見出し画像

【最新作云々56】戦国の世に降臨した"魔王"を生み出した一人の女の野望と愛... ひょうきん者のボンボンを恐怖政治の権化へと誘う愛と死の内助の功映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
 25日といえば給料日、給料日といえば"私の両親は裕福ではなかったものの私と兄弟を愛情いっぱいに育ててくれました。私たちの楽しみは毎月の給料日に父が買ってきてくれるブルーベリーパイでした。そのとある給料日、私と兄弟たちは食後のパイをいち早く食べたいと冷蔵庫の中のそれを競うように取り出し、いきおい床に落としてしまいました。私たちは両親に叱られ、その後始末をしました。"というような内容の、高校時代の英語の模試か何かで読んだ長文読解問題のストーリーをふと思い出した、O次郎です。

※そしてブルーベリーといえばミキプルーン……自分が覚えてるのはこのへんの頃のCMか。「金曜ロードショー」の幕間のCMといえばコレだった。

 今回は最新の邦画『THE LEGEND & BUTTERFLY』です。
 封切日は1/27(金)ですが、つい先日、運良く当選した試写会にて一足先に鑑賞してきました。
 木村拓哉さん演じる織田信長と、その覇道に与し"魔王"を形作った綾瀬はるかさん演じる彼の正室濃姫の二人の愛と憎しみの伝説。
 青年時はぶっきらぼうでお調子者の感すら有るドラ息子が、やがて己の意に沿わない総てを誅戮する暴君へと変貌を遂げる様はかつてなくドラスティックであり、しかもそれがその妻の主導によって齎された、という解釈は大胆でそれだけでも目を見張るものがあります。
 そこに大友啓史監督の躍動甚だしいケレン味たっぷりのアクションとハッタリの利いた演出も相俟って、表面的にはラブストーリーの顔をしながらも複合ジャンルの娯楽大作としての内実を恣にした歴史活劇です。
 豪華キャストに惹かれた方々、ラブストーリーに目が無い方々はもちろんのこと、逆に苦手な方々も参考までに読んでいっていただければ之幸いでございます。なお、ラストまでネタバレしておりますのでその点はご容赦をば。
 それでは・・・・・・・・・"Friday Night Fantasy"!!

※そして金ローといえば世代的にコレやねん。
"実はこの映像のロケーションは日本国内である"ってのを聞いたのってなんかの番組だったっけな?



Ⅰ. 作品概要

 冒頭にロゴやテロップが出たりしてましたが、東映70周年記念作品として総製作費20億円を投じて製作されたそうです。記念作品ということであれば東映出身の歴代レジェンド俳優に揃って参加したりといった趣向が欲しかった気もしますが、良くも悪くもそうした垣根はあまり感じられない、今現在の各界の人気・実力伴った俳優陣の印象です。

 織田信長と濃姫を主軸に、政略結婚で出会った2人が対立しながらやがて分かち難い強い絆で結ばれ、天下統一という夢に邁進していく姿を描いていますが、昔から歴代トップを争うほどの屈指の人気を誇る戦国武将の生涯を扱っているだけに歴史上の重要な戦や事件の描写は最小限に抑えられており、むしろその合間合間の主役二人の何気ない場面の関係性を切り取って提示するスライス・オブ・ライフ的な手法で観客に行間を読ませます

そういう意味では父子の関係性の繊細な変遷を追った
小津安二郎監督の『父ありき』(1942)に近い楽しみ方か。

 また、或る者の思惑で担ぎ上げられた張り子の虎のごとき頼りない人物が血で血を洗う覇権争いと周囲と相互の権謀術数の末にアンストッパブルな傑物へと化ける様はまさに歴史物語の妙味そのものながら、それと相反するのではなく同期する形で男女の愛憎をミックスした血道とヒューマニズムの結合は、歪ながらも絶妙なバランスでまとめられています。

愛せぬ相手ゆえにいっそ怪物に仕立て上げようとするものの、
鬼になりゆく彼奴に僅かに残ったひとかけらの人間性を
己の愛と信をかけて引き留めようとする。嗚呼、不可思議。

