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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第二話「明け方の雷」

 明け方、不穏な雷の音で目が覚めた。タマのために冷房をきかせているから少し肌寒くて、被っている羽毛布団の中でモゾモゾしていたら枕元で声がした。
「タケル。お前怖くないのか」
「……タマこそ」
「俺は怖くないぞ。経験を積んでいるからな」
 自分の方が長く生きているかのようなの言い草に、顔をしかめた。まだ九歳のくせに。デジタル表示の電波時計を確認すると四時半だった。もう一度寝よう。
 次に目が覚めた時は九時だった。ゆっくり起き上がるとベッドにタマは居なかった。きっと一階で爺ちゃんとテレビを観ているのだろう。脱いでいた部屋着のズボンを穿いて部屋から出ると、トントンと軽い足音がしてタマが階段を上ってきた。
「起きるのが遅い。爺さん少しも朝飯を分けてくれないんだ」
 俺はハイハイと返事すると台所へ直行して、カラーボックスの上に置いてあるドッグフードの袋を開けた。高い所に置いておかないと夜、あいつは盗み食いする。サッとお座りしたタマの食器に三連パックのもずくの空き容器一杯分をよそってやり、はぐはぐと勢いよく食べ始めたのを屈んで眺めていたら、リビングのソファで朝の情報番組を観ていた爺ちゃんがやってきた。
「おはよう。朝は警報が出とったんやけど、上がってしもたわ」
 そう言われて窓の外を見ると雨はすっかり止んでいた。山間部は違うみたいだけど、大降りになる予想でも徳島市内は大したことにならずに済むことが多い。午後には晴れてくるくらいだから、みんな油断している。

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「こういう街中の水たまりは汚いって、本当か」
「そうだね。タバコの吸殻で汚染されているときがあるよ」
 少し遅くなった朝の散歩中、アスファルトが凹んで水たまりになっているのをぴょんと飛び越えたタマが質問した。水たまりの水を飲んでいる鳥や猫が、煙草から出た汚染物質で深刻な健康被害を受けていると何かで読んだことがある。
「そういえばこの四月から法律が改正されて、あちこちにあったスタンド灰皿がなくなったね。でも、そのせいか歩きタバコが増えた気がする」
「あんまり肩身が狭いのも可哀想だけど、決められた場所で吸って欲しいよな」
 大手チェーンのカフェでも喫煙席が廃止されて、いよいよスモーカーたちは居場所を失ったに違いない。コロナウイルスによる肺炎も重症化しやすいらしいし、やめようと思っている人は今がやめ時かもね。

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