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『アリスとテレスのまぼろし工場』 雑記

 MAPPAがとんでもないモノをお出ししてきやがった。

https://youtu.be/NvM28WMdRLQ?si=WVK4zByUXNlCar9e

この作品との出会いは突然だった。
MAPPA STAGEで呪術廻戦と地獄楽ステージの配信を観て満足していたところに突然お出しされた、MAPPA初の完全オリジナル劇場アニメの情報。そしてメインキャストは榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲。好きな作品のステージが終わって完全に油断していたところに飛び込んできた、まさしく寝耳に水のような情報だった。

 話は少し逸れるが私は榎木淳弥さんの芝居が大好きだ。たまたま吹替で観たトムホのスパイダーマンの一作目でバルチャーにめちゃくちゃボコられて半ベソかいてるところの芝居よかったなぁというのが多分ファーストコンタクトで、SSSS.DYNAZENONを観てその芝居に夢中になってしまった。

壁にぶつかったり傷だらけになってもがきながらも前を向いて戦おうとする、泥臭くも力強さを感じさせるキャラクターたちをリアルに表現するのが榎木さんのお芝居の特徴だと思っている。それによって表現されるキャラクターたちの生々しい感情や紡がれる言葉に、かえってこちらまで胸が苦しくなる。この胸の苦しさが忘れられなくて、榎木さんの芝居を観ているまである。

 アリスとテレスのまぼろし工場のあらすじや解禁される情報を見聞きする度に、私は思った。
「これは間違いなくすごい作品になるぞ。」
上田麗奈さんも久野美咲さんも素晴らしいお芝居をする女優さんたちだし、そして作画を担当するのはあのMAPPAなのだから。そしてティザーPVで聞いた正宗の「大嫌いって気持ちとすごく似てて……」と「なんか痛くって、爆発しそう……」という二言のセリフで、絶対に初日に観に行くことを決意した。もうその質感からして私の好きなタイプの芝居だった。早く観たい、早く観たいと思い続けて約3ヶ月、早いものであっという間に公開日を迎えてしまった。

 公開初日、半休を取って観に行った。映画を観終わった後、明るくなった客席にはエンドロールで中島みゆきが大音量で流れているのを良いことに嗚咽を堪えきれないほど号泣し憔悴しきった私がいた。おぼつかない足取りでお手洗いに行って鏡を見たらまあひどい顔をしていた。もちろん映画の出来がひどくてそうなったのではない。むしろ逆だ。PVを観た時の私の感覚は正しかった。
MAPPAめ、とんでもないモノをお出ししてきやがったな。

 製鉄所の爆発事故がきっかけで精神的にも物理的にも変化があってはならないとされる街になってしまった世界の話なのだけれども、この作品で描かれているのはそんな閉塞的な世界の中でめまぐるしく動いていく「激情」だった。作品のパワーにただただ圧倒されるばかりで、未来を向いて、今を生きることを全力で肯定してくれるようなパワフルな作品だった。

 そして、何よりもう出ている役者がみんな上手い。ゲスト声優枠の林遣都さんと瀬戸康史さんもとてもよかった。個人的には、特に主人公正宗の父、昭宗の某シーンのモノローグが非常によかった。昭宗自身の気持ちだけでなく、息子である正宗に対する想いが伺えるような場面で、1人喋りで収録はきっと大変だったのではないかと思う。それでも見事にやり遂げた瀬戸さんに拍手を送りたい。

さて、一番話したいことを話してもいいだろうか。

 榎木淳弥の芝居が良すぎる。

 序盤は鬱屈とした町で暮らしている正宗の心の仄暗さを、そして終盤に向かっていくにつれて揺れ動き、動き出して止まらない彼の感情をストレートに表現している。あまりにストレートすぎて、正宗が涙を流したり葛藤してもがき苦しんでいるのを観ているこちらもつい力が入ってしまう。榎木さんの芝居には彼が演じているキャラクターと視聴者を共感覚に至らしめる何かがあって、つい感情移入して見ているこちらも胸を掻き乱されるような苦しさを覚えるのだ。私は芝居を観るのが好きだけれどかと言って芝居のメソッドに詳しいわけではないので、うまく言語化できないのがもどかしい。
監督のインタビューによると、正宗のボイスキャストを決める際のテープオーディションで「正宗はこの人しかいない」となった声が榎木さんなのだという。監督の直感は正しかったと思う。本当に、菊入正宗という役は榎木さんにとってハマり役というやつだったんだと思う。本編でももちろん思わず涙を流してしまったシーンはいくつかあるのだが、エンドロールで「菊入正宗 榎木淳弥」の文字が最初に流れてきた瞬間、涙が溢れてきてエンドロール中嗚咽を抑えるのに必死だった。この素敵な役を榎木淳弥の芝居で見られることって本当に素晴らしいことだなと感極まってしまったのだ。こんなことは人生で初めてだった、声優の名前が視界に入っただけで泣いたのは。
とにかく、榎木淳弥の芝居に心を突き動かされる感覚を激しく思い起こさせるこの『アリスとテレスのまぼろし工場』という作品は2023年の榎木さんにとってハイライトになる作品の1つなのではないだろうか。(もちろんグリッドマンユニバースも忘れてはいない。忘れられるはずがない。)

原作小説も事前に読んでいたとはいえ、アニメでの表現についてまだまだ咀嚼できていないところはあるので、もう何回か劇場で観たいと思う。

ありがとう、MAPPA。
素敵な作品を作ってくれて。

とりあえず初回の感想を取り急ぎ書かせてもらった。ネタバレ入りのものもいつか書いてみたい。



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