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BLACK LIVES MATTERと人種差別の今を考える

米ミネソタ州ミネアポリスで、白人警察が向きを持たない黒人を取り押さえ殺害した事件をきっかけに、人種差別の問題が再び全米で大きく取り沙汰されている。これはただのデモじゃない。今までとは確実に何かが違う。歴史に刻まれる貴重な瞬間を生きる今、個人的な考えをここに綴りたい。

事件の詳細

現地時間3月25日の午後8時頃、アメリカの中西部に位置するミネソタ州の都市ミネアポリスで、ジョージ・フロイド氏という46歳の黒人男性が、日本で言うコンビニのような小売店(※この店のオーナーとは顔見知りで常連客だった)でタバコ1箱を現金で購入した。この時フロイド氏が使用した20ドル札が偽装されたお金だと疑った(※キャッシュレス文化のアメリカでは、ピン札を使うと怪しまれるくらい頻繁に偽札チェックが行なわれる)10代の従業員が、フロイド氏に払い戻しを求めた。しかしフロイド氏はそれを拒否したため、従業員は店の規定に従い警察に通報したことがすべてのはじまり。911の筆記録には、フロイド氏は酒に酔っていて、正常な様子ではなかったという従業員の証言が記されていたとのこと。その後の取り締まりで、フロイド氏が使った20ドル札は本物だったことが確認されている。

通報を受けて駆けつけた警官は、車の中にいたフロイド氏に対して、なぜか銃を突きつけ車から降りるように命令。車から降りたフロイド氏は、警官により偽造紙幣を渡した疑いで逮捕すると告げられ、手錠をかけられる。その後、警官たちがフロイド氏をパトカーに乗せようとすると、フロイド氏は閉所恐怖症であることを警官に伝え、抵抗した。フロイド氏が抵抗したことにより、白人警官のデレック・チョーヴィンは、フロイド氏を手錠を地面にうつぶせにし、自身の膝で彼の首を押さえた。この時の様子を映した動画がSNSで拡散されることになる。

手錠をされたまま首を押さえつけられたフロイド氏は、警官に対して「息ができない」と連呼し、「お願いです。お願いです」とて体を動かして訴えたが、首を押さえられてから6分が経つ頃には、動きがなくなった。周りにいた市民も「彼が苦しそう」「反応がない」だと訴えたが、チョーヴィン氏は8分46秒もの間、フロイド氏の首を押さえつけた。現場にはチョーヴィン氏のほかに3人の警官(そのうち一人はアジア系)がいたが、チョーヴィン氏を止めるものは誰もいなかった。その後、フロイド氏の脈がないことが確認され、救急搬送されたフロイド氏はその数時間後に窒息によって亡くなった。警察は当初、フロイド氏は過去の薬物使用と心臓病によって死亡したと発表し、警察の取締中に起きた不慮の事故として片付けようとしていた。

ジョージ・フロイドという人

テキサス州出身のジョージ・フロイドは、数年前にいとこが暮らすミネアポリスに移住した黒人男性。身長2m以上ある大柄な体型を活かして、高校時代はアメフトとバスケットボール部に所属し、大学からのスポーツ推薦を受けるほどの人気選手だった。そんな体型を活かしてセキュリティガードや警備員の仕事をしていたというが、見かけによらず性格は穏やかで失礼な態度を取ったり喧嘩をするような人ではなかったという。彼を知る人は皆、「彼には悪いウワサがない」と語っている。フロイド氏は事件直前までレストランの警備員として働いていたが、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で職を失い、新しい職を探している時だった。

抗議デモが起きた理由

世界中に広がる抗議デモが起きた原因は、フロイド氏を死に追いやったデレック・チョーヴィンほか3人の警官が、殺害の罪には問われず解雇処分だけだったことにある(※4人は事件後に懲戒免職となり、チョーヴィン氏は第3級殺人と第2級故殺の疑いで逮捕・起訴された)。アメリカではここ数年で警官(※主に白人警察)による黒人銃殺事件が多発しており、パンデミックの最中にも、白人が無実の黒人を殺害・迫害する事件が相次いで起きた。歴史を巻き戻しするような黒人差別が繰り返されるなかで、今回もまた白人警官が黒人を殺害した罪には問われずに軽い処分で済まされたことから、黒人コミュニティや人権保護団体を中心に怒りが噴出。多くの著名人も声を上げたことで、大規模な抗議デモはアメリカだけでなく世界中に広がり、黒人差別の撲滅を訴える「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」のスローガンが世界を駆け巡っている。この問題は今や、ディズニーやフェイスブックなど数々の名だたる巨大企業も黒人差別の撤廃を支持する声明を出すまでに発展している。

