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【最新作云々59】人を裁く者は、いつか自分も裁かれる... 法の眼を掻い潜る外道を始末する制裁者の苦悩と矛盾を衝く重厚な時代劇映画『仕掛人・藤枝梅安 第一作』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。 
 本日はどうやらオーケンこと大槻ケンヂさんの57歳の誕生日らしいと知った、O次郎です。

僕が物心ついた頃には筋肉少女帯は既に筋肉少女帯がひと段落ついた頃というか
不穏な感じだったので『マンガ夜話』『アニメ夜話』等のバラエティーでの
サブカル論客のイメージ先行。高校生の頃にようやく遡る形で彼の音楽に触れました、とさ。
たしか雑誌の科学と学習の『学習』でメイク講座特集が掲載されてる号もあったのを覚えてます。

 今回は最新の邦画『仕掛人・藤枝梅安 第一作です。
 『鬼平犯科帳』や『剣客商売』で知られる池波正太郎先生の時代劇小説シリーズで、過去にも萬屋錦之介さんや緒形拳さん、渡辺謙さんといった錚々たる名優の主演でTVドラマ化・映画化されておりますが、"池波正太郎生誕100周年記念"ということで今年二作連続公開の今回は一作目です。
 新生の梅安を演じるトヨエツさんをはじめ、脇を固めるキャラクターに至るまで主演を張れるような豪華俳優陣なのはさすが劇場版スケールといったところで、殺陣や殺しのバリエーションは必殺シリーズほどではないにせよ、代わりに"請負での悪人始末"という一義的な正義の危うさやそれによって二次的な被害者・加害者を生んでしまうという矛盾と皮肉をじっくりと描いており、人生の残酷さと因果応報を時代劇らしい解り易さで展開してくれます。
 昭和60年生まれの時代劇遍歴についても語っておりますので、感想としてはもとより同世代の方もそうでない方もご自身の体験とのギャップも楽しんでいただければ之幸いでございます。ネタバレ含みますので何卒ご容赦をば。
 それでは・・・・・・・・・・・"月とテブクロ"!!

※アルバム『猫のテブクロ』より。世に名高い名曲はいろんなベスト盤や再録があるのでそれ以外で印象的だった曲。たしか大学生の頃にブックオフでオリジナル盤を買って初聴き。展開的に凝ったところは無いにせよ聴くと必ずしんみりモードに。


Ⅰ. 僕にとっての必殺シリーズ

 いきなりですが、リアルタイムで『必殺シリーズ』は観ておりませんでした。
 幼少期に観ていた時代劇は『名奉行 遠山の金さん』『銭形平次 (北大路欣也)』『三匹が斬る!』あたりです。
 反対に『必殺シリーズ』や『鬼平犯科帳』『暴れん坊将軍』は観ておらず、子どもながらに時代劇には軽妙洒脱なコメディー描写のほうに面白味を感じて重視していたんだと思います。

※祖母が時代劇好きだったんでその影響で第一シリーズから観てたかな?
本作ゆえに高橋さんと役所さんは今でも二枚目的なイメージは残ってますが、まさか土壌掬ってる大好きだったコメディリリーフの彼がこの数十年後に"金髪豚野郎"と罵られることになろうとは・・・。(゜Д゜)


 殺陣の方は『スーパー戦隊シリーズ』や『メタルヒーローシリーズ』といった特撮ヒーロー番組で既にお腹いっぱいだったので、それ以外の成分を求めた結果でしょうか。

※ちなみに、必殺シリーズはリアルタイムはおろか遡ってもほぼ未見ながら唯一の例外はこの『翔べ! 必殺うらごろし』。CS放送で観ましたが近年サブスク配信でもラインナップで見掛けて"良い時代になったもんだ…"とつくづく。
ゴシップ好きゆえに"シリーズ最大の異端作"と聞いてしまったら俄然興味をそそられるわけで・・・。
たしかに個々のエピソードはイロモノ揃いですが、終盤のおばさんの過去に起因する一連のエピソードや若との絡みはそれを補って余りある素晴らしいドラマだと思いました。


Ⅱ. 作品概要と見どころいろいろ

 普段は鍼灸師の藤枝梅安(演:豊川悦司さん)と、普段は楊枝作りの彦次郎:(演:片岡愛之助さん)の二人の仕掛人が、江戸の市井の生活に蔓延る権力を笠に着た巨悪を討ちつつその悪の背景の複雑さに苦悩する物語。

