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ノンアルコール白書~現状と考察~前編

コロナ禍における、ウィズコロナ、都心部以外に移り住もうという流れや、リモートワークなど、技術の進歩で、従来の社会のシステムからの変化が求められています。
ライフスタイルの新しい選択肢が「多様性」という形で、今提案されている状況で、当然われわれ飲食(特に酒類提供がビジネスモデル上、収益の柱になっているような)に関わる人間も、変化を求められます。

事実、これまで高い家賃を払って営業していた都市部のオフィス街は機能してませんし、大箱の低価格居酒屋チェーンは、撤退し始めています。

アフターコロナで予想されているのは、今まで何となく全員出席していた忘年会や新年会は、無くなる、もしくは出欠の可否を自分で選択できるような空気になったりする事です。
何となく仕事終わりに飲みに行き、2軒、3軒と、はしごしてもらうことで営業できていた飲食店は、生き残りが難しくなってくるでしょう。

私自身もノンアルコールに積極的に携わる環境にいなければ、バーテンダー=お酒を扱う、という職業柄、コロナが終われば通常通りに戻るだろうと言う感覚で過ごしていたかもしれません。

飲食に携わる人たちは、やみくもに危機感だけを持つのではなく、事実をしっかりと認識する必要があります。
ノンアルコールBARで働きながら、「モクテル、ノンアルコール、下戸、アルコールフリー」についてお話しさせていただく中で、
・大手酒類メーカー
・バーやレストランなどの同業者
・雑誌や新聞の記者さん
・一般のお客様(お酒が飲めたり、飲めなかったり)

話すテーマは同じでも、使う言葉は一緒でも、受け取り方や表現方法が全く違うことに気づきました。

これはあとになってわかったことですが、これらのテーマは多様性の中にあり、日本ではまだ未成熟なためにお互いの共通認識がなく、話していてもしっかりと噛み合っていないことが多かったのです。


奇しくも酒類提供ができなくなり、注目の的になったノンアルコール市場ですが、世界的なトレンドや、日本人がそもそも持つアルコール体質や文化、データとして表れている現実をしっかり把握することで、一般の方は今まで以上に広がる豊かな選択肢に触れることができ、飲食業などのプロは、これまで以上にお客様にホスピタリティーを提供できるように、記事を書かせていただきました。

最後まで読んでいただけたら幸いです。


日本人の飲酒状況


厚生労働省と国税庁が出しているデータを、見てみると色々な現状が見えてきます。

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日本の飲酒状況
・平成20年に1億2808万人であった人口が、減少過程に入ってきている。

・平成元年度以降、成人一人当たりの酒類消費量は、平成4年度の101.8リットルをピークに減少傾向、25年間で約2割程度減少している。

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・飲酒習慣のある人は、男女ともに30歳代から大幅に増加し70歳以上では減少する傾向が見られる。

・人口の構成の変化が酒類の消費に与える影響が大きい(ある程度の年齢以上の男性が好む飲み物で、高齢になると飲酒量が減少する、傾向がある)

・5000名以上を調査している程度なので調査の年によって若干のズレはありますが、週3日以上、日本酒で言うと1合以上飲酒する人の割合は、約2割程度で推移しています。

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酒類の国内出荷数量は平成10一年の101 70,000キロリットルをピークとして減少傾向、令和元年には、国内アルコール市場はピーク時の9割以下になっている。

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・令和元年の厚生労働省(令和元年国民健康、栄養調査)のデータによると、日本人の半分以上は、ほぼお酒を飲まない人たちで構成されている。

厚生労働省は週に3回以上飲酒し、飲酒1日あたり1合以上飲酒すると回答した人を「飲酒習慣のある人」と定義していますが、
実際のところ日本人の飲酒習慣のある人たちの割合は、3割に満たない。

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以上のデータをまとめると、平成4年をピークに成人一人あたりの飲酒量は減少し、それに加えて人口が減少&少子高齢化することによって、国内のお酒の需要の低下にも、拍車がかかっている。

お酒は年齢とともに、消費量が伸びる嗜好品と言う性質を持っていることから、今はまだこの程度の減少スピードだが(飲酒量)、これから飲酒量の低下は加速度的になる可能性がある。

