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〈詩〉踏みとどまる夕暮れ

朝よりも静かなねじ巻き時計の音を聞いていた
連続する重たい空と向かい合ったこの部屋には
たしか時計はなかったのにと思いながら

午後四時を過ぎた部屋の中はもう日の翳る季節だ
どの家も西側の壁が柔らかな光を映している
どこかの庭の鉄製フェンスに取り付けられた
扉を閉じる音なのだろう
永遠を思わせる遠さがあった

思い出していた
階段から見下ろす螺旋には僕を引き寄せる力がある
少しずつ遠くなってゆく足元のその先の
視界の奥から暗さが上がってくるのが見えた
階段の手すりに蜘蛛の巣を張り巡らせて
何かが僕を待ち受けているのかもしれなかった

部屋の中に鉢植えのガジュマルの木を置いた
ガラス戸の前で緑の葉が黒に近い色で茂っている
目の奥の痛みがさらに奥へと静まって行くから
目は閉じたままにしておこうと思っている
それにしても人の不幸を思いやるにも限界がある
目を背ける方が自分の内心に対して誠実なこともある

羽毛布団から羽毛がこぼれ出して
畳の上にふわふわと散らばっている
冬が来る前に新しい布団を買わなければならない
ガジュマルの木は100円ショップで買ったものだ
買ってからおよそ一年半くらいだろうか
ずいぶんと背丈が伸びて葉の数もだいぶ増えた

ねじ巻き時計の音は隣の部屋から聞こえてくるのだった
少し離れた場所で知らない時間が刻まれていること
知らざるを得ないものに対して目を閉じる僕
それを聞いている僕のいる夕暮れ


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