 まずトヨエツさんの梅安ですが、往年の名優さん方が演じてきた梅安と比べて二枚目感は抑え目ながら、その一方でふてぶてしさや気前の良さが前面に押し出され、仕掛けに於いても超人的な"凄み"は演出過多を避けられた、親しみ易い江戸っ子感が印象的に形作られています。
 飲んだくれの患者のオヤジにきつめのお灸を据えたり、独身ゆえに家政婦的に雇っているおせき(演:高畑淳子さん)との冗談を交えた軽妙なやり取りも楽しく、何事にも不敵に構えていてとにかく一見では"陰"を感じさせないキャラクターに仕上がっています。
 女性の扱いも実に堂に入ったものであり、今回のメインの仕掛けの舞台である高級料亭で女中をしているおもん(演:菅野美穂さん)と情を交わしてそれを足掛かりに内情を探っていくのですが、彼女の再就職先を確保しつつその面倒を見るなど懐の深さを見せます。鍼灸師としても仕掛人としても、そして自らの不遇な過去からしても女の何たるかを熟知しておくのは至上命題ながら、男女の絢を単なる"手段"に留まらせていないのはトヨエツ版梅安のヒューマニズムを感じさせるところです。

特に上述の高畑さん演じるおせきとのコメディーチックなやりとりは
尺としては短いながらもだからこそ殺伐として且つ淡々とした"仕掛け"の
合間合間の息抜きとして純粋に楽しく、また梅安もまた血肉の通った市井の人間であることを
感じさせる人間的リアリティーの補強としても十二分に機能しています。

 そしてもう一人の仕掛人である愛之助さん演じる彦次郎。
 一人親方的職人で、普段は大口の顧客に平身低頭する中間管理職的な悲哀を感じさせる苦労人を感じさせ、その過去については第二作に掘り下げられるようですが、裏表を感じさせない好漢ぶりです。
 素材そのものの味を楽しむ豆腐や茶漬けを嗜好することからも察せられるように純粋無垢な人柄であり、梅安の作る料理を馳走になった際の「こいつはうめぇや!!」のセリフの純な響きはまるで少年のようです。
 それとコントラストを為すような毒を塗り込めた吹矢での仕掛けは正々堂々とはほど遠い人を食ったような搦め手であり、梅安の針術による相手を苦しませずに一瞬の下に絶命させる己の正業と人生観とも一体となったような仕掛けと真反対で、裏業としての割り切りを孕んだ怖さも感じさせます。

裏での仕事の情報も共有して互いに意見交換しつつ
諸悪の根源を探る名実ともにの兄弟分。
クライマックスでの梅安邸での年越しそばを共に食しつつの
「炬燵の加減は良いかい?」「雪が積もりそうだから三が日は泊っていきな」の
睦まじいやり取りは小市民的なほんのりBL風味
で、その方面の嗜好が無くとも
観ていてなんともこそばゆくなる微笑ましさです。(´罒`)

 そして今回の最大にしてある意味最難関のターゲットが件の高級料亭の女将であるおみの(演:天海祐希さん)。
 高齢なうえに病気がちな旦那の善四郎(演:田山涼成さん)を手玉に取りつつ実質的な店の権力者として我が物顔で振る舞い、自らの妖艶な美貌で好色な高級役人である嶋田大学(演:板尾創路さん)を抱き込んで公権力とのパイプを確保しつつ、一方で仕送りの必要に迫られている若い女中たちに客男性たちへの"接待"を半ば強制して店をグレーな吉原にしつつ私腹を肥やしています。
 善四郎の亡き先妻が取り仕切っていた頃の料理やその器まで気配りの行き届いていた料亭としてのサービスは失われ、公権力の後ろ盾をいいことに私娼紛いのビジネスで暴利を貪り、さらには無垢な生娘たちも好色な客たちの毒牙に掛かりながらもやがては金と色の魔力に憑りつかれた魔性へと変貌させてしまいます。

銀河英雄伝説』をご存じの方は、ベーネミュンデ侯爵夫人が
量産されているようなもの…と想像すれば解り易いかと。

 しかも仕掛人二人の事前調査が進むごとに判明するのは、その毒婦おみのが実は梅安の生き別れの妹であり、しかも彼女が善四郎の後妻となる切っ掛けとなった先妻を殺害する仕掛けを梅安が担った、というあまりにも残酷な真実…。
 
 "起こり" = 仕掛けの依頼とその依頼人
 "鶴" = 起こりと仕掛人の仲介人

ですが、事件の根本に邪な"起こり"と私欲に駆られた"鶴"が居たとはいえ、神や仏ならぬ身の一個人が、さらには法規すら超越して極私的処刑を断行してしまう、この作品の奇抜な主題にしてそれがゆえに最大の作品的カタルシスながら、同時にそれがもたらす矛盾と弊害を端的且つ劇的に描いています。

