ミルクセーキ

 集中する方法というのは人それぞれである。
 深呼吸をする、音楽を聴く、目標を設定して励む、集中力を阻害するものを回りから取り除く、環境を変えるなどなど。
 例えば学生であれば、勉学に励むことが本分なわけだが、自室ではどうしても集中できないからと、自習室や図書館、カフェなどに行って勉強をしたりする。
 残念ながら大人になったからと言って、そんなに人間は変わるわけではない。どうしたって集中できない時はある。
だからこそ大人だって、何かしらの形で自分が集中しやすい環境を作るのである。

 打ち合わせと言えばいつもの喫茶店を利用するのが常だったが、少し前の打ち合わせ以来、気分転換も兼ねて少し足を伸ばして違う喫茶店に行く機会がしばしば増えてきた。
「ここなんてどうですか。」
「おお、いいですね。」
 二人が足を止めたのは、珈琲と漢字で書かれた看板がひときわ目立つ昔ながらの雰囲気を醸し出した喫茶店だった。

 カランコロンカラン

 扉を開けると、これぞ喫茶店といった感じの音が店内に鳴り響く。
「いらっしゃいませ。二名様でしょうか。」
「はい。」
 店の制服に身を包んだ20代と思しき女性店員は高森の返事を聞くと、こちらへどうぞ、と案内した。
 席に着くと二人は辺りを見回した。
少し暗めの店内は赤い壁で一面囲われており、案内された机もいい雰囲気。椅子はというとこれまた雰囲気を感じさせる緑色で、座り心地もいい。
「いいところに入りましたね。」
「ええ。」
 二人はなんだかワクワクしていた。
 少しすると先ほどの女性店員が水とおしぼり、そしてメニューを持ってやってきた。
「ご注文が決まりましたらお呼びください。」
 店内にかかっているBGMもまたいいものだ。
「やっぱりコーヒーですかね。」
「そうですねえ。」
 そう言いながら二人はメニューを眺める。
「お、これは。」
 雨相は思わず声をあげる。
「どうしました?」
「これです、これ。」
 雨相は自分の見ていたメニューを高森にも見せると、ある一ヶ所を指差した。
「ミルクセーキ?」
「ええ。」
「ああ、聞いたことありますね。」
「ねえ。僕も聞いたことはありますけど、正直飲んだことってない気がするんですよね。」
「うーん、あんまり見かけませんもんね。」
「これにしてみようか……」
 雨相は悩んだ。
「僕はちょっと小腹も空いたんで、サンドウィッチセットにしようかなって。」
「それも美味しそうですね。」
「先生はどうします?ミルクセーキ行きますか?」
「うーん……」
 雨相は再び悩んだ。
「いや、何事も経験です。僕も同じセットで、ミルクセーキで行きましょう。」
「おお、いいですね。じゃあ呼びますか。うみません。」
 高森は声をかけるとすぐに先程の女性店員がやってきた。
「サンドウィッチセットを二つ。ホットコーヒーとミルクセーキで。」
「かしこまりました。お飲み物はいつごろお持ちしますか?」
「コーヒーは、最初にお願いします。」
「ミルクセーキは……ミルクセーキも最初で。」
「かしこまりました。」
 そう言うと、女性店員は席を離れた。
「楽しみですね。」
「ええ。」
 新しい出会いというのは、いつだって人をワクワクさせる。

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