 而して特に前半はアクションシーンもふんだんに盛り込まれており、大友監督得意のスピード感の著しい殺陣もしっかり堪能できます。
 戦国時代ゆえに"個"の乏しい合戦がその印象を強くする筈なのですが、全体を通して観るとなかなかにチャンバラのイメージが強く残ります。ゆえに画作りと話運びはユニークではあるものの大河ドラマのようなダイナミズムや群雄割拠感は二の次の感があり、そのあたりは好みが分かれるところかもしれません。
 また、緊張と緩和の配置がかなり独特であり、血腥いシーンや悲嘆に暮れる場面の合間に唐突にコメディー描写をはじめダジャレまで放り込まれるので面食らいはするのですが、とどのつまりはとことんまで作品カラーを研ぎ澄ませた一本筋の通ったものというよりは箸休めやデザートも織り交ぜたコース料理の如き多彩性を鬻ぐタイプの出来栄えということで、目の前に展開される喜怒哀楽に肩肘張らず身を任せる勝ちかと。
 ただ、そうした笑いどころやバランス配置が不整合を起こしているということはなく、すべての要素が飛躍し過ぎず混然一体の味を形成しているあたり、製作サイドがエンタメ大作の何たるかを心得ている安心感がありました。

公開前の岐阜でのイベントの大盛況のニュースの記憶も新しく。
"スターを駆り出して作品PR"というのは如何にも昭和な感じもしましたが、
それを老舗の東映がやったからこそ現代でもエンタメとして成立した気もしますね。



Ⅱ. 個人的ヒャッハー!!な点

・"個"が光る一対多数のケレン味アクションの数々

特に綾瀬さんの体捌きと相手を睨みつけ髪がなびく絵面は
同じ大友監督の『るろうに剣心』シリーズを彷彿とさせるものであり…
昔取った杵柄というか、『ICHI』で女座頭市として本格的な殺陣を経られただけあって
堂々たるアクションでございます。(⦿_⦿)

 冒頭の主役二人の初顔合わせ時の取っ組み合いに始まり、中盤の部落での刀傷沙汰、クライマックスの本能寺の変での被襲撃など、個の剣劇にフォーカスしたアクションが多く、それがストーリー上での二人の比重と同期していて、あらためて二人の物語であることが実感されます。
 また、特に序盤から中盤にかけては"男勝りの毅然とした人物"という濃姫のキャラクターと、反対にまだ青さの残る信長とのコントラストもあり、濃姫の殺陣が特に際立っているのも作品としてだけでなく戦国者としてもかなり挑戦的です。
 そしてその血塗れの命の取り合いの中で生を勝ち取り性を貪る様はなんとも人間を感じさせるところで。
 その二人の印象がひっくり返りつつ、それと重なるように孤軍奮闘の闘いが数の暴威で少数を圧倒する戦いへと質が変わっていくのもまた鮮やかです。


・"魔王"信長を造り上げた昏い内助の功…の新感覚

全く方針が決まらない現代の"会議のための会議"の如き出口無しの軍議が終わった後、
ひそかに奇策、それも倫理を逸したかのようなそれを進言する妻。
それはやがて王である夫の帝王学・人生観にも染み入っていき・・・

 ”戦の裏には女在り”みたいな言葉が有りますが、まさにそれを地で行ったような解釈と物語運び。元はと云えばパワーゲームではなく夫の謀殺を志向してのものであり、やがては彼女の思惑を超えて信長が人非人の暴君に変貌を遂げるので最終的な毒気の印象は薄れますが、それでも稀代の"魔王"を造り上げたのがその妻、という思い切った新機軸は挑戦的な物語作りとして楽しめます。
 そして一方で"女の狡猾さ"に終始せず、最終的に自分が化け物にしてしまった伴侶を憂い、止めることはならずとも最後まで近くで見届ける度量や引いては夫婦の有り様まで此方に問いかけてくるところはなんとも含蓄の深いところです。

