あなたの過去に嫉妬する
「私は、あなたの未来に嫉妬しているのよ」
江國香織さんの小説『東京タワー』の中で主人公の男の子が恋人に言われたセリフ。
言葉というのは、どのような関係性で、どんな場面で、どんな態度で発せられたかで、全く異なった意味になる。
『東京タワー』の場合
関係性・・・恋人同志だけど、主人公(二十歳)の恋人は2周り年上の人妻。
場面・・・主人公は「二十歳の時何してた?」「恋人はいた?」と過去について、せがむように質問していた。
態度・・・恋人の女性は少し笑っている。
惚れているのは主人公の方だけかもしれない。
惚れた女の過去はどうしたって手に入れることはできない。いや、手に入れると言うよりは、一緒に体験することが不可能なのだ。
それをわかっていて、発言する女の、なんと残酷なことよ。
”初めて”の体験を嫉妬する場合、派手な出来事だけではない。
「お気に入りの映画や音楽の好きになった瞬間に立ち会いたかった」とか、「まだ出会う前の学生の頃の恋人とくだらないことで喧嘩してみたい」とか、小さいけれど今、体験できないことを貪欲に求めている時がある。
もしかしたら、そういうことは恋愛をより一層味わい深いものにするのかもしれない。
気をつけなければいけいないのは、相手の過去に執着しすぎて自分を見失ってしまうことだ。
「あなたの過去に嫉妬する」
この言葉は、今している恋愛の真価が問われる。
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