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わずか2か月での引継ぎを実現した、下町の冷凍・冷蔵設備会社の決断。技術を守り次代に繋ぐ事業承継の形


JR神田駅の西側、古くから内神田(うちかんだ)と呼ばれるエリアは小さな飲食店が軒を連ね、下町らしい賑やかさが残っています。

NYCへの事業承継をご決断いただいた弊社投資先のみなさまに、そのいきさつや心の内を聞く事業承継ストーリー、今回はテクノガード株式会社を訪ねてお話を伺いました。

「最終的には人の手じゃないと直せない。昔ながらのやり方でやっていくことが必要な業界でもあるんです。」テクノガード株式会社・山田社長はそう考え、同社が今まで培っていた技術と信頼を次代へ引き継いでいく選択として、NYCへの事業承継をご決断されました。

【お話を伺った方】テクノガード株式会社顧問 山田賢一氏。創業社長である父の跡を継ぎ、二代目社長に就任。2024年1月末日をもって同職を退任され、顧問に就任。

【テクノガード株式会社】
1995年5月設立。食品流通に特化した総合エンジニアリング会社で冷凍・冷蔵設備の設置工事や内装工事、保守メンテナンスを専門に手掛ける。2023年12月1日付でNYCが全株式を取得し、7社目の投資先となりました。
https://technoguard.main.jp/


「いつかは」と思っていた事業承継を、早急に進めなくてはならなかった

ーーまずは事業内容について教えてください。
冷凍・冷蔵設備業については、スーパーなどの小売店舗のショーケースやプレハブ冷蔵庫などの設置施工、その後の修理やメンテナンス、建築内装工事については店舗出店の際の設備内装業などをメインに行っています。

お客様へ技術を提供し、その技術に傷がつかないよう守っていく、お客様に信頼していただけるよう努めることで大手企業とも良好な関係を築いてまいりました。

ーーそんな中で、事業継承に向けて動き出すきっかけは何だったのでしょうか?

もともと親族内で事業承継できる者がいなかったこと、自分の年齢も60代に差し掛かり将来を見越して「いつかはこの会社をどうにかしなければ」という考えは常にありました。

ところが、「いつか」と考えていた事業承継は家庭の事情もあり、早急に決断をしなくてはならない事態となりました。いよいよ動き出さなければ、と第三者への事業承継という選択肢を考え始めました。

ーー「いつか」が一気に動き出したんですね。そこからどのようなプロセスを経て、M&Aへ至ったのでしょうか?

実は以前から、毎週のように複数のM&A仲介業者から営業の連絡が来ていたので、じゃあ一度話を聞いてみるかと。すると事業を承継したいと言ってくれる会社がありそうだとわかったので、それなら、とM&Aという形で探し始めたという流れです。

他の選択肢はあまり考えておらず、事業承継という形で私がこの会社を離れるか、それとも私がこのまま続けていくか、その二択でしか考えていませんでした。

ーーいざ事業承継に向けて話し合いを進めていく中で、譲れないポイントなどはありましたか?

まず一つ目は、私の介護の事情を考慮していただくことです。複数の会社と話し合いをする段階で、中には「引継ぎ期間を何年か設けてください」という条件を提示される場合もありました。

しかし、こちらもできるだけ早く介護に向かいたいから事業承継を進めているのに、相手方の希望する引継ぎ期間に合わせていたらできなくなってしまう。それでは本末転倒になってしまうので、引継ぎ期間は短ければ短いほどありがたいというのが最初の条件でした。

そして二つ目は当然ながら会社の従業員達です。会社の業務も含め、今まで通りにやっていけるかどうか。技術職ですので、お客様との信頼関係を続けていくためにも従業員が離れていくような選択はできません。ここも絶対に譲れないと考えていました。

同業者でなく投資会社をパートナーに選んだのは、短期間の引継ぎが決め手

ーー事業承継に向けて複数社と話し合いを進める中で、当初と変わったことですとか、変化したことはありますか?

最初は同業者による事業承継になるのではと考えていました。同業者であれば業務についてもある程度わかるし、従業員も仕事を続けやすいのではないかと想像していました。

もちろんそういったお話もありましたが、結果的には同業者でなくてよかったと感じています。

ーーNYCにはどんな第一印象を持たれましたか?

やはり皆さんお若いので、30代でというのはすごいなと感じました。ただ投資会社はどこも弊社のような業種・業界に対する知識はないので、同業者でない以上ある意味どこも横並びというか、一緒だろうというのが初めの印象でしたね。

ーーそんな中で、NYCと手を組もうと考えた決め手などはありますか?