"戦乱を呼ぶ女"といえば何はともあれ彼女を思い出す。
というか、富野先生の作品全般で女性ってそのパターンが多いか。



Ⅲ. 個人的ムムムッ!!な点

・やはり大枠としてはラブストーリーである、という縛り

"魔王"として周囲の恐怖を原動力に天下布武を目前とするも、
老いと伴侶への愛から人道に引き返し、それが弱り目に祟り目となって・・・という解釈。

 史実としての信長の足跡としても彼の人間性を語るうえでも必ずと言っていいほど言及される比叡山焼き討ち事件を境に、"魔王"として後戻りできない信長と彼を人道に留めたい濃姫の絶望的な隔たりが浮き彫りにされるシーンは文句無しに中盤の白眉です。
 が、そこから濃姫の流産を経て、加齢から来る気性の軟化もあり、お互いへの愛に立ち返っていきます。
 ラブストーリーとしてはそこでレールに戻ってきて安心感もあるのですが、それが万人向けの呪縛として物語の幅を狭めている感は感じてしまいました。
 同じ愛の物語とするにしても、心の距離も物理的なそれも既に若き日々の跡形も無いほど開いたままでひっそりと描く演出もあり得たはずで。
 一方で終盤に二人の愛が回復したゆえに、"本能寺の変を奇跡的に脱出した信長が濃姫と秘かに南蛮船に乗り込んで、身分も国も捨てて新しい人生を・・・・・・と思いきやそれは泡沫の夢だった"という夢オチがなかなか面白い演出として生きもしたのですが、ベタなラブストーリーを許容出来るかどうかで本作の二人の関係性について評価は分かれるかと思います。

ふくろうの河』(1963)
南北戦争中のアラバマ州のアウル・クリーク鉄橋で、
スパイ容疑で絞首刑に処されようとしている農夫が
死の間際に垣間見る泡沫の夢…
そして"夢オチ"ということで言うと高校生の頃に
ヤングチャンピオンでコミカライズ版が連載されてた
バトル・ロワイアル』のこのシーンを思い出しちゃったり。
友人宅で読んでそのあからさま過ぎる残虐描写と性描写に肝を潰したなぁ…。(゜Д゜)


・やはり主役二人の物語である、という周囲のキャラクターの勿体無さ

物語冒頭で若き信長が濃姫を迎える際から愚連隊のごとく織田五大将たち。
彼らそれぞれの人間性と関係性の変遷の端緒だけでも際立たせる描写があれば。

 これはもう"何を捨てて何を生かすか?"という話になってしまうのですが、信長と濃姫の側近たちから敵将に至るまで、メイン二人の人間性の変遷や内心の代弁のためにキャラクターとしての役割を与えられている印象が強く、各々の思惑で時代を生きている感が乏しかったのもまた事実。
 しかもそれぞれが主演を張れるような豪華キャストなのでなおのこと勿体無い感は正直有りました。
 例を挙げれば、明智光秀(演:宮沢氷魚さん)の助言にて今一度覇王としての威を示すために徳川家康(演:斎藤工さん)を招いた饗応の席で光秀を打ち付け、それを家康に見破られ・・・というシーンは端的なパワーバランスの演出と解釈として面白かったですが、それとてやはり史実に引っ張られる形で動いている印象も否めずで。
 言い換えれば群像劇としての複雑さを排して極力フォーカスしたヒューマンドラマに仕上げてあるということなので入り込みやすいのは間違いなく、痛し痒しというところでしょうか。

福富平太郎貞家(演:伊藤英明さん)や各務野(演:中谷美紀さん)は
そもそもが濃姫に仕える、濃姫を立たせるためのキャラクターなので
違和感は無いというか、そのアシストぶりが素晴らしいのですが。



Ⅳ. おしまいに

 というわけで今回は最新の邦画『THE LEGEND & BUTTERFLY』について語りました。
 あらためて考えるに、ラブストーリーが苦手な人でも楽しめるような複合ジャンルの娯楽大作に仕上がっていますが、メインストリームとしてはやはりラブストーリーなのでそれを好む層が一番楽しめる、というところでしょうか。
 野心的な信長像を構築したこともあり、国内の興行のみならず海外での評価も気になる作品だと思いました。ひょっとして作品タイトルもそのへん視野にして…?
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。





こないだウチでシチューライスを食べたんですが、
思えば実家ではなんかコレはやっちゃいけない空気があり、
大学進学で一人暮らしになって初めて試したのを思い出しました。
だから実家に居る頃は晩御飯のメインがシチューの日は
ご飯を何をおかずで食べるか惑ってたのよね。( ・ิω・ิ)

この記事が参加している募集

映画感想文

もしももしもよろしければサポートをどうぞよしなに。いただいたサポートは日々の映画感想文執筆のための鑑賞費に活用させていただきます。