【単巻5冊読書感想②】『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』『異界と日本人』『夏樹静子ミステリー短編傑作集』
皆さま、ご機嫌よう。
また、感想が5冊分溜まったので投稿させていただきます。
今回もKindle Unlimited対象タイトルで読んだ5冊になります。
【1冊目】綺麗な文体で、不穏な結末……。『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』
「うーん、正直、平成以降の日本女性作家の短編集って、付加されている設定が違うだけでどの主人公も桃太郎飴みたいに紋切り型で面白くないからなー」
というのが、読み始める前の警戒というか気持ちでした。
(それでもなんで読むのかってすぐ読めるからです笑)
だけど、このタイトルは、読み始めてすぐ惹き込まれました。
そして、「紋切り型じゃない、面白い小説だ!」に印象がすぐに変わりました。
登場人物がそれとなく重なって緩やかな連作になっているのも、技術点が高いですね。
ただ、あえて言えば、なんというか。
なんというか。
人生経験の浅さというか、男性関係に対する理想が溢れていて、それが作風に合っていない点が、ちょっと。
ネタバレになるので深くは言いませんが、1篇目の回想で語られる再会シーンとか。
えっ?
それ、ロマンチックだと思ってる?
実親の〇〇で、何年ぶりに再開して急にとかそれただの〇〇〇じゃん!?(ネタバレのため一部伏せ字)
みたいなね。
「引くわー」ってどうしても思ってしまいました。
そこに違和感とか忌避感を抱いてしまう人は一定数いるかとも思いますね。
表紙みたいに透き通って綺麗な文体だから、苦味のないちょっと綺麗すぎるくらいな結末のハピエンを書いてくれないかなぁ、なんて。
【2冊目】絵巻を読み解け! 日本人は異界で妖怪と出会う『異界と日本人』
BOOK・OFFで何気なく買った著者の『神隠しと日本人』がすごく面白かったんですよ。
不思議がとっても論理的に説明されていて、とっても感動したんです。
そこで、本タイトルが読み放題になっていたので、即読ですよ即読み。
で。
これは紙でなくてはいけない本でした。
ざっと読むならKindleでも良いですが、絵巻を読み解くスタイルのなのに図録が欠けているんです。
まぁ、電子書籍である以上、仕方ない部分もありますが。
ありますが……。
さて、本タイトルの内容をざっくり紹介しましょう。
日本人が恐れ親しんだ妖怪を紐解いていく内容となっています。
平安時代から中世にかけて、陰陽師ー鬼、僧侶ー天狗という対立構造で朝廷や仏教に権威を与えるために物語られてきました。
時代が下り、江戸時代になると鬼や天狗の姿は消え、付喪神が出現。身近な道具へと興味の対象が変わっていきました。
そして、多数の妖怪を紹介する絵巻が現れ、恐れるものから娯楽として楽しまれるものへと変化していったと言います。最後には、人々の興味は「幽霊」、恨みをもって死んだ人間へと移っていきます。
日本人と妖怪の歴史を辿る本タイトルを思想史として捉えた時、明治以降の日本の科学史の発展と紐づきました。
西洋科学は開国に伴い急激に日本に入ってきたはずなのに、ただ取り入れるだけではなかったんですよ。学ぶの先、新たに研究するとか開発するとかまでしてるわけです。
どうして、と以前から疑問を抱いていたのですが。
本タイトルを読んで、深く納得がいったのでした。
本書の内容から、江戸時代になると商業が発展するなどの要件から、日本人は科学的な思考へと変化していったと捉えられます。
江戸時代後期になると、すでに日本人は死後の人間や自然の脅威を物語として具体化するアミニズムの世界に別れを告げていたのかもしれません。
精巧なカラクリが作られたり、麻酔手術を欧米に先ん出て成功したりしていましたしね。
そう、江戸時代にはすでに西洋科学を学び、そして自国で発展させる土壌ができていたわけです。
明治維新後、文明開化と共に西洋科学が日本に一気に入ってきます。
ですが、すでに科学を取り入れる準備が終わっていた日本人。そして、やはり、島国の利点もあって、独特の日本的思考を維持したまま、科学分野でもその才能を発揮できたんだと思います。
なんて、妖怪からちょっと飛躍しすぎましたね。
【3〜5冊目】オンナゴコロ×ミステリ=サスペンス『夏樹静子ミステリー短編傑作集』
初読みの作家ですが、昭和が全盛期の作家さんが好きだったりするので、かなり好みなテイストでした。
「かなり」じゃ足りません。
超超超超超超超超超超、かーなり好みでした。
『誰知らぬ殺意』 7篇全部、不倫。どうしてそんな編纂の仕方をするんですか……!?
