卵液との対話(2023年12月19日)
・えー、モルトウィスキーとかけまして、源泉掛け流しの温泉と解きます。
・その心は?
・どちらも、60度を超えると流石にきつい。
・ガハハ!
・無理て。
・依然として皆の唇が見えない昨今だが、今年は比較的本寸法に過ごすことができた。フェスは野外でビールを飲みながら声を出せた。地元の夏祭りも復活し、酒を飲みながら太鼓を叩いた。父が生前に作った曲をレコーディングし、実家のやたら広さだけはある庭でアンプを繋いでライブをやった。
・今の会社では社長お付きのなんでも屋のような事をやっているが、一応所属が人事部なので合同説明会にも参加する。最近はウェブ説明会が多くてつまらない。特に嫌なのが参加者がカメラをオフにしていて顔が見られない事だ。しかも質問もしてこない。それなら事前に撮ったビデオを上映しておくだけで十分なんじゃないのか。俺は説明会にかこつけて出張がしたいのだ。
・高校生向けの就職説明会は退屈だ。高校生たちは説明を聞く回数のノルマが与えられているようで、ブースでぼーっとしていれば来てはくれるが、皆やる気がないというか、当事者感が異様に薄い。
・別に高校生たちが悪い訳ではない。俺だって高校の頃は何も考えずなんとなく進学の道を選んだし、今なお自分が何をどうしたいという目標もなく漫然と日常を漂っている。明確に目指す所をもつ高校生など極めて稀だ。そういう人間が知り合いに数人いるので、羨ましくはあったけれど。
・大学四年目の春、卒業後は地元の上場企業に就職することを話した時、知人の反応が綺麗に二分したことを未だ印象的に覚えている。大体の人は「手堅くてnyoneっぽいね」という反応だったが、関係の深い一部からはこう言われた。
・「地元の企業に就職するなんて意外だった」「nyoneは起業すると思ってた」「なんとなく、東京に行くと思ってた」
・それから随分後、一社目を辞めて、また別の地方企業に転職することを当時の担当顧客に話した折、やはり関係の深かった客先の社長から、上記のように言われた。辞めますという報告には一切驚かなかったくせに、地方企業に転職するという話には驚くのだった。nyone君は東京に行くと思っていた__そう言われて、ふと、大学時代の友人の言葉を思い出したのだった。
・ど田舎の農村で田舎者の両親のもとに生まれ育ち、進学も就職も地方から出たことのない俺に、都会に行きそうな空気感を纏わせたのは誰だったのだろう。俺はそんなにも田舎に辟易していたように見えただろうか。
・先日、友人たちとの飲み会で当たりの店を引き当てて、誇らしかった。
・自分の嗅覚の確かな成熟を感じる。窓のあるバーならば基本的にカジュアルな店で、バックバーに並んでいる酒を見れば店主がどういう人生を辿ってきたのかおおよそ分かるものだが、窓がない場合は看板や入り口のドアの佇まいだけでその店が良い店なのかどうかを見分けなければならない。それが出来るようになっている。
・オムレツもそうだ。卵液に火を入れて良きところでひっくり返す作業が、以前は何度やってもうまくいかなかったが、最近ふと作ってみるとなんの問題もなくちゃんと出来るようになっている。火加減とか手首の返しがどうこうという事ではない。熱したフライパンに卵液を溶き入れ、その瞬間から急激に凝固していく卵液と、きちんと対話ができるようになっている。知らないうちにレベルが上がって、知らない技を覚えている感覚。
・目指すべきものという程の事はないけれど、もっとワインに詳しくなりたいな。手慣れた感じで口に含んで「ボルドーだね」とか言ってみたい。慢性鼻炎だから香りなんて全然分からないんだけどな。
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