はたちを振り返る2

それから私は彼を映画に誘った。彼は快く行こうと言ってくれて、私の胸は弾んでいた。そして当日、目黒シネマの2本立ての映画を見て夜ご飯を食べてまた1本映画を見るという映画マニアかのようなデートコースを決行させた。意識し始めていたからだろうか、心から楽しむことは出来なかった。全く興味のない相手にはできるような簡単な質問も、彼には少しもできなかった。当たり障りのない会話をしなければいけない、何を話したらいいんだろう、そう考えているうちに定期的に沈黙ができた。過去の恋愛の話すら聞き出せないわたしは、相当恋愛下手なのだなと思った。
そのせいで手応えはあまりなかったが、その日以降からずっとLINEが続いていたし、向こうから映画に誘ってくれたりもした。もしかしたら私のことを好きなのかもしれないという可能性を感じていた。その矢先、
「あいつ、初恋の人に告白して振られたらしい」
バイト仲間がこんな情報を提供してきた。まさかと思った。初恋の人とご飯に行ったという話は本人から聞いていたが、告白するほど好きだったのかという驚きと、私を誘ってくれたことにはなんの意味もなくて、友達としか思っていなかったんだという悲しみから、私の心は一瞬にして打ち砕かれた。
その日、チャミスルを1人で2本開けて、全部吐いた。本来、度数の高いお酒はこういう日に開けるもので、飲みすぎて吐くまでが一連の流れである。
バイト仲間には今がチャンスだよと言われたが、どうしてもその気にはなれなかった。そこまでのメンタルが備わっていない私は、もう自分から誘うのはやめようと思った。メンタルの弱い自分にはそれが一番の自己防衛であるからだ。
同居人にもその話をしたら、そんな男はこっちから願い下げだという結論に至った。生憎、彼の誕生日が近かったため私はお菓子の詰め合わせを買っていたが、それは同居人が責任をもって供養してくれた。同居人には言わなかったが、少しだけならあげてもいいかと思って全部は食べなかった。少なくなったお菓子の詰め合わせは私の未練をことごとく表していた。
数日後、前々から予定した映画を彼と見に行った。これが最後、これが終わったらもう遊ぶことはないんだろうなと思いながら映画を見て、その後2人で居酒屋に行った。いつもより早く酔いが回った。いつも通り何気ない会話をしていた中、彼は言った。
「意地悪な質問して良い?」
ぎくっとした。なにか流れが変わりそうな気がした。

「なんで映画誘ってくれたの?」

動揺した。なぜ彼は私にそんな質問をするのだろう。好きだから誘ったという答えを期待しているのだろうか。誤魔化そうとも思ったが、酔ってるせいか、今回は正直に答えようと思えた。
「なんとも思ってない人は誘わないよ」
ドキドキした。
「僕もなんとも思ってない人とは行かないよ」
驚いた。私の一方通行ではなかったのか。でも何故?ほんの一週間前に初恋の人に告白したばかりなのに。
 でも今は初恋の人が好きなのではないかと彼に尋ねた。それは、私と初恋の人の間で揺れるのは嫌だからけじめをつけようと思って振られるつもりで告白した、これからもしっかりと向き合いたいのは私のほうだ、と彼は言った。なんだかよく分からなかったけど、もうなんでもよかった。
「じゃあ付き合う?」
少し考えてから彼は承諾した。帰り際、私は少量になったお菓子の詰め合わせを渡した。

少し肌寒くなった9月の終わり、私たちは付き合うことになった。
続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?