多くの人がお酒を飲む印象があるが、実際に飲酒習慣と言う観点から見ると、お酒を飲まない人たちが過半数を占めている。

また、今までお酒を飲んでいた人たちも、コロナ禍で起きたライフスタイルの変化などにより、仕事の付き合いでお酒を飲むことが減る可能性があること。

以上のことを考えると、今まで通りの飲食店のあり方では、生き残ることが厳しくなりそうです。


日本人のアルコール体質

アルコールは、酵素によりアセトアルデヒドに分解されその後、酢酸に分解されます。

お酒を飲んだ際に、心臓がドキドキしたり、顔が赤くなったり、頭痛や吐き気などネガティブな症状が出るのは、このアセトアルデヒドが原因です。

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         出典:サントリーホームページ

昔よく言われた「飲めば強くなる」と言うのは、基本的には嘘になります。そもそも体内にアルコールを分解する酵素(ALDH2)、アセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH1B)、この2つが活性型でないと、強くなりません。

日本人の約47%がアセトアルデヒドを分解する酵素が欠損しています(うち4%は全く持っていません)

この遺伝的性質は日本人などのモンゴロイド特有のもので、アフリカ系やヨーロッパ系の人種の人は欠損率はほぼ0%です。

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         出典:サントリーホームページ

簡単に特徴を書いていくと、

Aタイプ(日本人の3%)
アルコールが長く体内に残るため、酔いやすいが、不快な症状が出にくく、酔うことが好きになりやすいタイプ。もっともアルコール依存症になりやすいタイプ。

Bタイプ(日本人の50%)
もっともアルコールに強いタイプで、アルコールの分解もアセトアルデヒドの分解も早い。

Cタイプ(日本人の3%)
アルコールに弱いが、強いと勘違いされてしまうタイプ。アルコールが体に長くとどまるためお酒が好きになりやすいタイプ。

Dタイプ(日本人の40%)
アルコールに弱く、すぐに顔が赤くなってしまうタイプ。アルコールの分解自体は早いので体が慣れると、多少飲めるようになる人もいるが、もともとの肝機能自体は変わらないので、健康問題が起こりやすいタイプ。

Eタイプ(日本人の4%)
汗とアルデヒドが分解できないタイプ。ごく少量のお酒でも不快な症状がすぐ起きてしまう。


ご自身がどのタイプか?を把握しておくだけで、無理なくお酒と付き合える手助けになるかもしれません。


※サントリーのYouTubeチャンネルで、非常に分かりやすい動画があったので下にリンクを貼っておきます。
https://youtu.be/ZIpGArEnmQg


様々なゲコノミスト


「ゲコノミスト」とは、投資家である藤野英人氏が、2020年に出版した「ゲコノミクス」と言う本の中に書かれている新しい言葉で、

ゲコノミスト=
「お酒を飲めない、飲まない、飲みたくない」人の総称です。

これまでは、
飲食店に来店するお酒が飲めない人=単純にお酒が弱い人と、ひとくくりにしてきましたが、
ノンアルコールバーで働く傍ら、様々なお客様と会話する中で、本当に多種多様な理由でいらっしゃるのを目の当たりにしてきました。

以下の文章では、非常に便利な言葉「ゲコノミスト」を使わせていただきます。

お酒が好きor嫌い、アルコールに強いor弱いという観点から分けていくと、

①お酒が好きで、アルコールにも強い
②お酒は好きだが、アルコールに弱い
③お酒が嫌いだが、体質的には飲める
④お酒は嫌いだし、体質的にも無理

※ここでいうお酒が好きというのは、お酒の味わいということに絞っています。

となります。

では、①〜④の中でゲコノミストに該当するのは、何番でしょうか?



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答え:①〜④全て

意地悪な問題ですが、実際お店にいらっしゃる方たちとお話しする中でわかった答えです。ゲコノミストと言われる人達は、一括りにできず、さまざまですが、順番に説明していきます。


①選択的ゲコノミスト
妊婦さんや、運転を控えているドライバーが代表的。その他にも、もっと仕事や自分の時間を大事にしたいので、あえてお酒をやめるという人たちも存在する。

②お酒が好きなゲコノミスト
お酒は好きだが、お酒が弱い。

③お酒が嫌いなゲコノミスト
体質的には飲めるけれど、お酒が嫌い。
嫌いな理由は様々ですが、過去の飲み会の席での出来事や、お酒を飲み過ぎてしまって、生活や体を壊した人などもいる。

