はたちを振り返る

二十歳があと一週間で終わる。
まだ私の人生にタイトルは無い。
でもこの歳にタイトルをつけるとしたら...。
今年の四月から、私は映画館でアルバイトを初めた。初めは若い関西訛りの若造社員が癪に障るだとか、ノリが大学の飲みサーみたいで嫌だとかで、こんなバイト先さっさと辞めてやる、などと思っていたが、そんな気持ちは一ヶ月も経った頃にはとうに消えていた。
苦手意識の発端は無知である、というのはどうやら嘘ではなかったようだ。接してみると案外、社員たちは怖くない。私が嫌いだった若造社員は親のコネで入ったということを聞いて納得したし、仕事が出来なくて嫌われてるということを風の噂で聞いてから、癪に触ろうが何だろうが、もうどうでも良くなった。飲みサーだと思っていたノリも、コミュニケーションを取る事が久しぶりだった故の混乱だった。みんな、優しくていい子達だった。
外では社交性を発揮出来る私は、いつも脇腹に社交性スイッチをこしらえている。バイト先の裏にある社員用エレベーターに乗り、そこでやっと脇腹のスイッチを押すのである。その為、それまでの道のりで偶然出くわしたバイト仲間に気さくに話すことなどは到底難しい。
8月、私はバイト仲間とディズニーランドに行った。ここに至るまでに色々あったが結局何も無かったので話す手間は省くとしよう。
約3年ぶりのディズニーだった。3年ぶりのディズニーという事と、初の男女ディズニーということで、わたしは胸を躍らせていた。その中にOという同い年の男がいた。彼は私と同い年で少し面白い。その当時、私は彼のことをなんとも思っていなかった。顔はタイプでは無いが高身長の頭良さそうな少し面白い同い年、という認識だった。
そんな彼とまともに話すのはこのディズニーが初めてだった。まともに話をしたことがない人と夢の国に行くというのはなんとも大学生じみた行動であろう。その日は暑かった。彼は百均で千円で買ったという妙な手持ち扇風機を持ってきていた。私は百円均一で千円の物を買う人間のその心が分からない。「どこで買ったの?」「百均」「え、安いね!」「でも千円した」というくだりをするのは面倒だし、何故か騙されたような気分にもなるからだ。しかし今回は油断しているうちにその「百均で買った千円の手持ち扇風機」に先手を取られた。圧勝である。Oはずっと私にその扇風機を向けていてくれたのだ。それによって私は、情けないが、少しばかりのときめきを感じた。この感情は、私の恋愛経験の少なさを物語っている。
先手を打たれるばかりではやってられないと、わたしも負けじと暑いから入りなよと言って小さな日傘に二人で入ったりもした。
こうして私はOに少しばかり、今までと違う感情を持ち始めていった。
続く

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