 おみのは彼女と瓜二つの母と兄の梅安とともに幼少期に父を亡くし、貧しく慎ましい残された三人での生活もそこそこに母が盗賊の情夫とおみのとで駆け落ちしてしまい、その先でその情夫に無理やり手籠めにされたうえ、さらにはその盗賊団(改心前の若き日の彦次郎も在籍)の内紛の中で母もその情夫も失い、流転の人生の中で男を利用しながら他人を蹴落として這い上がる生き方を半ば自明の人生哲学として生きてきたのでした。

裏の顔を隠して近付く梅安。
おみのが過去の盗賊団の生き残りの一人に強請られ乱暴されそうなところを救い、
図らずも二人の距離が縮まることに・・・。

 梅安は幼少期に生き別れた妹への情愛が湧くのを感じつつも、江戸の市井への有象無象の害毒を生み出す彼女を、そうした悪に仕立てる遠因を作ってしまった自らの責任の業として、自らの針で以て屠ります…。
 「夫を殺してくれるなら私を・・・」と妖艶に微笑みながらも梅安の抱擁に遠い兄の記憶を思い出しかけた彼女を、梅安は自らの郷愁を断ち切るかのごとくに眠るように絶命させるのですが、その仕掛け後に、彼女の根本での良心の残滓の象徴である小鳥が鳴く鳥籠を見つけてしまう件はなんとも言えない哀しさを禁じ得ません。
 それを目の当たりにした梅安はまるでゴルゴ13の「・・・」の如き得も言われぬ逡巡を見せますが、それすらも自らが背負うべき宿業として飲み込むのでした。

 仕掛けに関しては専ら梅安の針術の"静"のイメージが漂いますが、その反対の"動"は苦難の道を選んだ孤高の武士石川友五郎(演:早乙女太一さん)の鬼気迫る一対多数の剣術が存分に担ってくれます。
 板尾さん演じる好色な嶋田に暴力的に手籠めにされたうえに重傷を負ったお千絵(演:井上小百合さん)を見かねて駆け落ち同然に飛び出して禅寺に匿い、並み居る追手たちを鬼神の如き剣の腕で切り伏せる友五郎とそれに加勢する彦次郎の活躍のあっぱれなこと…。

 梅安にしても彦次郎にしても後ろ暗い過去を背負っているうえに、今回の一連の事件にて仕掛け業の奉じる正義の危うさとそれによって自分たちが築いてきた屍の山に鑑みての引き返せない冥府魔道の如き己の行く末の重みが否が応でも想起させられるのですが、それに反するように明るく前向きな日々を送る二人の姿が逆説的に二人の人間的な度量を感じさせてくれます

結果として梅安と彦次郎は本来の仕掛け対象以外にも
独断の下に始末を断行するのですが、鶴の一人である羽沢の嘉兵衛(演:柳葉敏郎さん)は
地域の平安という大局的見地からそれらを追認、黙認します。
彼のような傑物のみが鶴となれば余は安泰なのかもしれませんが、
彼のような聖人もやがて、あるいは何かの些細なきっかけで・・・というのが世の常なのかも

 次作への引きは、上述の仕掛人二人のじゃれ合いのインターミッションを経つつ、お遍路の旅の途中で彦次郎が自分の長年の仇敵を運命的に見つけるところで終いとなります。
 二作目は彼の復讐譚がメインとなりそうですが、どういう形で人間の因果を重厚に見せてくれるか楽しみなところです。



Ⅲ. おしまいに

 というわけで今回は最新の邦画『仕掛人・藤枝梅安 第一作』について語りました。
 時代劇というと"偉大なるマンネリ"そして"勧善懲悪"が至上命題ではありますが、その大前提を踏まえつつも過去の映像化の積み重ねを大事にしつつも、劇場版という尺とスケールを最大限に生かした全時代的な人間存在の業を見事に描いた秀作だと思います。
 時代劇だから単純明快でお約束ばかりのものと早計せず、老若男女どの層にもそれぞれにそれぞれの形のメッセージが受け取れる作品なので是非劇場でご覧いただきたいところです。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・・・・・・どうぞよしなに。




※そして最後になってしまったけど本作で忘れちゃいけないのが川井憲次さんによる素晴らしい劇判の数々!!
情緒豊かな時代物語に沿って実に心地良く感情を揺さぶってくれます。
個人的に彼の曲の中でも特に思い出深い初期の曲がコチラ。
彼の盟友の押井守監督はとりわけ初期は初期衝動そのままのアーティスティックでエキセントリックな作品が目立ちますが、それでも商業映画としてとにもかくにも評価されているのは川井さんの劇判による印象のフォローによるところもかなり大きいのでは、と個人的に思ってマス。

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