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2023年8,9月の新譜記録

こんにちは!タイトルの通り、私が8月と9月に聴いて良いなあと思った新譜について、簡単な感想コメントとともにまとめておく記事です。

これまで毎月単位で書いていたんですが、8月末のサマソニでコロナに罹患してぶっ倒れたり個人的に音楽を作っていたりした関係で記事を書く時間も音楽を聴く時間も取れず、このような形になりました。まあそういうこともあるよね。音源割と良いと思うので良かったら聴いてね。
理想をいえば、音楽を聴く行為と作る行為のバランスをもっとうまいことやりたいところです。どちらにしても仕事の合間を縫うことになってくるので、なかなか難しい話ではありますが……


良かった新譜

アルバムタイトルを押すとsongwhipのページに飛べるので、気になった方はそちらからどうぞ!

Hinemoshere / Lily Fury

あまりにも、あまりにも素晴らしい作品です。ポストロック、ハードコア、ブラックゲイズ、インターネット、百合、SF、生命、ここではないどこか、全てを詰め込んだ愛と暴力と祝福と悲哀の音楽。寂寞とした合成音声が紡ぐ2人の物語は確実な終焉へと向かい、激情のままに溢れる轟音と絶叫でさらにその絶望は加速する。それでもなお、その全てを肯定しようとするライカと、アンドロイドとの間に知覚された深い愛情が一筋の光となり、本作はどこまでも悲しく、そして美しい結末を迎えます。表現したいコンセプトが突き詰められているのはもちろん、それを顕現させるための音楽的技法の選択(合成音声によるモノローグなど)も非常に冴えている、疑う余地のない大傑作です。

正直、始めは「こんな曲書けないよ〜泣」というスタンスで聴いてしまっていたのですが、途中からあまりに強度の高い楽曲と世界観に感情を鷲掴みにされ、終盤には当初の卑屈さも忘れて本当に清らかな涙を流しました(電車内で)。心からありがとう。今後の活動もとても楽しみです。

なお、つい先日このEPのボーナストラック的な立ち位置(とのこと)の楽曲がSoundcloudに公開されていたのですが、こちらもドラマチックでありながらどうしようもなく寂しい、素晴らしい楽曲でした。本当にありがとうございます…………

no public sounds / 君島大空

君島大空の2枚目(そして今年2枚目でもある)のフルアルバム。1月リリースの『映帶する煙』もとても好きでしたが、今回のアルバムは「好き/嫌い」よりも先に「凄さ」がやってきて、ひっくり返りました。全体的にメロウなテイストだった前作に比較しても、一級の演奏家たちによる生身のセッションワークのパワーとDTM的なアグレッシブな編曲のアイデアが交差する楽曲は活力に満ち溢れているし、それに負けない説得力を持った歌(=メロディ、歌唱、歌詞、シンプルに超上手い)とがせめぎ合う高揚感と緊張感によって、聴き手の心身のあらゆる感性を楽曲全体に惹きつけて離れられなくしてしまう磁場が生じている。別に戦ってもないのに「勝てねえ」と思わされる、圧倒的な『力』。バンド畑の人も、電子音楽が得意な人もみんな必聴です。

softscars / yeule

内容よりもまずジャケ写にやられた一枚。この明らかに現実離れしているのに、同時に此岸へと肉薄する生々しいグロテスクさと悲哀を帯びた姿が個人的にハマりました。音楽面でもそうしたコンセプトはしっかり展開されていて、ギターのディープなノイズや基底にあるエレクトロのサウンドが作る幻想的な世界観の中で、自らの心の傷に向き合う詞が紡がれる、もがき苦しみながらもどこかへ救いを見出そうとするような作品でした。レーベルは全く違いますが、Siren for Charlotteの定義する「遠泳音楽」にもかなり近しいのではないかと感じます。

system BIOS / phiome

Vaporwaveもbreakcoreもhyperpopも飲み込んだノイズとグリッチの非現実感覚の狭間で、ニンテンドーDSやWii、3DSのあの独特にアンビエントなシステムサウンドたちが寂しく響く、もう戻れないあの頃の残響に手を伸ばすような、この上なく胸を締め付けられる音楽です。インターネットのノスタルジーもついに自分の世代まで来てしまったんだなという感慨も相まって涙。なお、phiomeというのはどうもhyperpop系で耳にしたことのあるvai5000の別名義みたいです。