『いえない時間』 本領発揮! 弁護士シリーズ2篇、検事シリーズ1篇。加え、ショートショート4篇。
『雨に消えて』 母と子をテーマにした6篇。三作目ってことになってるけど、こっちを最初に読む方がいい。
以下、感想詳細。
『誰知らぬ殺意』
7篇全部、不倫。
いやー。
うーん。
それでも、全部読める作品なあたり、作家の力量がわかると言うものです。
が。
「女性の情緒を描くのが上手い作家だから、不倫ものの短編を集めよう。みんな不倫とか好きでしょ?」
って感じが、ありありと!
『神津恭介、密室に挑む』を読んだ時にも思いましたけど(こっちは玉石混淆で読み通すのが結構大変だった)。
読者の何割が「不倫もの大好物」で、何割が「不倫に拒否反応を示す」で、何割が「不倫ものが続いたら飽き飽きしてくる」と思ってるんでしょうね。
企画者は「女性の情緒を描くのは不倫もの、女性も不倫もの好きだし」ってだけで「女性は不倫もの好き=女性の9割くらいは好き!」とかいう思考回路なんでしょうか。
実際のところは、「不倫ものが大好物」が1割弱、「不倫に拒否反応を示す」が2割いないかな1割くらい、「不倫ものが続いたら飽き飽きしてくる」が7割だと思いますけど。
第一、「不倫ものが好き!」って人でも、全部不倫ものだったら、微妙な反応になると思うんですよね。
いくらチョコレートが好きでも、フルコース料理くらいチョコレートが出てきたら、頭が痛くなって吐き気してきてチョコレートが見たくなくなるでしょ?
それと同じ。
7篇あったら、2つ3つでいいんですよ!
せっかくの短編集・傑作集なんだから、別の味付けも楽しませてほしい。
恋愛アンソロジーで全員が同じテーマ書いてたら、そのテーマアンソロジーにしろよって思うでしょう。そんな感じ。
もういっそタイトル『誰知らぬ殺意 〜不倫篇〜』とかにして
で、でもですよ。
それでも全話、通して読めるくらいには面白いんですよ!
すごい作家だなぁと思いました。
先ほどちょっと言及した『神津恭介、密室に挑む』は玉石混淆で一冊読むのが本当に大変だったんです。
でも、本タイトルは「全部不倫だなぁ……」と思いながら、ちゃんとそれぞれに見所があるので、普通の短編集と同じくらいには読める。
『いえない時間』
これは文句なしに面白い。
一巻は読まなくていいかもしれないくらいです。
夏樹さんの代表シリーズ(弁護士シリーズ・検事シリーズ)の作品が収録されています。
それも未収録作品らしいので、ここからシリーズを読みたくなってもダブることなく楽しめるというお得感。
いや、他作品も絶対読みますよ、これは。
すごい面白い。
『雨に消えて』
この作家さんを初読みの方は、これを1冊目に読む方がいいと思います。
母と子をテーマにした6篇が詰まった一冊。
どれも登場人物たちの心の動きに読み応えがある上に、ちゃんとミステリ。
いや、編者、一巻だけ別人でしょ。
あれじゃない?
何もわかってないうるさ型上司の「不倫ものを集めろ!」っていう指示を聞く代わりに、「2・3巻は自由にやらせてください!」って主導権握ったとかそういうドラマがありそう。
ってくらいに1巻以外が面白い。
一巻も決して面白くないわけじゃないんだけど、作家としての特色は3巻の方が出てると思う。
だから、3巻から読み始めて、2巻でシリーズもののに触れて、作家にハマったら1巻を読むという読み方を勧めたいです。
読んで損はしない作家さんだと思います。
それでは最後に。
皆様の読書ライフの充実を祈って。
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