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美術展めぐり

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実際に足を運んで見に行った美術展の感想を書き留めています。
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#愛知県美術館

「幻の」愛知県博物館とは

最近、美術館へ行くのは取材ばかりになってしまい、なかなかここで紹介する余裕がないのだが、先日、スケジュールの隙をついて愛知県美術館の展示を見てきた。どんな内容かというと「幻の愛知県博物館」。過去に実在した「愛知県博物館」や当時の博物館事情を紹介するという、ニッチな需要を見込んだ展覧会だ。 正直なところ、このテーマで喜んで足を運ぶのは、街歩きのプロか、学芸員資格を取ろうと勉強しているうちに、明治時代の日本の展覧会事情にハマってしまったある意味マニアックな層ぐらいではないかと思

今年はあいトリと呼ばないで(その2)

国際芸術祭あいち2022のメイン会場、愛知県美術館の10F、有松会場に続けて、次は県美術館の8Fを紹介する。これがまた質・量ともに大変なことになっており、全体的な印象としては、10Fが顔だとしたら、8Fは心臓(ハート)にあたるのでは、と思っている。 8Fは映像を活用したインスタレーションや複数のパーツで成り立つ作品が多く、濃い作品が多い一方で、写真で「コレ!」とわかりやすく提示するのが難しい。文章でイメージが伝われば幸いである。 ローリー・アンダーソン & 黄心健(ホアン

今年は「あいトリ」と呼ばないで( その1)

あいちトリエンナーレあらため、「国際芸術祭あいち」として再出発した芸術祭は、夏の暑い真っ盛り、7月30日に開幕。会場は本拠地となる愛知県美術館をはじめ、一宮市、常滑市、有松(名古屋市内)など郊外の街に3箇所。今回のテイストはどんな味付けになるかとドキドキしながら、まずは本丸の愛知県美術館へ乗り込んだ。 さすがは本丸、展示のボリュームが半端ない。一度に見きれないので、10階フロアと8階フロア、別々の日に見に行った。今回はまず玄関口ともいえる10階の展示の紹介&感想から。 1

ミロ展――日本を夢見て@愛知県美術館

これは存在を知った瞬間から行く気まんまんだった。一種独特の不思議な図形で世界を書きあらわす画家、ジョアン・ミロ、実は絵画だけでなく、タペストリーや版画、焼き物にまで製作範囲を広げていた。 また、ミロは親日家としても有名で、日本に関する(主に美術系の)資料を収集し、来日を果たしたのち、70年大阪万博ではガスパビリオンに壁画を提供していたのだという。なぜ親日かというと、ミロが育った時代のヨーロッパ、主にフランスとその周辺ではジャポニズムがもてはやされていたからで(恐らくパリ万国

呼んでくれる人がいるから作りに行く

つい先日――3月13日まで愛知県美術館で開催中だった「ミニマル/コンセプチュアル」展は、会期終了直前に駆け込み、なんとか内容を頭に詰め込むことのできた展覧会だった。 コンセプチュアル・アートやミニマル・アートと呼ばれる分野の作品は、最初にアイデアありきで、作品を見て感じることと同じくらい、なぜそれが作られたのかを知ることが重要になる。 ミニマル・アートというのは、1960年代のアメリカで生まれた美術の潮流のひとつで、あえて工業製品や既製品を使い、展示も指示書に基づいて職人

ちょっとだけよ?

大規模な展覧会の開催が難しくなってきている中、愛知県美術館ギャラリー(8F)では、「ジブリの“大じゃない”博覧会」が開催されている。それを知ったのは7月上旬のこと。数日後、友人を誘ってチケットを予約した。その時はさすがに名古屋で一日あたりの感染発覚者数が100人を超える日が続くことまでは予想していなかった。この時期に繁華街を抱える栄まで出るかどうか迷ったが、伝染るときには何をしていても伝染るからと腹をくくり、できるだけの対策をした上で友人と出かけることにした。 展覧会の内容

印象派勢ぞろい

今回は愛知県美術館で開催中のコートルード美術館展の感想です。 年明け最初の美術展めぐりは、見た目に華やかなコートルード美術館展から。現代美術を見慣れてくると、印象派の絵画=目の保養、という気持ちになるし、実際美しい絵が多いのだが、風景や風俗をテーマに取り上げたり、戸外制作を行ったり、新しい技法に取り組むなど、当時の美術の流れにおいては、非常に挑戦的な試みが行われていたことは間違いない。 展示の構成は次の通り。 第1章 画家の言葉から読み解く 第2章 時代背景から読み解く