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丸くなるな、星になれ

夜が開け、太陽が出てきて空が明るくなると、月は見えなくなってしまう。昨日、9月10日は中秋の名月だった。数時間前まではまるっとした月が、おそらく万人の持つ「丸」の定義の基準をを全て満たすくらいにまるっとした月が、空に埋められた照明のように光っており、きっと今も空のどこかに月はいるはずなのだろうけれど、見えなくなってしまった。太陽がいなければ光ることはできないのに、太陽が表舞台に出てくるとその姿は霞んで消えてしまう。月ってなんだか現実的だ。


中秋の名月には月を見て、団子を食べる。そういう習慣が日本にはある。十五夜と言ったりもする。十五夜と言うのだから、9月15日が十五夜なのかと思ってしまうけれど、実はそうではない。月の満ち欠けは必ずしも毎月15日にやってくるわけではないからだ。だから今年の十五夜は10日であり、来年の十五夜は9月24日であるらしい。しかし、これから12回も月は満ちては欠けるのにもかかわらず、12ヶ月後の満月の日を今から指し示すことが本当に可能なのだろうか。何処かで手続きの滞りが発生して、満月は数日遅れますなんてことになったりしないのだろうか。


満月の日でも、三日月の日でも、新月の日でも、僕は変わらずサッポロ黒ラベルを飲む。例え、もし仮に、月が爆発して散ってしまっても、ずっと変わらずサッポロ黒ラベルを飲むことだろう。キリンの缶ビールを飲んでも、アサヒの缶ビールを飲んでも、サントリーの缶ビールを飲んでも、どれもビールであればおいしいことには変わりないのだけれど、やはり僕はサッポロの黒ラベルが大好きだ。1日の終わりにサッポロ黒ラベルがいないければ、心地良く眠ることができないだろう。


サッポロ黒ラベルの缶には「丸くなるな、星になれ」という言葉が書かれている。自分の秀でた部分を伸ばし、尖らせ、もっと伸ばし、より鋭くする。そんな出っ張りをいくつも作ればいつかは星(スター)になれる。名コピーだ。どこかでみたメロンソーダの名コピー「夏だ。そうだ、メロンソーダ」に匹敵するほどの名コピーだと思っている。僕はこの言葉に支えられて今日までサッポロ黒ラベルを数えきれぬほど飲んできた。


しかしサッポロ黒ラベルのロゴを思い浮かべてみよう。光り輝く星を囲っているのは黒い丸なのである。結局丸くなってしまっているではないか。しかも、星は黒い丸の範囲に治ってしまっている。尖りに尖って他人と違うことをしてみたはいいものの、結局中途半端で終わってしまうのはダサい。そう考えると、井の中の蛙とはまさにこのことだと、友人を話しながら、中秋の名月の下を歩いていた。


とは言ってもやはりサッポロ黒ラベルが好きだ。1日を終えるとビールを欲し、のどが乾いてもビールを欲する。おいしいご飯を食べている時もビールを欲し、散歩をしている時もビールを欲する。生ビールも瓶ビールも缶ビールもどれでもいい。アサヒでもキリンでもサッポロでもなんでもいい。けれど、そうは言ってもやはり僕はサッポロが好きなのだから、選択肢のひとつにサッポロがあれば迷いなく飛びつくことだろう。

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