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【ライブレポ】家主 "DOOM" Release Tour 2022@WWW X

 大好きなバンド・家主のライブに行ってきました。めちゃくちゃよかったです。私が彼らを知ったのは2019年末の1stアルバム『生活の礎』で、その後すぐライブのできない世の中になってしまったため、ようやく見れた…ということで感動もひとしおでした。
 今回のライブは、昨年12月の2ndアルバム『DOOM』のリリースツアーの一環で行われました。こちらの新譜の紹介も合わせ、ライブの感想をつらつら書いていこうと思います。

バンドについて

 バンド・家主は、シンガーソングライターの田中ヤコブ氏(Vo,Gt)が中心となって結成されたロックバンドです。三人のソングライターによるキャッチーなメロディといなたいドラミングで、鬱屈とした現代を淡々と、それでいて力強く歌い上げる楽曲が唯一無二の魅力を持っています。どうもあの岸田繫氏(くるり)などからも注目されているとかいないとか。
  先述のとおり、私が彼らを知ったのは2019年末の1stアルバム『生活の礎』です。飄々とした立ち振る舞いとは裏腹な、妙な暖かみや親近感を感じるメロディと歌詞、そして瑞々しく気持ちの良いバンドサウンドに強く引き込まれました。

  今回の2ndアルバム『DOOM』でもその絶妙なポップセンスは健在。先行して配信された『近づく』をはじめ、1stよりもヘヴィに唸るギターが印象的なヤコブ曲や、ロマンティックな『夏の道路端』、どこか切ない『飛行塔入口』など、それぞれのソングライターによる三者三様の楽曲の上で重厚に絡み合うバンドサウンドがとても気持ちの良い一枚です。エレキギターってやっぱりいい音するな〜!と思わせてくれます。

ライブの感想

  そんな彼らのライブにようやく行くことができました、というのが今回の記事の内容です。ライブの映像は以前見たことがあり(こちらなど)、ギター弾きまくってんないいな〜と思っていたのですが、実際に見に行くと想像以上に弾きまくっていました
  淡々としたボーカルと対照的にSGを荒々しく鳴らすヤコブ氏、それを支えつつ豊かに絡み合う谷江氏のリズムギター、滑らかなベースラインとのびやかなボーカルで魅せる田中氏、そして岡江氏の力強く歯切れの良いドラミングなどなど、とにかく気持ちの良いバンドアンサンブルを爆音で浴びられたライブでした。(想像の数倍音がデカかった)。

  セットリストも、ワンマンライブとあってかなり贅沢な曲目でした。新譜のリリースツアーとあってそちらの曲がメインなのかなと思いきや、1stアルバムや1st EPの曲もたくさんやってくれたのがようやくライブに行けた身としては嬉しかったですね。2曲目でいきなり『茗荷谷』が始まった時はテンション上がりました。
  新譜からは、『NFP』『にちおわ』といった豪快なロックチューンが爆音でぶちかまされたほか、『それだけ』がタイトながらもしっかり熱のこもった演奏で披露されていたのが印象的でした。個人的には、1st EP収録の名曲『生活の礎』を聴けたのが嬉しかったですね。あとやっぱり『オープンカー』はいい曲だなあ〜ということを再認識。シンプルなコードストロークのイントロがめちゃくちゃかっこよかった。

  『カメラ』の間奏でくるりの『ロックンロール』のリフを入れてきたり、MCでBUMPの『天体観測』再録版で泣いた話をしていたり、個人的にすごい親近感を感じる場面もありました。BUMPの話はだいぶ引きずってくれた(藤くんのアドリブ歌詞アレンジの話までしてた)ので、古のBUMPer(死語)の私もニッコリでした。

他人であるということ

  本筋からは逸れるかもですが、私がこれまで家主の曲を聴いて感じ、また今回のライブで再認識したのが、「他人であること」が現代社会で持っている意味です。

  曲を聴けば分かる通り、彼らの特徴の一つはその飄々とした捉えどころのないアティチュードにあります。ライブでも、ギターはとにかく荒ぶっているのに、ロックバンドらしいシャウトやアジテーションなどはほとんどありませんでした。
  MCも控えめな感じで、「ライブ楽しいっすね」の声に観客から拍手が起こると「いや、そういう意図ではなくて…」と言ってしまうような。とにかく、「オレらとオマエら一心同体」的なノリではなく、明確に一定の距離がありました。

  でも、この「距離がある」というのは必ずしも悪いことではないように思います。むしろ「無関係の他人であるからこそお互いを尊重できる」ということもあるはずで、特に昨今のような、誰がどこから攻撃されるかわからない/時として自分が攻撃してしまうかもしれない時代にあっては、「関係のない人間との距離感を保つ」ということが案外重要になってくると思っています。甲本ヒロトの言葉を借りれば、「友達でもない仲よしでもない好きでもない連中と喧嘩しないで平穏に暮らす」こと、というか。「距離がある」ということがもたらす安心感というのは間違いなくあるはずです。

  勝手な解釈ですが、家主のアティチュードや楽曲からはこういったことをとても強く感じるんですよね。
  たとえば、「人はいつでもどこにいても/ひとりとひとりが集まっているだけだろ?」「へい、気にしないでくれ」と歌った『ひとりとひとり』や、

  「僕たちの金なんだ/どう使っても構わないだろう」と言ってのける『オープンカー』(再掲)、

また文字通り彼らの代名詞である『家主のテーマ』も、「いつでも同じ月を見てたはずなのにさ/どうしてこうも違うんだろう」「家主の曲はいつでも君の味方なのにさ/どうしてこう伝わらないの」としつつ、そんな「君」に「早く見つけて」ほしい、という曲でした。

こういった形で、「お互いに他人であること」の意味と残酷さ、しかしそれを踏まえてやっていくしかない、ということを丁寧に掬い上げて表現しているのが家主というバンドの魅力だと感じています。「他人であること」は心が閉ざされていることとイコールではなく、事実私は彼らの楽曲や荒ぶるギターソロに心を動かされているわけで、そういったことの美しさ・儚さをも表現しているバンドだと思います。

  ここまで書いたところで、今月のユリイカに似たようなことが書いてあるらしいことをTwitterで知りました。こちらはhyperpopへの言及なので想定しているジャンルは全然違いますが、「周りに自分を理解してくれる友だちがいて、そいつらとやっていくだけ」つまり他人は他人だから(変に戦ったり羨んだりせず)放っておいて身近なところを大事にしよう、「僕たちの金なんだ」と言って海までドライブに行こう、というようなスタンスは、時代感覚として非常に強く感じますね。

おわりに

  というわけで、とにかく家主のライブが良かったよという話でした。地に足つけてしっかり活動されてる感すごいので、今後も要チェックのバンドだと思います。やっぱ聴いてて爆音ギターを鳴らしたくなるバンドはいいバンドです。

  最後に、ライブ会場のSEで流されていたアルバムが素敵だったのでそちらも紹介させてください。Nick Fraterというイングランドのミュージシャンのアルバムらしく、ジャンルとしてはインディーロックになると思いますが、イギリスというだけあるのかビートルズやクイーンっぽさも感じられる素敵なポップチューンが並んだアルバムです。

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