④味も身体的にも、全く受け付けないゲコノミスト
お酒は嗜好品の一面もあるので、②に変わる人も稀にいる。

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前述した、円グラフでいう55%の人が、これに当てはまります。

お酒を飲める人や、BARや居酒屋、ソムリエさんに至るまで、ゲコノミスト(お酒を飲めない、飲まない、飲みたくない)の人たちを一括りに考えがちですが、
これほど多様性があるというのが事実です。


※飲めない人の様々な気持ちを、代弁していると同時に、ノンアルコール市場について詳しく書いてあるので、ぜひ読んでください。
↓↓↓↓↓↓

ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ! (日本経済新聞出版)   藤野英人 https://www.amazon.co.jp/dp/B087RFYGLP/ref=cm_sw_r_li_awdb_0PYGJ8VT5XN7A5B2314F

海外のノンアルコールトレンドと日本のトレンドの違い


今回の東京都の酒類の提供禁止で、注目されている「ノンアルコール飲料」ですが、実は海外では10年以上前から、このトレンドはありました。

もともと欧米(特にキリスト教圏)では、アルコールに対して社会的の目が厳しく、日本ほど寛容ではありませんでした。
また、白人や黒人はアセトアルデヒドに対しての酵素がしっかりあるので、日本人よりも飲酒量が多くなりがちで、アルコール依存症が社会問題となっていました。

海外の映画やドラマには、アルコール依存症について描かれるシーンも多いことから、その様子が伺えます。

そういった、アルコール依存に対しての脱却という意味でのノンアルコール需要もある一方、仕事後の社交の場がバーやパブから、スポーツや趣味の時間といった、酔いが似合わない場所へとシフトしている、と言う理由もあるそうです。

ところ変わって日本では、少し欧米とは様子が異なります。
というのも、日本では文化的に酔っ払うことに対しての世間の目は優しく(欧米に比べ)、欧米人のようにアルコール依存症になるまでお酒を飲むことができない人が多いという、全く違う状況でした。

ところが数年前から、アルコールを摂取することをやめる人が増えはじめ、2020年コロナ禍において一気に注目し始められました。
これは世の中の働き方やライフスタイル、強制的な飲み会など様々な、今までお酒を摂取していたシーンが変化したことによって、日本人の体質に合った、本来あるべき数字になりつつあるというようにに捉えられます。

大手メーカーも、ノンアルコール市場に対しての動きを活発化させ始めていることから、コロナが終わってノンアルコールの需要が終わるのではなく、逆に加速していく流れになりそうです。



【世界でのノンアルコールトレンド】の流れ

2012年ごろから日本のノンアルコールビールがアメリカ市場に輸出され、完全ノンアルコールはアメリカ人にとって画期的なことでした。
(アメリカの酒造法では、0.5%以下ノンアルコールになるため、多くの商品が多少のアルコールを含んでいた)

2015年には、イギリスでシードリップというノンアルコールジンが発売され、世界でも有数のBARがひしめくロンドンでは、バーのメニューにノンアルコールメニューがあることが1つのトレンドになってきました。

2018年頃になると、アメリカのニューヨークでも本格的にノンアルコールorアルコールフリーメニューがBARでも登場しはじめました。

2019年には、世界でも最大規模のバーの見本市BCB (バー・コンベント・ベルリン)ではノンアルコールが最大の注目されたカテゴリとなりました。


前編まとめ

この記事では、ノンアルコール市場や、これから必須になってくるノンアルコールカクテルやアルコールフリー飲料を語るうえで必要な、

・日本でのお酒の立ち位置と変化

・一括りにされてきた、ゲコノミストと言われる人たちの本当の姿

・世界のトレンドと日本に確実にやってくる変化

について、お話しさせていただきました。こういった正しい情報を知る事で、いろいろな人たちが生活しやすい環境になっていくことになるでしょう。

お酒を商売の柱にしている人からすると、目を覆いたくなるような事実がデータとして表れていますが、正しく備え、お酒が人間の文化に寄与してきた様々な効果を本質的にとらえれば、今までは全く関係のなかった人たちにも、アプローチできるかもしれないという兆しが見えます。

後編では、この記事をふまえて考えられる事について書きたいと思います。


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