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#ブックカバーチャレンジ 1日目 Day1 #BookCoverChallenge

#ブックカバーチャレンジ #BookCoverChallenge 【自分ルール10日間】
1日目 Day1
『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』 安田浩一 KADOKAWA

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 団地には色々と思い入れがある。自分は団地生まれ、というわけでは無いが、幼少期にマンモス団地の近くに住んでおり、その団地の中に存在する小学校と中学校に通っていた。そのため計9年間に渡り、毎日のように団地の中を歩いていたことになる。必然的に友人も団地に住んでいる者が多く、遊び場も団地に住む友人の家であったり、団地内の公園であったり、一角のゴミ捨て場だったりした。一方で正確には団地とは異なるが、10代のころに気合を入れて遊びに行く「都心の繁華街」である原宿にも、まだ同潤会の青山アパートメントが役割を変えながらも存在していた。そのような背景から、団地は自分にとって身近な存在であり、原風景でもあった。そのため自分の楽曲や映像作品でも度々題材に取り上げている。
 自分が幼少期、近くに住んでいた団地がどこかと言えば、その筋の間では『滝山コミューン一九七四』(原武史/講談社)の舞台として知られている東京都東久留米市の滝山団地である。前書は簡単に言えば「団地という構造が共産主義的思想と親和性が高く、実際にその中で全体主義的教育が行われていた」ということを描いたノンフィクションだ。しかし自分の世代のころにはそうした面影はすでに廃れており、所謂「戦後民主主義的リベラルな教育」を受ける程度であったと記憶している。
 「団地本」にはざっくりと団地の建築や建造物という側面と、歴史や社会的役割の側面にフォーカスを当てたものの2種類が存在する。それで言えば本書は主に後者を扱っている。もちろんこの2つには密接な関係があり、どちらの側面も興味深い。メタボリズムやミニマリズム的な建築物として特異な存在である団地、という側面は自分も好きで映像作品でもその点を中心に画面を構成したことがある。しかし、自分が団地に思いを馳せる場合には、その「移ろいゆく社会的役割」にどうしても焦点が当たりがちだ。それはおそらく、前述した「原風景」に刻まれているからだろう。それは必ずしもシンプルなノスタルジーではなく、現在と地続きの物だと考えている。そういった理由で、少し前の起きた「団地ブーム」には乗っかり難かった覚えもある。
 戦後経済成長の華形として日本各地に建造され、「核家族」と「サラリーマンという労働者」を支えた団地が、やがてその役目を終える。そこで現れるのは過疎化と高齢者問題である。前述した滝山団地も、団地内の小学校が閉鎖され、そのまま建物が健康プラザに改装される、というわかりやすい変化が起きている。この現象はおそらく日本中のあらゆる団地で見られるだろうし、その点を取り上げた本も数多く存在するだろう。そしてそこに並行して、団地は外国人労働者や海外移住者が住みやすい住宅としての機能を持ち始めている。そこに至るまでの過程と現状をレポートするのが本書である。
 現在アメリカで起きている「Black Lives Matter」に触れる話でも度々見かけるように、日本社会は単一民族国家という「誤った幻想」を抱き続け、人権という概念を社会思想の基盤に上手く取り込めなかった。その日本社会がこうした状況に向き合う時、様々なゼノフォビアや差別的問題が噴出することは不思議ではない。差別に正当な理由は存在しないが、実際に生まれる軋轢には様々な経緯が存在する。本書ではその実例や現状、そしてその中で共生や解決の道を探るための、様々な試みも紹介されている。そして、「都市部にアクセスが良い郊外に存在し、家賃が安価な集合住宅」の団地が、外国人労働者や移民、低所得世帯からの需要が高い、ということは日本に限った話ではない。本書では、フランス・パリの団地においても共通する問題が存在している様子を、現地取材を行って記している。その様子は日本の団地にもやがて現れる、将来の姿ではないかとも考えさせられる。団地と共生において現在現れている様々な問題は、日本国内だけに限った話ではない。グローバル社会における多様性と所得格差、社会制度がこうした問題の背景にあることを考えれば、それは当然とも言えるだろう。団地は今でも、現在進行系で時代の一端を明確に写し出しており、やはりシンプルなノスタルジーの範疇に収まる存在ではないのだ。
 ちなみに、本書は日本における団地の歴史を紹介する下りで、「団地妻」という存在がどのように生まれたかという点も説明している。その流れで、日活ロマンポルノ作品『団地妻 昼下がりの情事』の監督・西村昭五郎の最後の妻・成子にも取材を行っている。晩年の西村監督の様子を知ることができるのも映画ファンとしてはうれしいポイントだ。

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https://murafake.hatenablog.com/entry/2020/06/04/212123


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