コロナ禍表現が辛い、『捜査線上の有映え』(有栖川有栖)

 有栖川有栖『捜査線上の有映え』読了。

 私は『鍵の掛かった男』で初めて有栖川作品に触れたのだが、「ミステリでもこんな風にエモーショナルな人間を描いている作品があるんだ……!」と感動し、以来少しずつ作品を買って読んでいる。先日hontoを眺めていたところ、たまたま火村シリーズ新刊が出ているのを発見、「つらいコロナ禍生活の慰めに。」と、早速購入した次第である。

 さて、今回の『捜査線上の有映え』であるが、殺人が絡むミステリにもかかわらず、読書中は美しい場所に旅に連れて行かれたようで、さらに日本が恋しくたまらなくなった。早く日本に帰国して、日本中を旅したい。なんて美しい国なんだ、日本。

 ただ一つ、この作品には「今の私」にとって、非常に残念な難点があるのだが……それは、今回火村とアリスが活躍しているのがコロナ禍の日本、という点である。コロナ禍であることはストーリーの構成上必要不可欠であるのだが、コロナ対策描写が大変まどろっこしく、鬱陶しくて不快に感じられる。例えば、食事や飲酒の最中、会話をするたびにわざわざマスクをつけたり外したり。捜査中にもソーシャルディスタンスを過剰なほど気にしている。もし読者が既にコロナ禍を乗り越え、今まで通りの生活をしている人であれば「こんなこともあったなあ。」と、既に思い出の一部として認識し楽しむことも可能かもしれないが、現在進行形で正気を疑うレベルの過剰なコロナ対策に生活や人生を破壊され、精神的に追い詰められ、弾圧されている身には大変辛いものがある。恐らく日本でも制限に苦しんでいる人はまだたくさんいるのではないかと思うが、私の住んでいる国は現在、現実と人権を完全に無視したコロナ対策で悲惨なことになっているので(何故か日本のマスコミは全然取り上げないが)、例え作品中であってもマスクを無駄に着け外ししている姿は滑稽で、馬鹿ではないかと怒りさえ沸いてくる。こちらはマスクを強制しても多重に医療マスクをしても雨ガッパでぐるぐる巻きのミイラ状態で外出しても、毎日新規感染ウン万件の世界である。正直マスクも何もかも意味がない。(完全に八つ当たりであるが。有栖川有栖先生ごめんなさい。)

 ストーリー自体は相変わらず有栖川節が効いていて面白かった。いつかこの作品を心から楽しめる日が来るだろうか。

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