抗議デモに混じる略奪行為

メディアで連日報じられる警察に対する抗議デモに混じって、一部の市民による略奪行為も起きている。アメリカではまだ新型コロナウイルスによる外出禁止令が出されたままの地域が多く、その不満の矛先を今回の抗議デモに当てるかのごとく、秩序を守らない人たちが人種差別への抗議とは関係なしに、デパートやショップを破壊したりモノを盗んだりする暴動行為を繰り返している。治安を守る警官たちが今回の問題の"敵"として見なされていることから、社会のシステムが破壊。取り締まる警官たちも標的にされ攻撃されることもある。同時に警察による横暴な行為も見られ、まるで市民戦争のような光景が広がる。

今回の抗議デモから見えた変化

近年の黒人差別撤廃の抗議デモを振り返っても、今回のようにここまで過激なデモは稀。しかし、差別撤廃を訴える発言のなかには、これまではあまり見られなかった現象が起きていると筆者は考える。

それは、白人の著名人らの声明に見て取れる。以前から人種差別に声をあげる白人の著名人は多いが、そうした言動は時に”薄っぺらく聞こえる”だけで好感度アップのための宣伝行為にしか見えない時もあった。残念ながら白人には有色人種が日々感じる小さな差別感情を同じように感じ取ることはできないのに、「あなたの気持ちわかります」と同情されても心に響かないという意見がある。

そんななかで今回は、彼らが自ら「白人の特権」が存在することを認め、その上で歴史的に差別されてきた黒人の気持ちを本当に理解することはできないけど、人種差別をなくしたいと訴える姿勢が見て取れた。有色人種は今も差別や偏見を経験するし、突然生活が脅かされるかもしれない恐怖と生きていることを、白人が身をもって感じることは出来ないけれど、そうした苦労がなくなるような社会作りをしていきたいといった言葉を口にしている。

「肌の色なんて関係ない」のではなく、肌の色が違うから”考慮”すべき。黒人じゃないから関係ないといって無視しない。ついに人種差別がなくなる世界を目指して、今も抗議デモが続いている。

日本も関係なくない

抗議デモが行なわれている国は、黒人市民が多い多民族国家がほとんどで、単一民族国家の日本は関係ないように感じる人もいると思う。とくに海外在住経験がないと、人種差別は歴史の教科書の出来事という感覚でしか捉えられないかもしれない。アメリカに住んでいれば、路上に黒人たちが集まってがいるだけで気をつけるように警戒させられるし、黒人の在籍率が高い学校は学力が低いとされる地域もある。とくにアメリカ南部で暮らしていた筆者は、今でも白人コミュニティと黒人コミュニティが住む地域の治安が一目瞭然に違う光景も目の当たりにした。それだけでなく、"白人以外"の人種が差別されることも多々あり、学校の廊下ですれ違った話したこともない白人生徒から「Fuck Asians」と言われたり、ファストフードの店員だった黒人からあからさまな差別を受けたりしたこともあった。アメリカにおける「差別」というトピックで、アジア人やラテン系などの有色人種が、白人と黒人と同じフィールドに立てていない無力感すら感じた。もちろん、人種差別の歴史における黒人差別は、他の人種とは比べ物にならない。長年続いた奴隷制度をはじめ、アメリカでは肌が黒いというだけで警察といった市民の味方であるべき存在から迫害される恐怖を感じながら生きている。しかし、実際に社会に染みついた白人優位な社会を目の当たりにして、人種差別は歴史の出来事じゃないんだと身をもって感じた。

でも、日本にでだって差別はある。日本に住む外国人に対する冷たい視線や拒絶感情も差別のひとつ。肌の色や人種でレッテルを貼る人もいる。また日本には、朝鮮や韓国にルーツを持つ人々に対して今もなお嫌悪感を持っている人がいる。これもれっきとした差別。人々の中にある無意識の差別感情をなくすために、今回の騒動で、日本人もこうした感情を自覚して、人を人として見る力をもっとつけて欲しい。

そして、この件について発言した人に対して悪態をつけたり、むやみに誹謗中傷したりするのはやめてほしい。発言する人も、そんなヘイトが原因で声を上げることをやめないでほしい。

BLACK LIVES MATTER. 

我々は兄弟姉妹として、共に生きていく術を学ばなければならない。それが出来なければ、我々は愚か者として共に滅びることになる。ーマーティン・ルーサー・キングJr.



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