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「ワクチン」「EV」「無人機」導入に見る「ミスは許さない」思考

2021年、当時の菅義偉政権はモデルナ、ファイザー、アストラゼネカからワクチンの供給を受け、速やかに高リスク層から順に予防接種を開始した。地域医療機関での個別的な接種に加え、組織ごとに集団的に摂取する「職域接種」、そして自衛隊が準備する「大規模接種会場」の3パターンに大別され、素晴らしいペースで国民の予防接種率は向上した。3回目接種以降の接種率はさておき(2022年11月現在で5回目接種まで可能なようで、ペースは相変わらず早い)、1回目、2回目の素早さには目を見張るものがあった。
しかし、日本がワクチンを薬事承認した2021年前半には、既にイスラエルでは国民の半数が、イギリスでは国民の75%が1回目の接種を終えていたという報道もあり、日本のワクチンの「駆け出し」が遅かったことは、少なくともそのように認知されていたことは間違いないようだ。

2021年12月、トヨタ自動車はバッテリーEV(以下、EV)を一気に16車種公開した。その中にはモックアップもあったが、いずれにせよサプライズ的に16車種を一度に公開したことは世界を震撼させた。
日本では欧州に比べ、乗用車分野でのEV普及が大変遅いといわれる。その理由は本記事では割愛するものの、この時点で販売中だったのは日産「リーフ」のみ、存在が明らかになっていたのがトヨタ「bz4x」スバル「ソルテラ」日産「アリア」くらいだった。そこから一気に1社(もしかしたらスバルも巻き込むのかもしれないが)で16車種をカバーすると突然発表した。序に言うと、既にトヨタ系の商社(豊田通商)が既にバッテリー用の鉱山を押さえており原料調達にもめどが立っている、とのことだった。

2022年12月、防衛省・自衛隊関連の目新しいニュースが連日雪崩のように入ってくる中で、「戦闘ヘリの廃止と無人機の大量導入」の速報が入った。
一部の専門家が詳しいように、日本・自衛隊は無人機に関心が薄い、導入が遅い、とさんざん叩かれてきた。筆者の意見をここで述べるような無粋な真似はしないが、なんとも手厳しい意見が噴出していたのは記憶に新しい。
それが、既存のレガシー部隊を廃してまで無人機を運用することに決めた。つい先日、海上保安庁で無人機が導入され話題になったばかりの本邦がなんとも手早い動きだ。

この3つの目立った事象には構図の共通点がある。
それは「動きが遅い」という批判の噴出、そこから巻き返すような大量導入の発表、という大まかな流れだ。
換言すれば、慎重な判断とそれによる世界標準からの遅れ、それをスケールとマネーで一気に取り返す、というある意味マネーゲーム的な流れを辿っているということになる。

慎重な判断は多様なステークホルダーへの影響を計算し、弊害が最小限のものとなるよう計算されているが故、ということが想像される。但し、検討段階においてはやはり「遅い」と言われざるを得ないこと、そしてそれを巻き返すためには金にモノを言わせるしかないこと、ここからは逃れられない。
その是非はさておき、この良くも悪くも「日本的大企業らしさ」であり「大国的マネーゲーム思考」的な戦術は、今後数十年をかけて間違いながら採りにくくなる。国内市場が先細り、GDPが下がりゆく状況では同じような「大きいゆえの戦術」が維持できないのは想像に難い話ではないのはお分かりだろう。

では、日本が今後「結果的な世界標準」を維持するにはどうするべきなのか。その1つの案として挙げられるのが「機動的な思考」と「素早い判断」だろう。もう少しわかりやすく言うと、空母をコルベット艦と対艦ミサイルで撃沈する非対称線的な思考、素早く機序を察して判断する思想だ。
但し、この方針を取ると当然ながらミスが発生するリスクが高まる。さて、ワンミスを許さない日本人の思想がこれをどこまで許容するのか。
トヨタが世界に先駆けて「プリウス」を導入した時の、日産が世界に先駆けて「リーフ」を導入した時の、いわば「チャレンジ的な思考」に少しずつシフトすること、そのためには我々国民がもう少し「ミスに寛容になる」ことも必要なのではないだろうか。

さて、修士論文の提出が迫ってきた。ここでミスは許されない。修士号がパァになる。就職もできなくなる。

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