すなわち、意図論争においては、大きくふたつの(結びついてはいるが)異質な問いが与えられている。 存在論的問い:作品の正しい意味は、作者の意図

          スキ
          33

          センター現代文で学ぶ誤読解力

          はじめに今ではかれこれ3年ほど現代文を教えているが、受験生時代はほんとうに現代文ができなかった。それなりに資金と時間を投資して学んだはずなのに、この科目がなんの能力を問うものなのかすらよく分からずじまいだった。とどのつまり「読んで理解して答える」というだけの試験ができない自分は、知的に基本的ななにかが損なわれているのではないかと勘ぐったほどだ。 私がまともに読解を学んだのは学部の後半で、なんなら修士に上がってからだ。基本的に文章というのは、精読多読の上でトライアルアンドエラ

          スキ
          20

          ジャンル研究の方法論

          「{任意のある芸術ジャンル}とはなにか」「SFとはなにか」みたいな問いがある。別にホラーでもサスペンスでもマジックリアリズムでもなんでもよいのだが、「{任意のある芸術ジャンル}とはなにか」を問うときには、ざっとふたつの回答がある。 一方は、ジャンルの特徴を挙げるような回答だ。これはしばしば、必要十分条件によって提出される。「SF作品とは特徴Fを持った作品であり、特徴Fを持たない作品はSFではない」といった説明だ。 他方は、ジャンルの伝統を記述するような回答だ。「ヴェルヌと

          スキ
          24

          Red VelvetのホラーとaespaのSF

          aespaは2020年11月にデビューしたSMエンターテインメントのガールズグループで、Red Velvetの後輩グループにあたる。現在までに「Black Mamba」「Forever」「Next Level」の三曲が公開されている。 以下はSM公式のグループ紹介。 aespa(エスパ)は、“Avatar X Experience”を表現した「æ」と、両面という意味の英単語「aspect」を結合して作った名前です。「自分のもう一人の自我であるアバターに出会い、新しい世界を

          スキ
          21

          映画を倍速で見ることのなにがわるいのか

          以下は2020年3月に書いたまま放置していたドラフトだ。ちょうど『現代ビジネス』で同じ話題を扱った記事がバズっていたので、この機に多少手を加え、成仏させておく。 上の記事で問題視されている「「10秒飛ばし」で観る」「1.5倍速で観る」のうち、私は後者のみを擁護するつもりだ。「10秒飛ばし」を含む鑑賞は、あとで論じる「回復可能な鑑賞」に該当しないと考えられる点で、私にとっても「わるい」鑑賞である。よってそちらは問題とせず、倍速鑑賞のみを問題とする。 また、上の記事はこれら不

          スキ
          193

          映画ジャンルの哲学:役割、定義、存在論、価値

          「映画の哲学」の教科書、The Routledge Companion to Philosophy and Filmに「ジャンル[Genre]」の項目がある。Brian LaetzとDominic McIver Lopesによる共著で、ざっくり「映画ジャンルはどのような機能を果たすのか」「映画ジャンルの定義(必要十分条件)」「映画ジャンルはどのような存在者なのか」「映画ジャンルと作品価値の関係」といった問題について取り上げている。以下、紹介とコメント。 1.ジャンルの役割映

          スキ
          11

          コーヒーを飲むこと、コーヒーについて説明すること

          1.コーヒーを飲むことコーヒーとの付き合いは長い。 中学生の時分に、母と行ったケーキバイキングで飲んだのが、はじめてのコーヒー体験だったと記憶しているが、あれから十年余が経った今日に至るまで、コーヒーは私にとって生活の一部である。 サードウェーブが大流行りしていた2014〜2015年ごろは、ちょうど学部の1〜2年で、それはそれはコーヒーばかり飲んでいた。当時の私は、バンド、映画、コーヒー、カレーと、すっかり仕上がったサブカルだった。 某有名ロースタリーでアルバイトをして

          スキ
          26

          芸術作品における嘘、作者の意図と作品解釈、あるいは鑑賞自律主義についての覚書

          2019年のBritish Journal of Aestheticsに掲載された論文で、Brandon Cookeは芸術作品による嘘を論じている。本稿は当論文を読んで考えたことの雑記だ。 伝統的に、嘘をつく[lying]ことは次のように定義される。(1)なんらかの内容pについて、「pは真である」と聞き手に信じさせようとする意図のもとで、話者[speaker]がpと述べる。(2)話者は「pは偽である」と信じている。私があなたに「p:太陽は西から昇る」と伝えれば、私は嘘をつい

          スキ
          34

          BABYBABYの夢、『鬼滅の刃』、『八月の光』、NiziU

          著作権という権が気の利いた権であると思ったことは一度もないが、YouTubeから「BABYBABYの夢」が削除され、Artzie Musicが閉鎖(予定)に追い込まれたことで、またひとつ怨念を積み重ねることとなった。 「潰そうと思えばいつでも潰せる」というのは、エンタメ業界にいた知人の言葉だが、まさに仰せの通りだったみたいだ。僕の貧相な想像力では、取り締まりによって誰がどう得したのかすら分からないのだが、きっと誰かどうにか得したのだろう。    ✂ 今日、たまたま『鬼滅

          スキ
          7