まずは会社の引継ぎ期間の条件がマッチしたこと、費用面でも納得ができたからです。2か月という引継ぎ期間で取締役に入っていただけるのは大きかったです。

また、NYCは投資した会社を短期で売却せず中長期に渡って保有し、会社をよりよい方向へサポートしてくれる点も決め手でした。

現場へ行って「お客様がこういうことを求めている」となっても人がいないからできません、ということありましたが、そこにNYCが入り人を充足したり、結果販路が広がる、できる業務が広がるのであれば会社としても良い方向へ進むでしょう。

やっぱり会社が良くなってくのは従業員にとってもプラスになるので、私も含めて、従業員がどれだけ安心できるかを考えて決断しました。

次代に向けて、会社を守り技術を継承していくための事業承継を

ーーNYCとの事業承継が決まり、従業員の方々はどんな反応でしたか?我々が若いことに対してご不安を感じる方もいらっしゃったのではないかと思いますが

多分、不安を感じている人もいるでしょう。そもそも事業承継自体を伏せて動いていたので、話を聞いてびっくりされたと思います。

ただ、私一人が抜けるだけで会社そのものは今までと変わらない。ましてや同業者が譲受して相手のやり方に合わせるわけではないので安心してほしい、これから人を充足する方向で動くんだよと伝えて理解してもらったかなという印象です。

弊社は特に年齢層が高く私より年上の者もおりますので、20・30代の方とはあまりにもギャップがありすぎます。IT関連についても今のやり方、当たり前のようになっていることに我々がついていけない。ただ、そこは我々が合わせていくしかないでしょう。

ーー同業者のM&Aではないことで、社内でも安心感があったという話は意外でした。

NYCは同業者ではないので、弊社の業務内容については当然わからないでしょう。私が一番心配したのは、NYCに事業承継することで従業員が辞めてしまうことでした。技術職に関しては独り立ちするまでに5年程度かかります。現在5.6人の技術者がおりますが、誰かが抜けた穴を社内で補填するのは難しい。

現場は今まで通り従業員が対応するのでやることは大きく変わらない。結果的にNYCに事業承継することで離れていく従業員はいませんでした。弊社にとってもNYCにとってもお互い損失がない形に収まるのが一番良いかなと思いますね。

ーー技術職や職人の方を多く抱える中小企業ならではの事業承継の課題が多く見えてきました。同じように悩んでいらっしゃる中小企業の経営者も多いと感じますが、周りの方の反応はいかがでしたか?

経営者同士の仲でもこういった事業承継の話題はほとんどしないですね。特に同業者であればライバルでもあるのでなおさら漏らしてはならないと。今となっては話すこともありますが、介護の事情もあるので仕方がないね、といった反応です。

表に出てくる話題ではないですが、業界内でも事業の担い手がおらず廃業した、職人が複数人辞めてしまって事業の継続が難しくなったといった話も聞いているので、悩みを抱える経営者は多いでしょう。子供に後を継いでもらうパターンもありますが、技術職がゆえに喜んで引き受ける人はそう多くないかもしれません。

ーー我々の生活になくてはならない技術、業界全体を守って次の世代へ繋げていく必要がありますね。

従業員のことを考えながら、でも事業を継続させるために変えるべきところは変えていくとなると、私ひとりでできる範囲は限られてきてしまいます。DXといった話題に関しては私は全然わからないですし、知識もないですから。若い世代のNYCが入ったことで業務を改善していく、効率を上げていく点には期待しています。

一方で我々の業界は必ずしも効率だけを求めればいい仕事ができるわけではありません。例えば現在80代の従業員がいますが、中学を卒業してからいわゆる丁稚奉公のような形で技術を身に着け、今でも活躍してくれています。

どんなに時代が変わっても、我々の仕事は人の手なくして成り立たないです。現場に行き、今までの経験や知識を生かして悪いところを見つけて直していく。この点はこれからも変わらないですし、効率ばかりを重視して技術をないがしろにするわけにはいきません。

ーー事業承継を経て、今振り返って感じることや、事業承継について悩んでいる中小企業の経営者の方に伝えたいことはありますか?

今考えてみると、やはり同業者ではない事業承継でよかったと強く感じています。同業者によるM&Aとなると親会社・子会社という関係性になってしまうことで従業員の待遇面での不安や、顧客情報だけ奪われてしまうのではないかという心配もあったと思います。私にとっても従業員にとっても、大きな安心材料になりました。

また、事業承継を最終的に進めるにあたっては関係会社の了承を得る必要がありますが、そのパイプ役を担ってくれていた役員も退任する時期だったので、このタイミングで事業承継できたのは最後のチャンスだったかもしれません。

技術や販路の独立性は保ちつつ、NYCと手を組むことで他社や他業界と比較したり、効率化できるところは手を入れる、より良いものを見つけていくという選択もいいのではないでしょうか。

担当者の声

2024年1月末日をもって山田社長は退任され、11月末までは顧問としてお力添えいただきます。山田社長の後任として弊社シニアアソシエイト・梅本が代表取締役社長に就任し、テクノガード社を支援してまいります。

右:シニアアソシエイト梅本

シニアアソシエイト 梅本(テクノガード社 代表取締役社長)より
山田社長や創業社長が築いてきた技術力や取引先との信頼関係をしっかりと引き継ぎ、テクノガード社の強みをしっかりと守りつつもNYCとして+αで支援できることに取り組んでいきます。

特に人材不足は近々の課題です。弊社の他投資先・支援先での採用支援の実績・ノウハウを活かして、同社でも新規人材採用を進めてキャパシティ改善を実現したいと考えております。

▼NYC株式会社について

NYCは「中小企業投資の変革を通じて、昨日より良い社会を実現しよう」をミッションに、優れた技術やビジネスモデルを持つ優良企業であるにもかかわらず、事業承継ができない中小企業を対象に投資を行う投資会社です。

弊社YoutubeではNYCへの事業承継をご決断いただいた社長の皆様より、決断にいたったきっかけや譲渡後のリアルなお話を伺っております。ぜひ併せてご覧ください。

※記載内容は2024年2月時点の内容です。

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