見出し画像

押尾信著「大人しい子ども」読書感想文

【挨拶】
文学フリマ東京にて購入した本の読書感想文の提出その1、押尾信著『大人しい子ども』について、本コラムでは感想を述べたい。作者と私は高校時代からの友人であり、今回も作者に誘われるがままに文学フリマ東京に行くほどには仲良くさせて頂いている。今回はそんな友達の作品の感想文を以下に記述する。

作者の文章について

彼の文章を、私は「丁寧すぎる」のだと思っていた。処女作もその次回作も読んでいるが、比喩の表現や周りの舞台を描きたいがあまり、文章のテンポが悪くなっていることが多いと感じていた。勿論それを良しとする人がいるのは百も承知だが、わりと関西人気質でせっかちな私は「丁寧すぎる!」と思うことが少なくなかった。
ただ、彼の文章はその表現がハマると途端に、瑞々しい輪郭を露わにする。丁寧すぎるがために生まれたその表現が身を結ぶ瞬間が、彼の作品にはいくつも存在する。今回読んだ「大人しい子ども」は特にそれが顕著に現れているのではないだろうか。

あらすじ

作品は子ども2人と向き合う母親、律子が帰宅するシーンから始まる。シングルマザーとして「良い母親」であろうとする律子と、その子彩乃と菜穂との丁寧な生活を描きつつ、粗雑な元旦那との確執の経緯をドラスティックに描写する。

以下、読書感想文

果たして変わり映えの無い生活に、変化は訪れるのだろうか。また自分だったら、同様の環境に置かれた時、今作の主人公 律子のように毅然と振る舞えるだろうか。
母親である前に、1人の人間である女性である律子の過去を振り返りながら、物語は進んでいく。結果的に律子は過去を振り払い、子どもたちと生きていく未来を選択するが、その行動は言葉とはちぐはぐなものであった。その部分に、今作の描きたい部分が凝縮されていると私は思う。
作品の中では律子の元旦那と子どもたちが対比的に、だけどどこか似ているように書かれており、そこが元旦那を単純な言葉--嫌いとか好きとか--で括られなくなっている心理描写が非常に秀逸であり、前述したその「丁寧すぎる」表現は作品の後半に劇的に表現されるのだが、そこで表現される登場人物の行動が理にかなっていないところに、究極的な人間の弱さとわがままさを感じられた。
タイトルの「大人しい子ども」からホラー描写があったりするのか…!? と身構えたりもしたが、内容は純粋な人と人との関係を素直に描いたヒューマンドラマである。他人との関係に悩む人がもし読んだなら、この作品からヒントを得られる方もいるかもしれない。

私的テーマ曲

棘に毒 / GRAPEVINE
https://youtu.be/nDPIRLU9EXo
※今回の読書感想文企画では勝手にテーマ曲を選ぶことにしました。迷惑?笑

棘が刺さった 毒がまわった
熱があがった
今でも 君のことをうたう
リフレインはずっと
溢れるけれど 届かないんだ
汚れてるんだ 熱はないんだ
このままではもう
もういい って言いそうだ

作者である押尾氏は作品を生み出すにつれて、より書きたいものがはっきりしてきていると思う。この文章を読んで少しでも興味を持った方がいれば、彼のHPも覗いてみてほしい。

https://oshio-shin.com


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,357件

#文学フリマ

11,668件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?