Bandcampで売ってたのでCDも買っちゃいました。この異様なコラージュのデザインが素晴らしいですよね。どう考えても法的にアウトではあるんですが。

https://vai5000.bandcamp.com/album/system-bios

Wallsocket / underscores

先行シングルから最高だったunderscores待望の新譜。SkrillexなどのEDMで育った出自を窺わせる強烈なビート感で殴り、underscoresを象徴するポップパンク地の超キャッチーな歌メロで刺す、1stよりもさらにポップに強度を増した作品になっていると思います。1stの最高具合はそのままに、インターネットのインディーシーンから一段上のレベルに達した感じ。
ちなみに、コンセプトとしては「ミシガンの架空の街に暮らす3人の少女」についての音楽らしい。MVから察するにたぶん郊外の街がイメージされていて、そういうところにある素朴で、だからこそリアルな感情が、アッパーな曲の中に独特の哀愁を感じさせます。"You don't even know who I am"とか、"When’s the last time you saw someone with a ski mask and a gun?"とか。この絶妙な哀愁がunderscoresらしさというか、100gecsとかとはちょっと違うポイントで、私はそこが好きなのかなーと思います(彼らも彼らで哀愁あるけど)。

Back To The Water Below / Royal Blood

リズムで殴るという点でいえばこちらも良かったです。過去作に比べるとキャッチーさに欠ける印象はあるものの、よりオーセンティックかつストーナー味の強い音で、最初から最後までヘヴィでストイックな良リフしか出てこなくて最高。リフ駆動でグイグイ前に来るハード趣味なオルタナとしてあまりに気持ちが良すぎる一枚です。ベードラのデュオだからこその、リズムとリフで殴ることに特化した攻撃力の高さ。やっぱ本質はベースとドラムなんだよな。

everything is alive / slowdive

個人的に、いわゆるシューゲイザー御三家の中ではマイブラやRideに比べてSlowdiveにはあんまりピンと来てなくて、たぶんそれは前者二つに比べて単純なサウンドの迫力とかメロディやリフのキャッチーさでは見劣りするからだと思うんですが、スロウコアとかを聴き始めた最近になって、ようやくその魅力が「空間表現の巧さ」にあると気づきました。
昔lovelessのCDの帯かなんかで見た「轟音の中に静寂が鳴る」みたいな表現が割と自分のシューゲイズ/ドリームポップ観を規定していて、爆音と爆リバーブで余白を徹底的に塗り潰すことで、かえってそこにあった茫漠たる空虚さが浮き彫りになるような感覚が大好きなんですが、本作からは特に、そうした手法に依らず、空白を直接的に表現しようとする意図を感じました。手法に差異はあれど、表現の対象や美学に共通するものはあったということですね。この違いを踏まえてSouvlakiとかを復習して、やっと聴きどころが腑に落ちました。

trip9love...??? / Tirzah

虚空に響くような荘厳なピアノとビートを軸に構成されたトラックと、その上で回遊するように浮かんでは消える輪郭の掴めないボーカル。なんというかこれまでどこでも聴いたことがなかった類の音が、アンビエントとエレクトロの狭間のギリギリのところで形を保っているような感じです。さながら異空間に迷い込んでしまったような居心地の悪さと、その冷たさと表裏一体の不思議な落ち着きを感じる怪作。

おわりに

以上、遅れに遅れた8,9月の新譜記録でした。これからはサボらずに書いていきたいです。

上記以外だとOPNの新譜も好きだったんですが、巷間言われているとおり私も「なんかよくわからんけど良いな」程度の感想しか出てこない状態です。2月の来日公演に申し込んだので、当たればそこで理解(わか)りに行きたいと思います。当たればいいな。

来日公演といえば、これを書いている翌日は待望のexloversジャパンツアーに行く予定です。復活も来日も全く予想していないことだったので、めちゃくちゃ楽しみ。12月のALVVAYSも行けることになり、向こう数ヶ月は自分の中でインディーギター熱が再燃しそうです。


仲間内でやってるマガジン。こちらもよければ。


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