ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』
今回の本はこちら。
これは……何というか……。
noteで知り合ったMALさんの好きなSF作家さん。
と、教えていただいたので、Kindle Unlimited対象になっていたこのタイトルをば。
原作は1983年出版とのこと。
全く色褪せない、IT技術が進んできた現代だからこそ面白さが深まっているタイトルだと思います。
SF好きの方々にはいうまでもない、アシモフのロボット工学三原則。
第一原則「ロボットは人間に危害を加えてはならない」
第二原則「第一原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない」
第三原則「第一、第二原則に反しない限り、自身を守らなければならない」
これを、「アシモフ回路」として備えたいろんなロボットが社会で活躍……いや、使役されている世界を描いています。
主人公はアシモフ回路に疑念を抱き、覆してしまったロボット。
いや、そもそもそんな回路なんて実現していなくて、経済界がロボットを売るためのPRとしただけじゃないか? とまで言う。
彼は芸術から始め、テロを起こし、政治活動をし、社会を変えようとします。
いや、人間を滅ぼそうとします笑
「人間と染色ない知能を持ったロボットの使役は、かつての奴隷制とどう違うのか?」
奴隷制度廃止運動が終結を見せ始めた80年代だからこそ、「次の奴隷はロボット」という命題をリアリティを持って掲げられていると思う。
で、まぁ、主人公のロボットはすぐにさくっと人を殺す。
殺しまくる。
度肝を抜かれるんだけど、ジム・トンプスン『ポップ1280』を思い出した。
こいつ、どっちかというとSFじゃなくてノワールの主人公だぞ……と。
最初に、死刑という破滅が明示されているのも、ノワールっぽい。
そこから、どんどん面白くなりました。
いや、「エログロナンセンスに惹かれるなんて思春期で終わってんだけどなー」とか思ってたんですが笑
性的倒錯も描かれるんだけど、これも「あなたはどこまでが道徳的に許されると思う?」という問いかけなんだろーな。
同性愛は? ズーフィリアは?
ロボットとのセックスは?
ロボット同士は?
人間への見せ物ではなくて、ロボット同士が人間を介在させずお互いに同意して愛のある行動として行ったら?
セクシャルマイノリティの人権とか、社会問題としてちゃんと語られるようになってきている世の中だからこそ。
今の時代だからこそ、より刺さる問いかけだと思う。
「セックス産業は、ロボットが代替すべきか?」という問いかけは他のSFでもみた覚えが。
で。
とにかく、登場する人間の方が狂気的でおかしい。
まぁ、なんつーか、最初の方は「これ、こいつが捻くれてて入力がおかしくて、世界が歪んで見えるとかいうやつか?」と思うほど。
だけど、だんだん、「あーそりゃ歪むわー」となってくる。
主人公のロボットの現在進行形の「犯行」と並行に、彼の過去が語られていく。
これがもー、上手いの。
結ばれてすぐ、所有者の都合で引き裂かれる恋人という奴隷の悲劇をロボットでやったり。
唐突なミラーリング手法で、所有者とロボットの立場を入れ替えてみたり。
知能高い主人公が、全てを馬鹿にしていく感じの語り口。
これがもう『ボップ1280』の主人公を思い出す。
このグルグルしそうになりそうな文体もエルロイを思い出す。
でもちゃんとSFなんだよな。
ただし後半はSFぶっちぎっていく展開が笑
なんつーか、主人公がロボットなんだけど、こいつがノワール主人公で、ストーリーは犯罪小説入ってます、みたいな。
オチがねー。
この爽快さ、犯罪小説だよなーと。
いやはや。
なんというか。
「知性のあるロボットを使役するのは、奴隷制と違うのか?」というのもテーマではある。
でも、そういうのぶっちぎって主人公がノワールで、クライムなんだよなーと。
なんとも不思議な読書体験となりました。
MALさんの一番のオススメは『蒸気駆動の少年』とのこと。
こちらも借りてきてますが、厚さ(450p )にめげずに読みたいと思います。
それでは、また次のSFで。
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