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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第九話「うどんとバタリアンヌ三世」

 俺はうどんが好きだ。そばも好きだけど、本場香川県のお隣だから徳島にはうどん屋が多い。気軽さから大手チェーンのものもよく食べるがこれも美味しい。今日の昼は肉たっぷりのぶっかけうどんを食べてきた。体に良くないと分かっていても天かすを山盛りにしてしまうんだよね。

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「ふんふん、いい匂いがするぞ。これは……かしわ天!」
「さすがだな。正解だよ」
 リビングに入るなりトコトコと寄ってきたタマに、かしわ天も食べていたのを看破されて苦笑いした。
「タケルばっかり、ずるいぞ。俺だって天ぷらを腹一杯食べたいのに」
「仕方ないだろ、犬なんだから」
 そう言うとタマは「くあ」と小さなあくびをした。犬って、嫌なことがあるとあくびをするんだよな。もう十年も一緒に暮らしているから、大抵のボディランゲージは読み取ることができる。
「ほら、ごはんの前に散歩へ行くぞ」
 パッと目を輝かせたタマに散歩用の首輪とリードを着け、家を飛び出した。午前中は雨が降っていたから、アスファルトはまだ湿っていて黒ずんでいる。歩くたびにぴこぴこと揺れるタマの耳が可愛くてくすっと笑った。
「ケロケロピエール二世! ケロケロピエール二世じゃないか!」
 突然声をかけられて振り向くと、見覚えのある初老の男性がいた。市役所の隣にある公園で「知り合い」を探していると言っていた彼だ。俺は思わず「うわあ」と声をあげてしまったけれど、彼は意に介さないでタマの前へ回り込んだ。
「私を覚えているかい? 君と同じで姿は変わってしまったけど、バタリアンヌ三世だよ」
「ん? バタリアンヌ?」
 無関心だったタマの耳がピクッと動いた。バタリアンヌ三世という名前に聞き覚えがあるみたいだ。
「そうだよ。一緒にサラサララッピング大戦争で戦った仲間じゃないか」
「さ、サラサララッピング??」
 男性の口から飛び出す単語はいちいちヘンテコだけど、本人は大真面目だ。それにフンと鼻を鳴らしたと思ったら、タマは屈んでいる彼に向かってワンと吠えた。
「な、なぜだ……友よ」
 それから力の限りリードを引っ張って――ショックを受けた様子の男性を置き去りに、俺たちは猛スピードで走り出した。

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